軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ホカホカ美味しいホットサンド

「……何だそれ」

おはようの挨拶よりも先に、カミールはそんな台詞を口にした。そんなカミールを振り返り、 悠利(ゆうり) はにこっと笑って朝の挨拶を口にした。

「おはよう、カミール」

「あぁうん、おはよう。……で、それ何? そんなんあったっけ?」

そう言ってカミールが指差したのは、悠利が手にしているちょっと変わったフライパンだった。四角いフライパンである。それだけでなく、二枚のフライパンをくっつけたような不思議な物体なのだ。少なくともカミールの記憶にはそんな道具はない。

その指摘を予想していた悠利は、にっこり笑顔でこう答えた。

「欲しいなって思ったから、ハローズさんに頼んで知り合いの職人さんに作って貰った」

「またかよ……!」

「だってー、ホットサンド作るなら専用のフライパンがある方が良いんだもんー」

打てば響くようなカミールのツッコミに、悠利は唇を尖らせてぼやいた。そう、悠利が作って貰ったのは、ホットサンド用のフライパンである。ホットサンドメーカーを作ろうとしなかっただけ自重したと思ってほしい。多分。

とはいえ、食べたい料理のために悠利が道具やら材料やらを求めるのは今に始まったことではないので、カミールの立ち直りは早かった。

「で、そのホットサンドって何?」

「ざっくり言うと、焼いたサンドイッチ」

「……サンドイッチを、焼く……?」

何だそれと言いたげなカミールに、悠利は他に説明の仕方がないんだよなぁという顔になった。実際、ホットサンドはサンドイッチをフライパンで挟んで焼く料理である。なので、サンドイッチを焼くとしか言えないのだ。

「サンドイッチを焼く料理があって、それを作るためにその挟んで焼く感じのフライパンがいるのは解った」

「解ってくれた?」

「解ったけど、焼く意味とは」

何でわざわざサンドイッチを焼くのか、とカミールは疑問を口にする。パンを焼いて食べるのは馴染みがある。トーストが美味しいことも知っている。だが、サンドイッチは具材を柔らかなパンに挟んで食べるものではないのか、という気持ちなのだ。

あと、カミールが知っているサンドイッチの大半が、野菜を挟んで作っている。火を入れると食感が変わりそうだし、わざわざ焼く必要がどこにあるのかが解らないのだ。

そんなカミールに、悠利はきっぱりと答えた。自信満々に。

「美味しいからです」

「……えーっと」

「美味しいからです。大丈夫、ホットサンドはちゃんと美味しい料理だから。安心して良いよ」

「……解った」

悠利が言うならという感じの納得の仕方だった。実際、今までそういう感じで見知らぬ料理に触れてきたカミールなので、順応するのも早かった。

あと、ホットサンド用のフライパンを手にした悠利の姿を見れば、今日の朝食がホットサンドであるのは疑いようがなかった。それなら、ここでうだうだ言って時間を無駄にするのも馬鹿らしいと思ったのだ。皆の朝食を作らなければならないのだから。

「じゃあ、俺は何をすれば良いんだ?」

「トマトを輪切りにしてください」

「トマト? トマト挟むのか?」

「具材はハムとトマトとチーズです」

にっこりと笑う悠利に、カミールはちょっとだけ動きを止めた。ハムとチーズはまだ良いが、トマトを焼くってどういう感じになるのだろうと思ったのだ。ただ、チーズを載せたトマトを焼いた料理を食べたこともあるので、まぁ良いかとすぐに立ち直る。

「輪切りにするのは良いけど、厚みはどれぐらい?」

「んー、あんまり分厚くない感じで。サンドイッチに使う厚みは解る?」

「何となく。食べ応えはあるけど、分厚くなりすぎて挟めないとかじゃないやつだろ」

「そうそう。よろしくお願いします」

「任されました」

厚みの説明が出来たので、カミールはトマトを洗ってスライスし始める。それを見て、悠利も作業に取りかかる。ハムとチーズは使いやすいようにスライスして保存してあるので、改めて切る必要はない。なので悠利が切るのは、食パンである。

ホットサンドにするということは、二枚を重ねて食べるということになる。なので、厚みは控えめだ。普段サンドイッチを作っているときと同じぐらいに切っていく。トーストで食べるよりも薄く切るのは、ホットサンド用のフライパンにちゃんと挟まるようにするためだ。

分厚いパンで作ったホットサンドも美味しいかもしれないが、挟んで焼くという性質上あまり分厚いとちゃんとフライパンが閉まらないのだ。そうなると焼きムラが出来て美味しくないので、厚みはほどほどに仕上げるのである。

切るだけの作業は二人ともそれなりに手早く終わらせることが出来た。やはり、日々料理当番として作業をしていることで、カミールの腕前も上がっているようだ。何気ない作業の進捗が大変良い。

「具材が切れたら、サンドイッチを作ります」

「はい、せんせー」

「何でしょうか」

「今日はマヨネーズとか塗らないんですか?」

「今日はハムとチーズの味で食べるので調味料は使いません」

戯けたようなカミールの問いかけに、悠利も戯けて答えた。先生と生徒みたいな雰囲気を出しているのは、彼らが時々やる遊びである。朝から仲良しだ。

普段のサンドイッチはバターやマヨネーズを塗って下味を付けるのだが、今日はそれをしないと悠利は告げる。中に挟む具材がハムとチーズなので、その味で問題なく食べられるだろうと思ったのだ。

それと、理由はもう一つあった。

「焼くときにフライパンにバターを塗るから、表面がバターでこんがり焼き上がる予定なんだよね」

「あ、それめっちゃ美味い気配がする」

「焼きたてのカリカリ状態は香ばしいしバターの風味が染みこんでるので、美味しいです」

悠利の説明を聞いたカミールは俄然やる気を出した。美味しいのが確定しているじゃないか、という気持ちらしい。二人でせっせとハム、トマト、チーズのサンドイッチを作っていく。慣れた作業なので特に問題は何もない。

いつもならば、具材を挟んだサンドイッチは半分か四分の一にカットする。その方が食べやすいからだ。けれど今日はホットサンドなので、カットする前にやる作業があった。

「それじゃあ、このサンドイッチをホットサンド用のフライパンに挟んで焼きます」

そう告げて、悠利は柔らかくしたバターを丁寧に塗り込んだフライパンにサンドイッチをはめ込んだ。はみ出ないように確認し、しっかりとはめ込んだら上部分のフライパンできっちりと蓋をする。

持ち手の部分に金具が付いており、二つのフライパンをガチッと固定できる。その状態にしてから悠利はフライパンをコンロに乗せた。中火で片面を焼き、香ばしい匂いがしてきたらひっくり返して反対も焼く。

そうして両面を焼いた後、フライパンをコンロから下ろす。金具を外してフライパンをぱかりと開ければ、こんがりとキツネ色の焼き色が付いたサンドイッチがお目見えだった。見事にホットサンドになっている。

「トーストみたいな焼き色だな」

「まぁ、パンを焼いてるので」

「バターの匂いめっちゃする」

「美味しそうな匂いだよねー」

「うん」

じぃっとフライパンの中のホットサンドを見つめているカミール。それを横目に悠利はホットサンドをまな板の上に置き、ザクリと包丁を入れて半分に切った。……なお、手で押さえるのは熱いので、菜箸で押さえている。

半分に切られたホットサンドの断面は、トマトとハムの色味が鮮やかで、そして、焼きたてホカホカのとろとろチーズが零れてくるのが何とも言えずに美味しそうだった。視覚から訴えてくるパワーがある。

そのホットサンドを皿に載せると、悠利はどうぞと言うようにカミールに差し出した。……なお、キノコたっぷりのコンソメスープとカットフルーツも一緒に用意する。本日の朝食である。

「……え?」

「チーズ入ってるから、温かい間に食べて。僕は自分の分を焼くから」

「あ、うん。いただきます」

「はい、どうぞー」

作業に入る悠利に促され、カミールは用意された自分用のホットサンドを手に取った。いつ誰が起きてくるか解らないので台所スペースの作業台をテーブル代わりにしているが、まぁよくあることなので気にしない。

熱々ホカホカのホットサンドを、カミールはそっと手に取った。何とか手で持てるぐらいの温度になっている。だが、断面からは湯気が出ており、チーズのとろとろ具合からも熱いだろうと予想は出来た。

火傷をしないように気をつけて、そろりとホットサンドを囓る。囓った瞬間に感じるのは、焼いたことによるパンの食感だ。ザクリと歯を立てる感覚が、何とも言えず食べ応えを予感させる。そのまま噛み切れば、中の具材もろとも口の中に旨味が広がる。

バターで焼いたパンの香ばしさに、トマトの瑞々しさが彩りを添える。ハムの塩味が丁度良い具合に味付けになっており、どこを食べても味がする。また、とろりと溶けたチーズが全ての具材に絡んで包み込むようにすることによって、口の中で複数の味が調和するのがまた良い。

普段食べているサンドイッチとはまた違った味わいだった。この具材を挟んだサンドイッチを食べたことはあるけれど、ホットサンドはまったく別の料理へと変化している。その最たるものがやはり、チーズの存在感だろう。

いつものサンドイッチにチーズを入れるときは、塊のままのチーズを堪能している。チーズはそのまま食べても美味しいし、その旨味が味わいになっているのは事実だった。

けれど、今、とろりと溶けたチーズがサンドイッチで存在感を増すことを知ってしまった。コレは間違いなく、チーズが美味しい。

「ユーリ、これ、チーズがめっちゃ美味い!」

「溶けたチーズとパンの相性は最高でしょ?」

「最高! あと、焼いたパンのサンドイッチってのも楽しいな。食感がいつもと違うし」

「これはこれで美味しいんだよねー」

悠利もカミールも、サンドイッチとホットサンドの間に優劣は付けない。だってどちらも美味しいのだから。重要なのは、今日作ったトマトとハムとチーズのホットサンドが、大変美味しいということである。

もぐもぐとカミールが朝食を堪能している間に、悠利も自分の分のホットサンドを作り上げて食べる準備を調える。仲間達が起きてくる前に朝ご飯を食べるのはよくあることなので。

キノコたっぷりのコンソメスープも滋養に満ちているが、やはり作りたてのホットサンドの魅力には叶わない。溶けたチーズの他にはない食感を楽しみつつ、ホットサンドならではの温かいトマトの風味も悠利は堪能した。

トマトは生で食べることが多いけれど、火を入れても美味しい食材だ。トマトソースやラタトゥイユのように煮込んだものも良いし、炒め物に入れても良い。シンプルに焼いてチーズをかけて楽しむのも最高だ。

だから、その火の通ったトマトの美味しさを堪能出来るホットサンドに、悠利はご満悦なのである。火を入れたことで皮まで柔らかくなっており、簡単にかみ切れて口の中に旨味を広げてくれる。チーズやハムとの相性も良いので、味が喧嘩をしないのもポイントだ。

「これだよねぇ……。朝から温かいホットサンドを食べるっていうの、最高の贅沢……」

「焼きたてを味わえるところがめっちゃ良い」

「だよねー」

顔を見合わせてにこにこ笑う悠利とカミール。美味しいものは美味しい。それ以外の答えはいらない。朝ご飯を堪能している二人だった。

そうこうしていると仲間達がちらほらと起床してくる。おはようと爽やかに挨拶をしてくれる仲間達の姿を見て、手早く朝食を終えていた二人は張り切ってホットサンドを作り出す。

……そう、ホットサンド用のフライパンは二つあるのだ。一つじゃ絶対に作業が追いつかないと思った悠利が、ひとまず二つ準備して貰ったからである。

サンドイッチをフライパンに挟んで焼く、という見慣れない行動をしている悠利とカミールの姿を、朝食を貰いに来た仲間達は不思議そうな顔で見る。また見慣れない道具で見慣れない料理を作って、みたいな感じであった。

なお、アリーには事前に話を通してあるので、起きてきた保護者殿は悠利の行動に特に何も言わなかった。……新しい道具を作って貰いました報告をしたときには、権利問題その他はちゃんとハローズと相談しろというお小言は貰ったが。

提供されたホットサンドを、仲間達は火傷しないように気をつけながら食べた。食べて、そして、これが美味しいというのを心に刻んだらしい。普段のサンドイッチも美味しいが、一手間加えたホットサンドもまた美味しかったのだ。

そんな中で、特にホットサンドの美味しさを噛みしめている人物がいた。アロールである。彼女はチーズが好きなので、ホットサンド特有の溶けたチーズを堪能出来るサンドイッチというのがお気に召したらしい。

しかし、色々とお年頃でもある十歳児は、特に言葉にすることはなかった。ただ、普段はあまり喜びの感情を見せないアロールの口元が幸せそうに笑んでいるので、周囲は気に入ったんだなと思っているわけである。

不躾に当人に告げて朝っぱらから気分を害するような者はいない。カミールはちょこちょこアロールをからかうところのある少年だが、じゃれるの範疇で収まるかどうかをきちんと理解しているので、今朝はいじらなかった。

まったり過ごしているおやつの時間とか、その後に余裕がある昼食や夕食のときは多少声をかけるが、忙しい朝にそんなことはしないのだ。……あと、皆のホットサンドを作るのに忙しいのもあった。

「ユーリ、お願いがあるんだけど」

「何? どうしたの、レレイ?」

「お代わりの分、今から焼いといて!」

「……まだ一口も食べてないよ、レレイ」

はいどうぞとレレイの分の朝食を渡した瞬間に言われた言葉だったので、悠利は思わず呆れたようにツッコミを入れた。そんな悠利に対して、レレイは真剣な顔で告げた。彼女なりの真剣な事情を。

「だって、熱いとすぐに食べられないじゃん! これもちょっと冷まさなきゃ無理だし……」

「……あー、うん、まぁ、そっか。用意します」

「ありがとう! 美味しそうだね!」

食べてなくとも匂いで美味しそうだと理解したのか、レレイは満面の笑みを残して席に向かった。猫舌って大変だねぇと思いながら、悠利はレレイのお代わり分を作るためにフライパンを手にするのだった。

あちこちから美味しいという声が聞こえてくる。ホットサンドは初めての試みだったが、皆のお口にあったらしいと理解して、悠利の表情は幸せそうに緩んだ。仲間達が美味しく食べてくれるのが嬉しいからだ。

そんな風に緩んだ顔をしていた悠利だが、突然足下から聞こえた音に不思議そうに視線をそちらに向けた。

「シャー」

「え? あ、ナージャさん? どうかしました?」

そこにいたのは、アロールの従魔のナージャだった。小さな白蛇の姿に擬態している出来る従魔は、じぃっと悠利を見上げている。感情の読めない爬虫類の瞳で見つめられても、悠利には何のことやらさっぱり解らない。

悠利に言葉が通じないのを理解しているナージャは、行動で意思を示した。尾ですいっとホットサンドを示し、続いて食事中のアロールの方を示す。ナージャの行動は基本的にアロールに関することなので、食堂の方へ尾が向いただけでアロールについてだろうなと判断したのだ。

その後、再び悠利をじぃっと見つめるナージャ。その真剣な雰囲気に、悠利は何が言いたいのかを何となく察した。

「……解りました。アロールが気に入ったっぽいから、また作ってあげてほしいってことですね、ナージャさん」

「シャー」

その通りだと言いたげにナージャはこくりと頷いた。出来る従魔もとい過保護な従魔は、庇護対象であるアロールに大変甘かった。なかなか食事の好みを自分で伝えないアロールに変わって、主のお気に入りの料理を作れと訴えてくるのは今に始まったことではないのだ。

まぁ、誰か一人のために特別メニューを作るのは大変だが、皆が喜ぶ料理を作るのは問題ない。だから、またホットサンドを作ることがあっても問題はないのだ。別に依怙贔屓ではないので。

悠利に自分の意見が伝わったと理解したナージャは、そのままアロールの元へと戻っていった。食事中の主を邪魔しないように、アロールの座る椅子の下で蜷局を巻いている。マイペースである。

そんな一連の流れを見ていたカミールが、ぼそりと呟いた。

「ナージャって、利口通り越して賢すぎねぇ……?」

「ナージャさんのアレは、賢いってのとはまた違うと思うんだよねぇ……」

「世話焼きだよなぁ……」

「うん……」

本来、従魔は主に世話をされる側のはずだ。だと言うのに、ナージャは完全にアロールの世話をしている側である。元々お目付役というか保護者みたいな感じで側にいるらしいので、今更かもしれないが。

とりあえず、ホットサンドは仲間達に好評で、今朝もしっかり朝食を食べて貰えた。朝ご飯を食べるのは大切だと思っている悠利なので、良かった良かったとご満悦であった。

なお、後日ホットサンドを食べたハローズおじさんによって、ホットサンド用のフライパンは正式に販売されることになるのでした。わりといつものことです。