軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75話 桃が流れてきました!?

「よし……こんなものか?」

俺は後方にまっすぐ伸びる石畳を見て言った。

「おお、なんだかすごいのじゃ! 壮観なのじゃ!」

住処である洞窟から出てきたユミルとドワーフたちも声を上げる。

騎士団と魔王軍の双方を退けてから五日間。

俺は道を整備していた。

まずは村の区画わけのため、碁盤目状に石畳の道を張り巡らせた。

次に温泉の泉の水路に沿って、村までの道も整備する。これで天狗の住処や、鉱山へのアクセスが容易になった。

そして今は、フェンデル村からドワーフの鉱山までの道を完成させたところだ。

道幅は、とりあえず五ベートル幅にした。馬車二台が横並びで走れる幅はある。ゆくゆくは歩道と馬車道を完全に分けるため、拡張してもいいかもしれない。

野生馬の捕獲や手持ちの荷馬の繁殖も行いつつ、輸送事情も改善したいところだ。

馬車はできているので、ドワーフや天狗たちとの物資のやり取りもこれでもっと早く簡単に行えるようになるだろう。

「村との行き来も楽になるな……しっかし……ユミルたちもたいしたものだな」

俺は洞窟の外にできた石造りの建物を見て言った。

ドワーフたちは自分たちで岩を石材に加工し、自分たちの家を建てていたのだ。

「これもヨシュアのおかげなのじゃ! もっと、いい鉱石を掘るから、よろしくなのじゃ! そういえば……」

ユミルは洞窟から、小さな箱を運んでくる。

その中には、色とりどりの石があった。

「これは……宝石の原石か!」

見る限りでは、ルビーとサファイアがある。多少だが、金や銀も混じっているようだ。

「ほう、宝石というのじゃなあ。色が面白いと思ったが、使えない石という意味か?」

「い、いや。確かに目立った使い道はないが、貴重なものなんだよ」

「そうなのか。簡単に砕けてしまうし、役に立たないと思ったのじゃ。使えそうなら、持っていってほしいのじゃ!」

「いいのか? 売れば、高値になるが」

研磨しないことには何とも言えないが、すべて売れば人間が十年遊んで暮らせるぐらいのお金にはなりそうだ。

「ワシらは商売には興味ない。それに仲間なのじゃろ? ここで掘れたものはフェンデル同盟の皆のものじゃ!」

「ありがとう、ユミル。帰ったらちょっと加工してみるよ。気に入ったものがあったら、腕輪とかにするから言ってくれ」

「楽しみにしてるのじゃ! これからも変わった物が掘れたら、ヨシュアに持っていくからよろしくなのじゃ!」

「ああ、よろしく頼むよ」

俺はユミルの堀った宝石の原石を回収すると、別れを告げ、村へと帰る。

石畳を歩きながら、魔法工房で原石を削っていくが、結構大粒の宝石もあるようだ。

……これはいい物を掘ってくれたな。

加工すれば、人間の街への売り物になる。

これを売って得たお金で、自分たちでは手に入れられないもの……主に家畜や作物の種子を手に入れるのもよさそうだ。

まあ、試しに装身具でも作って、皆に見せてみるか。案外、自分が着けたいって言いだすやつもいるかもしれない。

そんなことを思いながら、俺は河に差し掛かった。

橋は今までの木造から、石畳に合わせるように石造りにしてみた。これならちょっとやそっとじゃ壊れないだろう。

この橋周辺は監視のための塔もあったり、岸で漁をする者もいて、結構にぎやかだ。

漁師の家や倉庫を作ってもいいかもな……うん?

俺は北から声が上がるのに気が付く。

河の上流からだ。視線を向けると、そこには黒い毛玉が浮いていた。

「メッメー! やっちまったっす!! うち、泳げないっす! 誰か助けてっす!」

叫んでいたのセレスだ。

羊の姿をした彼女はどんぶらこと河に流れていく。

だが、毛のおかげかぷかぷかと浮いているので、沈みそうにはない。

でも……このままでじゃ海に流されるだけだ。

ヘルアリゲーターに襲われる可能性もある。

「セレス!? 待ってろ、今助ける!」

網を作って助けるか……

いや、俺の力じゃあの巨体は引き上げられない。そもそも、大きな河なので網を狙って投げるのが難しい。

「なら……」

俺は川へ走ると、そこでクラフトと口にした。

「──ボート」

すると、五秒でボートが河に現れる。

同時にオールも作り、俺はそれで河へ漕ぎ出した。

「メッメー! ヨシュア様っす! うちのマイダーリンが来てくれたっす!」

「セレス! お前は沈まないから大丈夫だ! 落ち着いて、こっちに来い」

「わかったっす!」

セレスは前脚を動かして、俺の元へとゆっくりやってくる。

だがその時だった。

セレスの後方からぶくぶくと水泡が現れたと思うと、突如大きな水しぶきが上がる。

「な、なんっすか!?」

姿を現したのは、大きな口を開けたワニ……ヘルアリゲーターだった。

今までのヘルアリゲーターよりも遥に大きい。

掘っ建て小屋を丸々飲み込むような大きさだった。

「メッメー!? デッケー!! うちは美味くないっすよ!」

「セレス、伏せろ!!」

俺はヘルアリゲーターの口に岩を放出した。

だが、ヘルアリゲーターはそれを一瞬でかみ砕いてしまう。

「駄目か、なら……あっ」

鉄と紫鉄をヘルアリゲーターの口に食わせようとしたとき、岸から矢を放った者がいた。

……イリアだ。

矢がヘルアリゲーターの目に突き刺さると、イリアは叫んだ。

「私が相手です!」

イリアの声にヘルアリゲーターは鳴き声を上げ、襲い掛かる。

「イリア! 無理はするな!」

「ご心配なく!」

イリアはそう言うと、突っ込んでくるヘルアリゲーターに刀を抜いた。

ヘルアリゲーターはすぱりと首を斬り落とされ、どしゃりという音と共に岸に崩れるのだった。

「しゅ、瞬殺か……」

さすがというべきか。なんというか……もはや斬れないものは何もない感じだな……

周囲の者から歓声が上がると、イリアは刀を振って血を払い、納刀した。

俺はそんな中セレスをボートに乗せ、イリアのいる岸へと戻る。

イリアは心配そうに駆け寄ってきた。

「ヨシュア様! セレスさん! ご無事ですか!?」

「ああ、イリアのおかげでな」

「わ、私のおかげなんてそんな……そんなことより」

イリアは少し頬を膨らませる。

「ヨシュア様……どこか行くときは、必ず私をお連れください。村から出る際は、必ず」

「わ、分かったよ。でも、ちょっと料理で忙しそうだったから」

なんというか……イリアを怒らせちゃいけない気がする。

なんでだろう?

なんか、怖い夢を見た気がするんだよな……

「仰ってくだされば中断いたします……それにしても、まさかここまで大きなヘルアリゲーターがいるとは」

「ここの主みたいな存在だったのかもな……何にしろ、警備用のゴーレムを配置する必要がありそうだ。それと……勝手に河に入るやつがいないよう」

俺が言うと、セレスは慌てた様子で答える。

「ご、ごめんなさいっす! ただ、美味しそうな桃が見えたんで、つい入っちゃったんす!」

「桃? へえ、上流から流れてきたのかな。実が生るまで少し年月はかかるが、種を育てれば村でも桃が食べられるようになるな」

「そ、そう思ったんっす! 村の皆が桃を腹いっぱい食べられるようにって!」

セレスは取ってつけたようなことを言い始めた。

「まあ、気を付けてくれよ……こんな大物はそうそう現れないだろうが。ところで、その桃は?」

「ちゃんと掴んだつもりだったんすが……思いのほかツルツルで、どっか行っちゃったす」

セレスの声に、イリアは小声で呟く。

「結局取れなかったんですね……」

「め、メッメー……面目ないっす」

俺は気を落とすセレスに言う。

「でも、これだけの大きさのヘルアリゲーターだ。肉や皮にはしばらく困らないだろう」

「そ、そうっす! うちは釣り餌になったんす! これからも大物をおびき出してやるっすよ! メッメー! あぁっ!?」

セレスは突如、声を上げる。

「ヨシュア様! 桃がまた見えたっす! 早く取りに行くっす!」

「おお、あれか! ちょっと、色が変だが……取りに行くか」

セレスの言う通り、水草に絡まった桃がゆっくりと河を流れていた。

俺はボートを出し、イリアとセレスと一緒にその桃へと向かう。

「メッメー! 楽しみっす! 早く食べるっす!」

「セレスさん……もしかしたら腐っているかもしれませんよ? 色が少し白い気が」

イリアの言う通り、桃は綺麗なピンク色ではなかった。

とはいえ、腐っているような感じでもない。近づくうちに、桃がはっきりと見えるようになってきた。艶があって、ハリがあって……まるで。

「これ……まさか!? イリア! すぐに引き上げるぞ!」

「は、はい! こ、これは……脚?」

見えていたのは、桃などではなかった。

生き物の尻だったのだ……

引き上げて分かったのは、どうやら人の脚っぽいこと。

それも人間の女性のような細い脚だ。

俺は桃の正体の全身をボートへと引っ張る。

「こ、この方は……」

イリアは思わず息を呑む。

引き上げられたのは、長い金色の髪を伸ばした美しい女性だった。

人よりも、長い耳を持つ。