軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97話 早く帰れそうでした!?

「会議室か。懐かしいな」

砦の中央にある、石造りの建物。

そこに入ってすぐの場所にある会議室に俺は案内された。

ロイグなら豪華な調度品で部屋を飾り付けていただろうが、ここには寄せ集めてきたような椅子と机、そして壁際に置いてある粗末な寝床しかない。

「ここで寝泊まりしているのか?」

「魔物の異変などあれば、一階のほうがすぐ対応できますからな。さあ、座ってくだされ」

俺たちはソルムと向かい合うように机の前に置かれた椅子に座る。

それから間もなく、炊事兵がまずソルムと俺の机に食事を運んできてくれた。長期保存ができる堅焼きのパンに、キノコのスープだ。

メルクは不思議そうに首を傾げる。

「……こんなんでお腹いっぱいになる?」

「これでは、何も力が入らないのでは?」

イリアもそう呟いた。

二人とも肉食中心の生活だったし、驚くのも無理はない。

だが、俺はソルムと顔を合わせ、言う。

「これが普通というか……」

「むしろ昔なら、豪華な部類でしたな、噛める物があれば、マシでした」

「そうそう。アールスだっけ? あまりに食べ応えがないんで、とにかく雑草入れまくった奴」

「あれはひどい事故でした……数日腹痛のあまり誰も動けず、騎士団が壊滅しかけましたからな」

「ああ。創立以来、最大の危機だったよ。こんなことで皆死ぬのかなって、アールスが大泣きしてさ……ぷっ」

俺はたまらず吹き出してしまった。ソルムもまた豪快に笑う。

そんな中、隣でメルクが頬を膨らませているのが分かる。

「メルクは心配している。それに二人だけ知っている話でずるい」

「ご、ごめんごめん。でも、外の人たちはもう少しいい物を食べていただろう?」

集落ではウサギなどの肉などが干されているのも見えた。

単に、ソルムは自分が贅沢しないようにしているだけだ。

俺もずっと同じような食事してたのを知っているし、こういう質素な物にしたのだろう。

ソルムはメルクに向かって頭を下げる。

「申し訳ない。ただ、お二人のは別に肉を焼いていますから。あまり量はないですが」

「そんな。私たちはこれで結構です。皆さん、ちゃんと食べられていらっしゃるなら」

「まあ、確かに外の人たちもそんなに肉は食べられてなかったようだな。そうだ、肉と言えば」

俺の言葉にイリアが思い出したように小さく手を叩く。

「ここに来る途中、ボアを狩りましたね!」

「ああ。冷凍して持ち帰ってもいいが、せっかくだし食べちゃおう。残りは集落の人に配ってもらえばいいし。ソルム。机を借りるぞ」

俺は椅子から立ち上がり、別のテーブルに向かう。

そのテーブルの上を風と水魔法で綺麗にして、そこに先ほどイリアが倒したボアの肉を置いた。

使いやすいように、ステーキサイズにカットしておいた。全部で人の三倍はあろう量はある。

唖然とする炊事兵たち。

別にこんな量の肉は珍しくともなんともない。

騎士団にいたころはもっと多くの肉を扱っていたと思うが新人か?

いや、どこかで見たような顔もいる。

「解体は済ませてある。このまま使えるはずだ」

「え? あ……い、いいのでしょうか?」

ソルムはコクリと頷く。

「ありがたく頂戴しよう。外の子供たちから優先して分けてやれ」

「はい!」

炊事兵たちは久々にいい肉が入ったぞと、それを調理場へ運んでいくのだった。

それから間もなく、メルクたちに鳥の肉が運ばれるので、俺たちは食事を始めた。

ソルムが食べながら、俺に訊ねる。

「しかし、ヨシュア殿。近くにお住まいで? お仲間の方々の住まいとそんな遠くに離れてない場所とは思ってましたが」

「ああ。一日ばかり南に行ったところに、俺たちの暮らしている場所がある。ちょうど今朝、北の街に向かって出発したんだ」

「そうでしたか。それで、北の街に何か用が?」

「単純に買い出しだよ。畑で育てる作物を増やしたいと思ってね。まあ、さっきもらった豆で、目的の大部分は達成できたようなものだけど」

マギ豆は食用だけでなく薬にも使える。作物の種類を増やすのに越したことはないが、これ一つでも大収穫といっていい作物だ。

「でしたら、ここの集落に住まう者たちに言えば、種子を分けてもらえるかもしれません。先程の者のように、ここには南方で農業を行っていた者も多いので」

「だいぶ……手ひどくやられたんだな」

「ええ。もともと私はロイグ殿のもとを去った後、ここで有志とともに態勢を整え、南方へ行こうと考えてました。だが、避難民から南方の三都市、ヴァルドス、ファレンタン、レジャンが落ちたと聞き」

「三都市も? 十の内、三つも落ちたのか?」

南方には、魔王軍との国境沿いに十の主要な都市が存在する。

俺が騎士団にいる間にも、一都市が陥落したりというのは聞いた。それも後には人間側が取り返している。

だが、三つというのは……

「ええ。こたびの魔王軍の攻勢……激しいだけでなく、相当に練られているように見受けられます。聞けばあの堅牢な城壁を有すレジャンは、内側からの襲撃で陥落したとか。ファレンタンの領主ベアル伯に至っては、急に狂乱し自ら城門を開かせたと」

「何かしらの工作があったのかもしれないな……」

俺の脳裏に、ベルドスらミノタウロスのこと……そのミノタウロスを裏から唆していたキュウビのことを思い出す。

狐の面を被った、自らを密偵と名乗る男のことだ。

やつはミノタウロスを地下から解放し、人間と戦うよう仕向けた。南方でもやつが一枚嚙んでいた可能性がある。

三つ落ちたのだから、四つ五つと落ちてもおかしくない。そしてやがては、北方の都市も……

キュウビは去り際に、北でやることが残っていると口にしていた。すでに魔王軍が動き出していてもおかしくない。

「ソルム……確かなことは言えないが、魔王軍の工作隊が北で動いている可能性がある。人間側はもっと劣勢になるかもしれない。面識のある領主たちに、自領の警戒を促してくれないか?」

「承知しました。すでに支援を求める文に魔王軍の猛威を認めてはいますが、これからはもっと強調して伝えましょう。この報を受けての人間側の動きは鈍く、神殿も諸侯も手勢を出そうとしません」

ソルムは悔しそうに唇を噛んで言う。

「困っている人たちがいる……私も一刻も早く南へ」

「ソルム、逸る気持ちはわかる。だが、まずはここの足場を固めてからだ。俺からも、亜人たちに支援を求めてみる。交易をしてくれないかと」

イリアとメルクは了承してくれたが、他の部族たちもいる。

だから、ここで俺が独断で何かを決めることはできない。

「ありがとう、ヨシュア殿。そしてヨシュア殿の言うとおり、まだ動く時ではない。まずはここの暮らしと守りを盤石にすることだ」

「ああ。できるかぎりのことは俺もする。しかしあれだ。ここで用が済むなら、すぐに村に帰れるな」

一週間以上の長旅になるかと思っていた。だが、南方の情報は得られたし、取引もここで済ませられそうだ。

俺が呟くと、ソルムは微笑む。

「帰れる、ですか」

「うん? ああ、俺の家だ……」

自分でも驚いたことだが、俺はあの村に早く帰りたい気持ちだった。それだけ居心地がよくなってしまったのだろう。

イリアは嬉しそうに俺の顔を見ていた。

「本当に良かったですね。皆も喜ぶでしょう」

「ああ、そうだな」

俺はイリアにこくりと頷き返した。

それを見たソルムは、どこか諦めたような顔をすると、声の調子を上げて言う。

「お! ちょうど、ボアの肉も焼けたようですな。今日はヨシュア殿と会えて、いい日だ」

俺たちはこの後、焼きたてのボアの肉に舌鼓を打つのだった。

その日は、もう夜も遅いのでこの砦で寝ることにした。