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双子の妹が神子だったので

作者: 高月水都

本文

私の国のある神話。

神様は、人々を全部見るのが難しくて、小さな生き物が動いているとしか認識できない。だから時折、自分の目となる神の子供……神子を送る。

神子を通して世界を見て世界の安定を維持している。

だから、神子を大事にしないといけない。神子にたくさん愛を注がないといけない。

私の双子の妹はその神子だった。

「で、生まれてすぐに妹さんは丁重に扱わないといけないと乳母が育てるはずだったのを侯爵夫人直々に育ててきた……と」

「さいわい、乳母が私を育ててくれていたし、乳母も私を大切に育ててくれたんだ」

乳母はわたしに優しく、そして、厳しく育ててくれた。

「知識は力だ。知識を持って、その知識を活用すれば、どんな困難も乗り越えられる。才能があっても活かせないのなら無意味だが、知識を活用できればどんな生活でも順応できるって」

「その結果。この店か」

たくさんの本に囲まれてお茶を楽しむ空間。ここは私の城だ。

侯爵家では双子の妹を丁重に。大事に育てていたが、双子の姉である私にも資金面では平等に扱っていた。

ただ、ちょっと教育分野で贔屓があったり、メイドの数や装飾品の数に不平等が生じていたが。

「お茶会に妹は連れていくが、私はいけないことがあったり、淑女の嗜みも妹の方がしっかり教われる立場でした。まあ、妹は嫌がっていました」

「勉強嫌いな子だったんだね……。ミトナは勉強は好きだよね」

あまり呼ばれない私のミトナという名前。妹の名前を付けることばかり意識が向いていて、危うく名無しになるところだったのを乳母が慌てて私の名前を確認したことで名無しの危機を逃れたという話を聞いていたので感謝しかない。

まあ、でも。その名付けも親戚が次から次と名前を与えたいと譲らない勢いだった妹に比べたらいい加減で、そこらにあったメモを見てつけたとか。

そんな私の名前を呼んでくれる人はほとんどおらず、乳母たちも【お嬢さま】呼びであったし、他の人たちは妹のおまけ扱いをして名前すら知らないのではないかと思う。

そんな私の名前を唯一呼んでくれるのは目の前の青年キリウス。初めて会った時から妹の付属品ではない ミトナ(私) を見てくれていた。

「好きというか学べる機会は学ばないと、乳母の教えもありましたし」

「ほんと。その乳母さんに感謝しないとね。ありがとう乳母さん」

キリウスの言葉に少し離れたところで本を楽しんでいる乳母がそっと頭を下げる。まだ営業時間前だが、乳母は乳母特権として営業前に入れるようにしている。

普段は乳母特権を使わないけど、今日ばかりは使った方がいいと判断したようだ。

「それで、過保護に過保護に育てて、たくさん愛を注いだのか」

「ええ。そうですね」

二人の手元には新聞。

ミトナは参加しなかった……ドレスもエスコートをしてくれる相手も何もかも忘れられた状態だったので参加できなかったのだ。

まあ、参加できてもしなかっただろうし。妹を含む家族にとっては私はすでに家族ではない。

だが、参加しないでよかったと心から思った。

「その妹が、神子だと思った根拠は?」

「なんでも、妹の顔立ちが美人で有名だった曾祖母にそっくりで、曾祖母は神子だったので」

「それだけ?」

「………まあ、決定打は妹の目の色が珍しいものだったからで」

こんな見たことない色はきっと神子に違いないと周りが騒ぎ出したのが始まりだったとか。

「ふうん」

それで、自分を正当に評価できなくなったのか。

新聞に書かれているのは同盟国の王女と我が国の王子が婚約すると発表のある式典で、妹と王子が並んで現れて、婚約破棄を叫んだとか。

だけど、我が国の王子は三人いて、騒いだ王子は第一王子。婚約が決まったのは第二王子だったのだ。我が国の醜聞にしかならない事態だったが、妹は自分は神子だから許されると発言して謝罪もしなかったとか。

「さすがに放置はできないよね」

「国際問題ですからね」

しかもその同盟国の方が力がある。第二王子の謝罪で、同盟国の王女は国同士の問題にまでさせなかったが、第一王子と妹はすぐにどこかの部屋で幽閉されて、対応待ちだとか。

「今まであえて確かめなかった神殿に妹さんは神子かと判断を仰ぎに行くとか……神殿が確認していなかったのに神子って名乗っていたんだ」

「そこら辺はなあなあだったんでしょうね」

そこで神殿からの正式な発表。

神子は確かに生まれていた。だけど、双子の姉であると。

「今更気付いても後の祭り。侯爵家は妹だと思っていたから姉である私を蔑ろにして、私のこと何一つ知らなかったのだから」

「ミトナが、実家から籍を抜いている事実も本が好きで、本を堪能できる図書喫茶を経営していることも僕とすでに結婚していることも知らないんだからね」

知識は力だと乳母に言われていろんなことを学んできた。そこでふと疑問に感じたのだ。

もし、実際に妹が神子だったら神はかなり悪趣味な性格のようだと。

こんな傍若無人な輩を愛でろなどとよく言えたものだ。世界を滅ぼしたいのか人間を陥れたいのかと。

すると、私の心の声が聞こえて来たのか必死に神が反論してきた。

――あれは、自分の神子ではない。神子は君だからと

それと同時に言われたのは君が望むなら世界を滅ぼしてもいいけどと。

「乳母とキリウスが居なかったら同意していましたけど……」

妹ばかり大事にされる世界を滅ぼしてもいいと二人が居なかったら思っただろう。誰も自分を愛してくれないと。

だけど、乳母が大事に育ててくれて、愛してくれて、生きるために必要なことを教えてくれた。知識は力だと。

キリウスはそんな知識を力にしているのを正当に評価してくれて、私を見てくれた。

現に私が神子だと発表されてもキリウスは変わらない。せいぜい、

「神子なら神の力を使ってミトナを今更利用しようとしている輩をこの図書喫茶に近づけない術とかないの?」

「そんな都合のいい術があるのなら今頃使ってるわ」

などと言った感じだ。

建物の外では 神子(私) を探す者たちが喧しく騒いでいる。乳母なら私の居場所を知っているのではないかと探られる可能性があったが、キリウスの機転ですでにここに逃げている。

このままなし崩しに一緒に暮らしたいのが本音なのでキリウスに頼んで説得してもらうつもりだ。

さて、そろそろ営業時間だ。おそらく外の騒ぎが苦手な客がもうじき詰めかけるだろう。ここなら喧噪が届かないと判断して。

ここは穏やかな空間のまま本当に本を愛している客のみ来訪を受け入れるのだった。