軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食材提供者にご報告です

その日 悠利(ゆうり) は、お目付役兼護衛のリヒトを伴って採取ダンジョン収穫の箱庭に足を運んでいた。料理祭で出すメニューが決まったので、食材を提供してくれるマギサへの報告も兼ねて遊びに来たのだ。

悠利をお友達と認識しているマギサは、ダンジョンマスター権限でいつもいつも美味しい食材をお土産として用意してくれる。自分達で料理を作ってお祭りに参加するのだと伝えたところ、自分の食材を使ってほしいと言って色々と便宜を図ってくれることになったのだ。

マギサは人間が好きで、人間と交流するのが大好きだ。ダンジョンから出られないダンジョンマスターなので、悠利達のお役に立つことでお祭りに間接的に参加するという状況を楽しみたいらしい。能力はダンジョンマスターらしくずば抜けているのだが、マギサの内面はその見た目通りに無邪気な幼児であり、嬉しいこと、楽しいこと、大好きな人たちが喜んでくれることに全力を尽くすのだ。

「マギサー、こんにちはー」

「ユーリ、イラッシャイ!」

「キュピー」

「ルークスモ、イラッシャイ!」

顔パス状態でダンジョンコアのあるダンジョンの中枢に足を踏み入れた悠利は、いつも通りののほほんとした口調で挨拶をした。もはや完全に友達の家に遊びに来た感じである。しかし、出迎えるマギサも同じ調子だったので、特に違和感はなかった。

そう、見た目だけならば、別に違和感はないのだ。ぽやぽやした少年が、お友達であるぽやぽやした幼児に挨拶しているだけである。……少年が規格外の鑑定能力の持ち主であるとか、幼児の方がダンジョンマスターであるとか、その足下で自分も挨拶をしている愛らしいスライムが超レア種の更に変異種で 名前持ち(ネームド) という規格外のコンボであるとか、そういうことに目をつむれば。

ちなみに、一生懸命そういう部分に目をつむって、(何も知らなければ微笑ましい光景なんだよなぁ……)となっているのが、リヒトである。常識人のお兄さんには、何で毎度毎度自分が同行者に選ばれるのかと嘆きたいぐらいに、ぶっ飛んだメンバーの光景だった。

なお、何故リヒトが同行者に選ばれているかというと、理由はとても単純だった。

「ア、オ兄サンダ! イラッシャイ! 来テクレテ嬉シイ!」

「……こんにちは」

「コンニチハ!」

わーい、遊びに来てくれたー! みたいなテンションでリヒトを歓迎しているマギサ。何故か知らないが、マギサはリヒトが大好きだった。特に何をしたわけでもないのに思いっきり懐かれているこの状況に、リヒトが困惑するぐらいだ。

まぁつまりは、リヒトが同行者に選ばれているのはこれが理由だ。どれだけフレンドリーだろうとも、相手は人知及ばぬダンジョンマスターである。できる限り相手が喜ぶようにしていくのが得策だろうということだった。

とはいえ、そんな大人の事情などは悠利にもマギサにも関係がなかった。色々と考えるのは大人のお仕事で、子供の彼らはお友達に会えて嬉しいという状況を楽しんでいるだけである。

「オ祭リノ準備、出来タ?」

「うん、メニューは決まったし、試作品もちゃんと作れるようになったんだ。今日はマギサに見せようと思って、持ってきたよ」

「楽シミ!」

にこにこ笑顔で説明する悠利に、マギサもにこにこ笑顔だった。相変わらず目深に被ったフードのせいで目元は見えないが、口元だけでも喜んでいるのが伝わっている。お友達が嬉しそうなので、ルークスも楽しそうにぽよんぽよんと跳ねていた。

悠利が食べ物を持ってきてくれたのを確認したマギサは、そのまま目の前にテーブルセットを生み出した。ここはダンジョンコアの部屋なので家財道具などは存在しないが、ダンジョンマスターであるマギサならば好きにレイアウト可能なのである。

突如目の前にテーブルセットが現れるという衝撃の光景だが、悠利にとってはいつものことなので普通の顔だった。ルークスも同じく。そして悲しいかな、何度も何度も悠利に同行しているリヒトにとっても見慣れた光景であった。

ダンジョンマスターが出来ることというのは、どれだけの力を有しているのかということで決まる。ダンジョンコアにエネルギーが満ちていれば、コアと命を共有するダンジョンマスターが使えるエネルギーも多くなるのだ。そういう意味で、このダンジョンはエネルギーに満ちていた。

ダンジョンコアのエネルギーの源は、ダンジョンに足を踏み入れる者達の生命力である。とはいえ、殺す勢いで生命力を吸い尽くすというのではなく、領域内に入ってきた人々から少しずつエネルギーを貰うという感じである。特にここは人間に友好的なダンジョンなので、安全設計だ。

つまりは、その理屈で言うと人の出入りの多いダンジョンはエネルギーが溜まりやすいということになる。そしてここは、王都ドラヘルンから徒歩で来られるようなご近所にあるダンジョンである。ついでに、王都住民の認識は色んな食材が採れる農園である。……このダンジョンに足を踏み入れるのを躊躇う者はいなかった。むしろ、喜んでやってくる。

更にいうと、ダンジョンに人間を呼び込むためのドロップ品、この場合は食材であるが、それを出すためにエネルギーを使うと言っても、食材なのでコストが低い。周辺住民の需要に応えているだけなのだが、物凄く低コストで大量の客を呼び込めているという色々とアレなダンジョンだった。

閑話休題。

とにかく、マギサは皆で座ってお話が出来るテーブルセットを用意してくれた。用意してくれたのだから、座らねばなるまい。促されるままに、悠利とリヒトは席に着いた。勿論、ルークスも。

「ソレデ、何ヲ持ッテキテクレタノ?」

「ウインナーの入ってるミニアメリカンドッグっていう軽食系のものと、串に刺した果物に飴を絡ませたフルーツ飴っていうものだよ」

「ワァ……!」

悠利がテーブルの上に並べた器を見て、マギサは顔を輝かせた。感動を示すように口元に手を持っていっている。その愛らしい姿に思わず悠利の表情も綻んだ。

皆で食べようと思って、大きな器に山盛りで入っているミニアメリカンドッグ。大皿に並べられているフルーツ飴。大量のインパクトがあるミニアメリカンドッグと、彩りが鮮やかで目に楽しいフルーツ飴の二つが並んでいる。

どっちから食べようと悩むように二つの皿を見比べているマギサに、悠利は思わず笑ってしまった。まるで物凄いお宝を見つけたみたいな反応をするのが、どうにも可愛らしくて仕方ないのだ。相手はダンジョンマスターだが、いや、ダンジョンマスターだと知っているからこそ、妙に微笑ましいのである。

「マギサの好きな方から食べて良いよ。このフルーツ飴は、マギサの果物で作ってあるよ」

「ジャア、ソッチカラ!」

自分が悠利に渡した果物が使われていると聞いて、マギサは嬉しそうにフルーツ飴の皿に向き直った。じぃっと皿を見ているのは、色々な種類がある中からどれを食べようか考えているからだろう。大変愛らしい。

しばらく眺めた後、マギサは嬉しそうにマスカットのフルーツ飴を手に取った。鮮やかな黄緑がキラキラして見えるのか、串を手に取ったマギサはすぐに食べることはせず、かざすようにしてフルーツ飴を見ている。

一通り満足そうに眺めて気が済んだのか、マギサはぱくりとマスカットのフルーツ飴を口に含んだ。少しして、ガリガリという飴を砕く音が聞こえて、マギサが口から串を外す。そのままもごもごと口を動かしているので、一つだけ口に入れたのだろう。

果物は食べ慣れているマギサだが、パリパリの飴を食べることはないので、食感の違いに身体を小刻みに揺すっていた。マギサは嬉しいことや楽しいことがあるとくるくる回るクセがあるので、それに類する反応だろう。ひとまず、喜んでいることは悠利達にも伝わった。

特に急かすことはなく、悠利はマギサが食べ終わるのを待っている。少なくとも、口の中のフルーツ飴を食べきって、マギサが口を開くまで待つことにしたのだ。しっかり味わってほしかったので。

薄い飴のパリパリとした食感と、マスカットの弾力がありながらもジューシーな食感をマギサは堪能していた。マスカットは甘さはあるが後に引かない爽やかな甘さで、そこに薄いとはいえ確かな甘味を主張する飴の存在感が何とも言えないバランスだった。

「ユーリ、コレ、凄イネ!」

「気に入った、マギサ?」

「ウン! 僕ノ果物、違ウ食ベ物ミタイ!」

嬉しいと全身で示すマギサに、良かったと悠利は笑った。食材提供者だからというだけでなく、悠利はこの可愛らしい友人が喜んでくれるのが何より嬉しいのだ。

そのまま串に残ったフルーツ飴もマギサはぱくぱくと食べた。飴は薄いので簡単にかみ砕けるし、マスカットも一口で食べられるようなサイズのものを選んでいるので、小さなマギサの口でも食べやすいのだ。

そうしてフルーツ飴を一本食べ終わると、マギサは視線をミニアメリカンドッグに向けた。これは何だろう? と言いたげに首を傾げている。悠利からさっくりと説明を受けたが、見たこともない食べ物なのでどういうものか気になるのだろう。

そんなマギサに、悠利は持ってきた串でぷすりとミニアメリカンドッグを刺して手渡した。手で摘まんでも良いし、フォークで食べても良いのだが、よりお祭りのときに近い状態で食べるなら串だろうと思ったのだ。

差し出された串に刺さったミニアメリカンドッグを、マギサは素直に受け取った。じぃっと見つめる(相変わらず目元が隠れているので目は見えないが)マギサは、やがて小さな口をあーんと開けてミニアメリカンドッグを囓った。

囓った瞬間、マギサは驚いたように動きを止めた。見た目からパンのような何かを想像していたのだろう。しかし、ミニアメリカンドッグの生地はほんのりと甘い。甘くて柔らかな生地にほわほわしていると、ウインナーが肉としての存在感を主張してくるのだ。

噛んだことによりウインナーの肉汁がより確かに口の中に広がり、それを受け止める生地の甘さと混ざり合って甘塩っぱいを作り上げる。甘いでも塩っぱいでもない、その二つの絶妙なバランスで成り立つ味は、マギサの口にも合ったらしい。ぱぁっと笑みが浮かぶ。

「コレモ美味シイ!」

「それなら良かった。いっぱい食べてね」

「ウン! ユーリ達モ食ベテ」

「ありがとう。一緒に食べようね」

「一緒!」

悠利の言葉に、マギサは嬉しそうに笑った。普段一人ぼっちで過ごしているマギサなので、こうやってお友達と一緒に何かが出来ることが嬉しくて仕方ないのだろう。ましてや、大好きなお友達である悠利とルークスに加えて、大好きなお兄さんであるリヒトまでいるのだ。ご機嫌だった。

ゴーサインが出たので、ルークスもちょろりと身体の一部を伸ばしてフルーツ飴を食べ始める。スライムのルークスは、大好きな悠利が食べているのと同じものを食べるというのが好きなのだ。それでも、ミニアメリカンドッグではなくフルーツ飴を取ったのがルークスなりの拘りなのだろう。

どういう拘りかといえば、使われている果物がマギサの生み出したものだから、という部分だ。大好きな主である悠利が作った、大好きなお友達であるマギサの果物を使ったお菓子だから、ということである。大変解りやすい。

キュイキュイと楽しそうに鳴きながらルークスはフルーツ飴を食べている。その姿を可愛いなぁと見つめながら、悠利もフルーツ飴に手を伸ばす。リンゴのフルーツ飴のシャクシャクした食感を堪能しつつ、悠利はぼそりと呟いた。

「そういえば、小さいリンゴってないのかな」

「エ?」

「ユーリ、何を言い出してるんだ……?」

「あ、いえ、普通のリンゴよりも小さいリンゴがあったら、丸ごとリンゴ飴に出来るのになーと思って」

にへっと笑う悠利に、リヒトは何とも言えない顔をした。そしてそのまま、がっくりと肩を落とした。リヒトの反応の意味が解らなくて、悠利は首を傾げる。

「リヒトさん?」

「……良いんだ。何か起きても今回はまだ平和そうだから……」

「はい?」

もう既に何かが起きると確信しているようなリヒトの言葉だった。悠利は不思議そうにしているが、そんな2人の反応などお構いなしにマギサが口を開く。

「小サイリンゴ……。ドレクライ?」

「え?」

「ドレクライノヤツ?」

不思議そうに問いかけるマギサに、悠利は少し考えてから指で丸を作った。ちょうど、親指と人差し指でくるりと作れる程度の大きさだ。

「これぐらいかなぁ? そのまま囓ってもそんなに負担にならないような大きさなんだけど」

「エット……」

「僕の故郷では姫リンゴって呼ばれてたんだよね」

悠利の言葉を聞いたマギサは、少し何かを考えているようだった。しばらくして、両手の間に何かを生み出した。それは、紛れもないリンゴであった。

「あ、それ」

「コレノコトカナ? 小サナリンゴ」

「それぐらいの大きさのリンゴだね。そのまま食べても大丈夫?」

「ウン、リンゴダカラ」

マギサが生み出したのは、悠利が示した大きさのリンゴだった。現代日本で姫リンゴと呼ばれているものに似ているような気がする。どうぞと手渡されて、悠利は素直に受け取った。

「コレモ、飴ニスル?」

「出来たら良いなって思うんだけど、これも貰える?」

「イイヨ」

目当ての食材が手に入るのが解ってうきうきの悠利。悠利が喜んでくれるので嬉しそうなマギサ。大好きな主人と大好きな友達が嬉しそうなのでご機嫌なルークス。愛らしく微笑ましい光景だった。

ただ一人、普段表に出ていない食材を引っ張り出したという事実を理解して、怒られるかなぁ? と頭を抱えているリヒトがいるだけである。まぁ、そこまで大事にはならないだろうが。それでもツッコミは貰いそうだった。

しかし、悠利達はそんなリヒトの考えになど気づいていないので、のほほんと会話を続けている。

「ところでマギサ、何で普段はこれ、表に出してないの? 見たことないんだけど」

「小サイカラ」

「へ?」

「大キイ方ガ皆、喜ブカラ」

「……あー、なるほど」

マギサの答えに、悠利は納得したように頷いた。収穫の箱庭で手に入る食材は、日替わりの完全ランダムである。その上で、何度も足を運んでいる悠利がこの小さなリンゴを見たことがなかった理由は、今マギサが語った通りだった。来訪者達が大きい食材の方が喜ぶので、自然と小さな種類は出さないようになっていたらしい。

マギサは植物系ドロップ品なら何でも出せるという強みを持っている。人間にいっぱい来て貰うなら彼らが喜ぶものを用意するという考えから、食材になるものばかりを用意しているだけなのだ。食材以外にも、薬草や毒草だってマギサは出せる。割りと何でも生み出せるので、見たことがなくても聞いてみたら生み出せるとかは普通にあるのだ。

特に需要がないので表に出していなかった小さなリンゴであるが、悠利が求めるなら食材として提供しようというのがマギサの考えだ。悠利が見せるメモを一緒に見ながら、何がどれだけ必要かを確認している姿は可愛らしいが。

「とりあえず皆と相談して必要だろう果物はこんな感じなんだけど、大丈夫?」

「大丈夫」

「じゃあ、帰るときに用意して貰って良いかな」

「ウン、任セテ」

お友達に頼られるのが嬉しいというのと、自分も間接的にお祭りに参加出来る喜びとで、マギサはとてもとてもご機嫌だった。……いつもなら、胃が痛そうな顔をするリヒトに気づいたら気遣うように薬草を差し出してくるのだが、今はリヒトの状態に気づかないぐらいに楽しそうだった。

キリキリとちょっぴり痛む胃を押さえながら、リヒトは長く長く息を吐き出した。あくまでもお祭りに参加するための食材として提供して貰うだけだし、マギサの意思で外に出していなかっただけでヤバい食材でもないので大丈夫だろう、と。今日はまだ平和だったと噛みしめるリヒトの横顔は、ちょっぴり疲れていた。

なお、見慣れぬ小さなリンゴを持ち帰った悠利に対する仲間達の感想は「その大きさの練習したことないんだけど!?」であった。練習用も貰ってきたので大丈夫です。当日までに頑張って練習しましょう。