軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大物を釣りました!

「メッメー! 皆で山まで競争っす!!」

セレスを始め、モープの大群が山を悠々と上がっていく。羊の末裔だからか山登りはお手の物のようだ。

俺の隣でメッテが叫ぶ。

「あまり張り切りすぎるなよ! ……誰も聞かんな。まあ、いつまであの元気が持つか」

「疲れれば自分たちで休むだろう。俺たちはゆっくりいくぞ」

俺の言葉に、イリアとメッテ、メルク、アスハが頷いた。

今日は、涼しい場所へ行きたいというモープに同行するだけでなく、山の整備も行うつもりだ。

まずは山の頂上と麓の間に通す索道を作っていく。頑丈な紫鉄の柱を使った足場を立て、その上に、紫鉄の鉄線を織り込んだロープを通していく。

作業自体は準備していたから一瞬だ。何か所か中継地点を作って頂上へと向かっていく。

メッテが周囲を見渡しながら言う。

「やはりというか……以前来たより、ずっと賑やかになったな」

「前も村の家や防壁に驚きましたが、今や川向こうまで建物や道が広がっていますからね」

イリアの言う通り、フェンデルの領域は非常に広大となった。

道が四方に張り巡らされ、各地に俺の建てた建造物が見える。川には船が行き来し、空には大小の飛行艇が行き交っている。

俺はそれを見て言う。

「たしかに発展したな。でも、森や草原も大事だ。これ以上はあまり建物を建てないほうがいいかも。山も、山菜や薬草の宝庫だからな……」

「自然は大事」

メルクの言葉に俺も頷く。

「ああ。できるかぎり今の景観を大事にしよう……そうだ。薬草といえば、この山の植物はあまりゆっくり見たことがなかったな」

アスハが答える。

「以前は、竜を倒すことや魔王軍もいて、ゆっくりできませんでしたからね。傷口を癒すのなら……たとえば、あれなんてどうでしょうか? 私たちはよく傷薬として使ってました」

アスハは山に生えていた白い花の植物を摘み取る。

「それはティアフラワーだな。香りも良くて、人間も薬に使う花だよ。栽培できるようなものじゃないから、結構希少なんだ」

それを聞いたイリアとメッテは花に顔を近づける。

「本当にいい香り……」

「甘いような匂いだな」

メッテも山に生えた花をつまんで言う。

「美味しそうな匂い。食べられる?」

「ああ。食べるというよりは茶にして飲む感じかな。あとで、山の上でこれを煎じた茶でも飲むとしよう」

俺の言葉に、三人とも嬉しそうな顔で答えた。

俺たちは再び、山に生える植物を見ながら進む。

「あれは、ハイキノコか。滋養効果のある高級食材じゃないか……よく見ると、この山すごいな」

「私たちからすればそのキノコも飽きるぐらい食べてきたのですが、そうなのですね」

アスハは俺が山の植物を見て驚くのを、意外そうな顔で見ていた。

天狗たちにとっては慣れ親しんだ食材というわけか。フェンデル周辺には紫鉄やアイアンチークとといい、本当に良い素材が揃っている。

俺たちは使えそうな植物を集めていると、突如高いところから「メッメー!!」という叫びが聞こえた。

「今のは……セレスの声か?」

何か緊急事態かと思ったが、メルクは落ち着いて答える。

「この吠え方はちょっと来てみろぐらいの吠え方。心配しない」

「よく分かるな……私にはてんで聞き分けられなかったぞ」

メッテの言う通り、俺にも聞き分けられなかった。

「セレスさんが何か見つけたのでしょう。行きましょう」

イリアの声に頷き、俺たちはセレスたちのいる方へ向かった。山が高くなるにつれ、やがて木もまばらになってくる。

やがて水の流れる音が聞こえてきた。

どうやらこの先で川が流れているようだ。風が涼しい。

「こっちだな」

森を抜けると、小さな川が見えてきた。源流のようだ。川を下れば、麓の湖に注ぎ込む滝に繋がっているのだろう。

「おお、川か」

その河原にセレスとモープたちが集まっていた。何やら皆、川のほうをじっと見つめている。

「セレス、呼んだか?」

「メッメー! ヨシュア様、この川に滅茶苦茶デッケー魚がいるっす!」

「魚?」

「よく見てるっす……」

「うん? おお!」

川に目を凝らしていると、大きな魚がばしゃんと水面から飛び跳ねた。

虹色の鱗を付けた、中型犬ほどの大きさの魚……

「カイザーバスか! こんな場所にいるなんて」

「珍しい魚なのですか?」

イリアの問いに俺はこくりと頷く。

「ああ、魔物の一種だよ。繁殖力が強くて、なんでも食べる巨大魚でね……川で漁をする人にとっては天敵だ」

アスハが言う。

「なるほど。魔物だったんですね。昔はもっと小型の魚がいたのですが、この魚が現れてからここでの漁が難しくなって」

「こいつに食べられて、他の魚が少なくなったのかも」

俺が答えると、メルクが爪を立てて言う。

「なら、捕まえる」

「待った待った。この先は滝だし、中に入るのは危ない。かといって雷魔法でも浴びせたら、小さな魚も死んでしまう。ここは釣竿を作るから、釣りでもしよう」

俺はすぐに木材と毛糸を使って釣竿を何本か作り、皆に手渡していく。

「餌は石や葉で十分だろう」

「そんなんで食いつくか?」

そう訊ねるメッテの前で、俺は作った物を魔法工房から取り出す。

石で作った小魚の模型だ。ヒレや尾は葉っぱにしてある。

「おお、魚の形か!」

「ああ。これならカイザーバスも食いつくはずだ」

俺はこの疑似餌をいくつか作り、皆に手渡す。

「カイザーバスは非常に引く力が強い。無理だと思ったら、すぐに釣竿を離すんだ」

皆、俺の言葉に皆うんと頷くと、川に釣竿を向けていった。

釣り自体は近くの川や白砂島でも行われている。皆も一度は体験しているから、特に心配はない。

そうして俺たちは釣りを始めることにした。

近くでモープたちが横になる中、セレスが言う。

「メッメー。美味しそうな魚待ってるっすよ」

「任せておく。いっぱい釣って、天狗たちの土産にする」

メルクは釣竿を動かし、早くカイザーバスを餌に喰いつかせようとする。メッテもぶんぶんと釣竿を振って、なんというか武器の稽古でもしているみたいだ。

俺の口から小さく笑いが漏れる。

「二人とも、釣りの基本はじっとしていることだ。こうしてじっと餌を垂らして待っていれば、向こうからやってくる」

特別釣りが上手いわけでもないが、基本のはずだ。

すると次の瞬間、俺の釣糸が急に引っ張られた。

「──うおっ! くっ!」

なんとか態勢を整え、釣竿を構える。

しかし釣竿はおおきくしなり、引く力はますます強くなる。

「すごい大物だ……これは諦めるか」

「いや、ヨシュア! 私が手伝う!」

メッテはそう言うと、俺の後ろから抱き着くように俺の釣竿を握った。思いっきりメッテの柔らかい胸が俺の背中に当たるがお構いなしだ。

そのままメッテは俺を抱き上げる勢いで釣竿を上げる。

「一気に釣り上げるぞ! おお!」

ばしゃんと大きなカイザーバスが川から姿を現す。

カイザーバスはそのまま川原へと引き揚げられた。

「メッメー! デッケー! これは美味しそうっす!」

「ふう。なかなかの大物が釣れたな! なあ、ヨシュア?」

耳元で聞こえるメッテの声に、俺は硬い動作で頷く。

「あ、ああ。このバスは大きいだけじゃなくて……身が柔らかくて……いや、ぷりぷりしていて……いや」

メッテがここぞとばかりに抱き着いてくる。きっとわざとだろう……

「メッメー? ヨシュア様、調子悪いっすか?」

セレスの声に俺は首を横に振る。

顔は向けなかったが、イリアの「次は私が……」という声が響いた。

それから俺たちはしばらく、カイザーバスの釣りを続けた。

結果的には、二十匹も釣れた。

まだまだ川にはカイザーバスの姿が見えたが、これで少しは他の魚も増えていくだろう。

俺たちはこのカイザーバスを手土産に、天狗の住む山頂を目指すのだった。