軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78話 呪われた一族でした!

「な、なんなんだ、この子は」

俺は弓をまるで神のように崇める女性に、後ずさりした。

腰まで伸ばした美しい金髪と長い耳。

神話のエルフ……と思しき女性だ。

いや、寝姿を見る限りは、その息を呑む美しさに間違いなくエルフだと思った。

だが今は、なんだかやばそうなやつにしか見えない。

「ご、ごめんなさい、ヨシュア様! あまりの機敏さに、私も追いつけず……」

イリアはそう言って頭を下げた。

どんな敵も目に見えない速さで仕留めてきたイリアがである。

「い、いや、元気になったなら良かったが」

「元気すぎ。メルクも捕まえられなかった」

メルクはそう呟いた。

人狼であるメルクの足で捕まえられない……相当な速さなのだろう。

しかし、エルフか……不老不死で弓の扱いに長ける種族と聞いたが、身体能力については聞いたことがなかったな。

「弓……そうか、弓か。エルフは弓の扱いに長けるんだったな……うわあっ!?」

「弓ぃっ!!」

突然エルフはこちらに顔を向けて叫んだ。

いややっぱりエルフじゃないだろ、この子。

イリアが困惑した様子で呟く。

「さ、最初は物静かな方だったのです。我らと言葉も通じ、お礼もしっかり述べておられましたし……ですが、何か欲しい物、食べたい物がないかお聞きした途端」

「まさか、弓が欲しいと?」

「はい。それならありますと答えたのですが、だんだん様子がおかしくなり」

「こんな感じに……仕方ない。メッテ。新しい弓は作るから、あれはあげてもいいか」

俺の言葉に、メッテは迷わずうんうんと頷く。

「ああ、さっさと渡して帰ってもらおう。おっかない……そもそも私のではなく、この訓練場のものだからな」

「そ、そうだったか。イリア、彼女の名前は?」

イリアは「モニカ様です」と答える。

「モニカか。えっと、モニカさん?」

俺の声に耳もくれず、エルフのモニカは弓を崇め続ける。

「その弓、あげます。だから、落ち着いて」

「本当ですか!? なんと、なんとお優しい方々なのでしょう! 本当によろしいのですか!?」

モニカは目にもとまらぬ速さで俺に近寄り、両手を握った。

気が付けば、イリアが鞘に手をかけている。

俺はイリアに大丈夫だと目で合図し、モニカに言う。

「……あ、ああ。もちろん構わない。だが、何に使うかだけは教えてくれ。身を守るためならいいが、戦いは基本的に俺たちは反対なんだ」

その言葉に、モニカは急に深刻そうな顔をする。

「も、もちろん、身を守るためです……私たちには、この”弓”が必要なのです」

「それなら構わないが……だけど、もし他に何か悩みあれば聞くぞ」

俺が言うと、モニカは黙り込んでしまう。

言いたくもあるし、言いたくもないか。悩んでいるのだろう。

エントのエクレシアの話によれば、エルフと思しき耳長族は白葉の森に住むとのことだ。

また人間もエントも、彼らエルフが長い間他種族との交流を断ってきたと知っている。

そのエルフがどうしてこんな場所に来たのか。

もしかしたら、森が奴隷狩りに焼かれたのではと思っていた。

であれば、亜人の連合である俺たちも助けになりたい。

「モニカ。俺は道具を作ることができる。困っているなら力を貸せる」

俺の言葉に、モニカは重い口を開く。

「……道具を? では、この弓も?」

「ああ。自慢じゃないが、十秒もあれば作れる」

「十秒で……よくわからないですが、すごいのですね」

モニカの声に、イリアとメルクはうんうんと無言で頷く。

メッテは、「すごいなんてもんじゃない」と呟いた。

「申し訳ございません。ただ、分からないのです。私たちは、武器をつくれないため」

「武器を、作れない?」

つまり、そういった技術がないということだろうか。鬼人や人狼のように。

「そういう呪いをかけられたのです。はるか昔、古の魔王に」

「古の魔王……? 魔法か何かでということか?」

「はい。昔、魔王がこの大陸を全土を治めていた時代のことです。我らは中立を誓いましたが、魔王は我らの弓の腕を恐れておりました。そこで我らから武器を作る技術を魔法で奪うことで、不戦の誓いとしたのです」

昔、人間の住む場所はもっと北だった。

今の勢力図になるまで、魔物は北にも多く住んでいたのだ。その時代の話なのだろう。

「なるほど。しかし、物を作る技術を引き換えにするとはな」

「魔王は最初、弓の腕を封じようとしたのですが。しかし、私たちにとって弓の腕は誇り。ですから、それを断り」

「代わりに、武器を作らないという条件を飲んだ、か……しかし、武器は朽ちて」

「はい。長持ちする丈夫な武器……我らの命と同様、絶対壊れないと我らの先祖は考えておりました。ですが……」

「状況はよくわかった。つまりは、武器がないことで何者かに対抗できないと。何と戦っているんだ?」

「はっ。牛の頭をした……巨人たちです。大きな斧を持った、それは恐ろしい者たちです」

「牛の頭の巨人、ミノタウロスか? ……また、伝説の種族だ」

古代に封印されたとされる生き物。

彼らは人間と牛の間で生まれた呪われた亜人と知られていた。ゆえに人間に忌み嫌われ、洞窟の深くに封じられたとか。本当かは知らないが。

モニカは俺に訊ねる。

「ご存じなのですか?」

「多分、知っている種族だ。勇猛で痛みを知らない戦士たち。そんな者たちが本当に存在していたとは」

「私たちは全く知らない種族でした。それが一週間前、急に我らの森を襲い……交渉も応じてはくれませんでした」

「武器がなければ、抵抗することもできないな」

「はい……ですから、我らは自らの森を離れることに。皆、無事に逃げたと思いたいですが……私は魚を取る途中、そのミノタウロスに襲われ」

「なるほど、状況は分かった」

俺はそう答え、イリアとメッテ、メルクに目を向けた。

三人ともうんと頷くので、俺はモニカに言う。

「どんな支援ができるか、皆と考えたい。少し、時間をもらえるか?」

「え? は、はい……しかし」

言い淀むモニカに、メルクが言う。

「気にしない。ヨシュアは強い。それに優しい」

「ああ! 私の夫は、頼りになるぞ!! うぐっ!?」

「モニカさん。私たちができることなら、お助けしますから」

イリアは笑顔でメッテの口を抑えつつ、言った。

メッテが苦しそうにする中、モニカは頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!」

こうして俺たちは、エルフの抱える問題について協議することになった。