軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暖かな夜でした!?

天狗たちの住む山。

彼らの居住区から少し降りた山肌に俺たちはいた。

ここは山の中でも比較的傾斜がなだらかで平地に整地しやすそうな場所だった。すでに整地を終え、石材で基礎を築いている。あとはこの上に目当ての物を建てるだけだ。

「やっぱり資材は余分に持っておくに限るな」

そう言って俺は両手を基礎部分に向ける。光ると瞬時に丸太の壁の小屋ができあがった。屋根こそ土瓦だが、ほとんど木材で築き上げている。

メッテが感心するように声を上げた。

「おお。ヨシュアが最初に私たちの村で作ってくれた家みたいだな!」

「懐かしい雰囲気ですね。今の石造りの家もいいですが、木の温かみを感じます」

イリアはそう言って壁を手をなでる。

「ヨシュア様が来るまでは、このアイアンオークを伐ることすらできなかったのですよね……」

「たしかに俺は斧を作ったが、鬼人たちじゃなければあんなに早く木は伐れなかったと思うぞ……」

鬼人たちが一瞬で木を伐り運んでいった光景は今も忘れられない。あのおかげで柵を作って奴隷狩りに対峙することができた。

「ともかく、小屋はこんな感じのをいくつか作っていこうと思う。中は簡単に机と椅子、ベッドと棚にするつもりだ」

メッテが首を傾げて訊ねる。

「調理場はなくていいのか?」

「料理は別の場所で食べるんだ。材料が到着次第、もっと大きいものを今から建てる──っと、到着したな」

周囲の地面に黒い影が見えると、俺は顔を上げた。

そこには、こちらに向かって空を進むアスハと一隻の飛行艇があった。

先にアスハだけが下りてくる。

「お待たせしました、ヨシュア様! 白砂島の倉庫からガラス用の砂を持ってきました」

「ありがとう、アスハ。随分早かったな」

「皆、だいぶ飛行艇の操船にも慣れましたから」

アスハの言葉通り、飛行艇は碇を落とすとスムーズに着陸する。

飛行艇の乗組員は天狗を中心とした亜人たち。皆だいぶ飛行艇の扱いにも慣れてきたようだ。

それから飛行艇の外板の一部が開くと、けい砂が地上へと流れ落ちていく。

俺はそれを魔法工房へと回収し、ガラス板を生産していった。

メルクがぼそりと呟く。

「ヨシュア。ガラスそんなにいる?」

するとメッテがこう言った。

「この前宮殿を建てた時の……温室だったか? あれみたいに屋根をガラスにするんだろ?

メッテの声に俺は頷く。

「ああ。でも、今回はもう一つ違うのを作ろうと思ってな」

「ほう。なんだ?」

「まあ、見たほうが早いだろう……ほら」

作ったものを地面へと出し、皆に見せてみる。

イリアが首を傾げて言う。

「これは……大きな望遠鏡ですか」

こくりと俺は頷く。

「ああ。戦いのときに皆も使っていると思うが、まさに大きな望遠鏡だ。これで夜空を眺めると、目では見えない星が見えたりするんだ。そしてこれを設置する天文台を……」

「へえ。どれどれ」

そう言ってメッテは、自分の背丈の三倍はあろう長さの望遠鏡を軽々と持ち上げる。

「待てメッテ! 太陽を見たら危ない! 使うのは夜だ!」

「お、おお。すまん」

メッテは再び望遠鏡を地面に戻す。

「いや、俺も持てると思わなくて……悪かった。メッテや鬼人たちにはいらないかもしれないな。でも、他の亜人のことも考えて、やっぱり土台になる天文台は作っておこう」

「メッテ。夜の楽しみにする」

メルクの声にメッテはああと頷く。

「それまでは頑張って色々建てるか!」

その声に俺たちはおうと応えた。

施設としては飲食店や温室、そして天文台を築いていく。天文台は巨大なドーム屋根に穴が開いた建物の中に、回転式の土台を築き望遠鏡を載せる。

それとメルク発案の滑車に釣り上げた荷台で山を下りる装置も……安全面を考え速度はゆっくりになるように調整したが。

あとは細かい家具や備品を作って、ひとまず山の上の観光地が完成だ。

天狗たちも搬入を手伝ってくれたり、出す食事を考えたりしてくれたらしい。セレスたちモープは相変わらず、山を走り回ったり寝転んでいるが。

そうして夜、まずは自分たちで施設を楽しむことにしたのだが……

「エクレシアとモニカ」

メルクの言う通り、飲食店には天狗以外の亜人たちの姿もちらほら見えた。

エクレシアが俺たちに手を振る。

「面白そうなものを作っているのが見えてな。私たちも花を植えたりしたから同席させてもらうぞ」

「いつも何かを作るときは、イリア様たちばかりずるいです」

頬を膨らませるモニカに俺は答える。

「ごめん、ただいきなり建てようってなったものでな」

「何か建てようとなってすぐ建ててしまうのは、お前ぐらいだがな」

エクレシアの言葉にモニカやイリアたちもうんうんと頷く。

イリアは微笑みながら、空いた席の椅子を引く。

「それがヨシュア様の魅力的なところですが……さっ、私たちもご飯を食べましょう」

「天狗たちがカイザーバスをバター焼きにしてくれたみたいだからな」

そうして俺たちもテーブルにつき、食事を始める。

メインディッシュは俺たちが昼釣り上げたカイザーバスだ。拳ほどの大きさの切り身にしたものをバターで焼いた。他には山で採れたキノコや山菜が添えてある。

メッテはそれをナイフで切り、フォークで口へと運ぶ。

「……美味い!! ボアの肉に負けず劣らず柔らかいな!」

イリアとメルクも小さく切り分け口に含んだ。

「脂っぽくないので私はこちらのほうが好みかもしれません」

「飽きがこない味。海の魚とはまたちょっと違う美味しさ。これは衝撃」

アスハも一口食べた後に言う。

「白砂島のカッパさんたちも珍しがるかもしれませんね」

俺も早速口にするが、本当に美味しい。身がほろんと蕩けるのと同時に、バターの香ばしい香りが口いっぱいに広がる。

「付け合わせの山菜もシャキシャキしているな……これは瞬く間に人気になりそうだ」

「山の空気がどこか澄んでいるのも、美味しく感じる秘訣なのかもしれませんね」

イリアが微笑みながら言うと、アスハもこくりと頷く。

「私はやっぱり山で食べる食事が一番です。それに本当に夜空が綺麗ですね」

ここでは星空を大き目な窓だけではなく、天井からも見えた。

メルクが呟く。

「不思議と村で見るよりもくっきり見える」

「本当だ。空に近いからなのかな」

俺もそんな言葉が自然と漏れた。

こんなにゆっくりと空を眺められるようになったのは、やはりイリアたちと会ってからだ。それまでは星の見え方なんて気にしたこともなかった。

ウィズも俺と顔が合うとなんだか感慨深そうに頷いた。

イリアは微笑ましそうに言う。

「白砂島に負けない魅力がありますね。きっと他の亜人の方々もここを気に入るでしょう」

「メルクも他の子供たちを連れてくる。すぐに噂が広がる」

メルクの言葉にアスハも満足そうな顔で答えた。

「本当に素晴らしい場所ができました! 皆さん、ありがとうございます!」

頭を下げるアスハ。

それを見てメッテが言う。

「水臭いぞ、アスハ。今までもずっと協力してきたじゃないか」

「私たちも天狗の方々にはずっと助けられてきました。これからも何かあれば遠慮なく仰ってくださいね」

イリアの声に俺も頷く。

「ああ。本当に何かあれば遠慮なく言ってくれ。俺的には、温泉なんかもあるといいなと思ったりな。ドワーフと協力して山頂まで温泉を引けないか考えてみるよ」

「メルクも欲しい。星空を見ながら入ってみたい」

「それも素敵ですね。ぜひお願いします」

アスハはぺこりと頷いて答えた。

「温泉もいいが……先ほどの大きな望遠鏡も気になるな! 早く食べて覗いてみよう」

そう言ってカイザーバスをバクバクと食べるメッテ。

「こらメッテ。お行儀良くしなさい。星は逃げませんよ」

イリアの言葉に皆から笑い声が上がった。

そんなこんなで楽しい食事が終わると、俺たちは早速天文台へと足を運ぶ。

「すごい、こんなに星が大きく見えるなんて……!」

望遠鏡を覗きながらイリアは声を震わせた。

皆も順番で見たが、あまりに大きく見えるので驚いているようだ。

モニカも覗きながら呟く。

「なんというか青と緑が混じった星が見えたような気が……でかい鳥もいる?」

「星にはウサギが住んでいるなんて聞いたことがあるが、もしかしたら生き物が住んでいるのかもな」

エクレシアの声にメッテが笑う。

「なかなか面白いことを言うな、エクレシア! あんなに小さいのに住めるか?」

「遠くに見えるから小さく見えるだけでは。遠くに立つ者は小さく見えるでしょう」

イリアの言葉にメルクがしっぽをぶんぶんと振って答える。

「だとしたら星は相当大きい」

アスハがふふっと笑う。

「なかなか夢のある話ですね。もし誰かが住んでいるとしたら会いに行けるでしょうか?」

「飛行艇を使えばいいんじゃないか?」

メッテの問いにアスハは首を横に振る。

「ある高さまで飛ぶと、呼吸が苦しくなるのです。他には無限の夜が広がっているとか、非常に寒いなんて話も聞きます。それだけ高く飛んでも全然星に近付けないとか。かつて月や太陽を目指した天狗がいましたが、皆辿り着けませんでした」

「予想以上に大変なんだな。でも、魔王やドワーフたちと協力しながらならいつかは……俺たちの子供やその子供が叶えてくれるかもしれないな」

フェンデルがこの先もずっと繁栄してくれれば、きっと叶うはず。

そんな気持ちで言ったのだが、イリアたちは皆で顔を見合わせていた。

イリアは俺を見ると顔を赤らめて答える。

「そうですね……きっと、”私たち”の子供が叶えてくれるはずです」

「今日はそういう気分か……私もだ、ヨシュア!」

そう言うとメッテは俺をぎゅっと抱きしめる。メッテもだが、皆顔が赤らんでいる。なんというか甘えたい感じの雰囲気だ。

「ま、待て! そんなつもりで言ったんじゃ!」

「山の上は寒いから皆で同じ布団で寝る。セレスたちから毛を分けてもらって、大きな布団を作っておいた」

メルクは俺の手を握って言うと、アスハももう片方の手を引く。

「お身体が冷えると大変ですからね。そろそろお休みといたしましょう!」

そう言って俺は、皆と同じ布団に連れていかれた。

涼しさを求め上った山だったが、その日はとても暖かい夜を過ごすのだった。