軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

244話 幸せになりました!

ソフィスと皇帝の会談が終わって一か月後。

結局、南部の都市を巡り、人と魔物は衝突してしまった。双方の何世紀にも亘る因縁は、二人でもそう簡単に解消できるものではなかったのだ。

それでも大規模な会戦には発展しなかった。ソフィスと皇帝が双方の有力者を、戦に集中させないようにしたからだ。

俺たちが築いた山の宮殿も、人間の王侯貴族たちを留めるのに役に立ったようだ。三か月間の戦闘の末、その宮殿で人と魔物は休戦協定を結ぶこととなった。

結果としては、数の多い人間が少し優勢となり、南部の都市を取り戻す形で終わった。

俺たちはこの戦いをただ眺めていた……わけではなく、薬や包帯などを作り、人と魔物双方の負傷者の治療の支援にあたった。

そのおかげだろうか。亜人に感謝する人間と魔物もちらほら現れた。フェンデルの良い評判が少しでも広まってくれたと信じたい。

また、ソフィスと皇帝とは再会を誓った。

ソフィスとはこれから定期的に会うことになった。俺たちが魔王城にいったり、ソフィスがこっちに来たりと自由に行き来できるよう約束を交わしてある。

皇帝は一度、お忍びでこの村に来たいと言ってくれた。その際は歓迎することをフェンデルは約束した。

キュウビはヨモツにフェンデルに共に住もうと誘われたが、二度も命を救われたとソフィスについていくことにした。

ソフィスもまたそんなキュウビとしばらく共に過ごすことにしたらしい。いつかはヨモツに会いに来てくれると嬉しいが……

そうして人と魔物の大軍が去って一週間。

俺はフェンデル村の東、橋の近くに立つ巨大なドーム屋根の建物の前に立っていた。

「よし、完成だ!」

「いちばんおっきい家」

メルクは三階建ての宮殿風の建物を見上げて呟いた。

アスハがすかさず言う。

「家じゃなくて庁舎ですよ、メルクさん」

アスハの言う通り、この建物は庁舎だ。

今までも族長や長老の話す集会所はフェンデルにもあった。

ただし同盟が拡大するに従い、手狭となっていた。

イリアが満足そうな顔で言う。

「本当に大きいですね。これなら千人以上入っても大丈夫そうです」

「ああ。一国の議場ぐらいの大きさはある」

ただ集まるなら野外でもいい。でも雨天のときにも集まれる場所がほしかった。

メッテも感慨深そうに言う。

「いよいよ人間の国らしくなってきたな」

「国にするつもりはなかったが……まあ、国を名乗るなら共和国とでもするかな」

「フェンデル共和国……なかなかいい響きですね。王国や帝国とは違うのですか?」

アスハの問いに俺は首を縦に振る。

「ああ。一番偉い人がいなくて、皆話し合いをして色々決めるんだ。まあ、今のフェンデルと変わらないかな」

「では、今日は建国記念日というやつだな! いやあ、今日はめでたいことがいくつも重なるな! ──ぶっ!?」

突如メッテの口をイリアが抑えた。

「うん? どうした、イリア?」

「いえいえ。ただ、今日は本当にめでたいなと……せっかくですし、お祭りにしましょう」

「おお。それもいいな。収穫記念の日とかはあったが、フェンデル同盟についての記念日はまだなかったよな」

同盟全体で毎年祝う。亜人たちはお祭り好きだし、いいだろう。

イリアは嬉しそうな顔で頷く。

「そうしましたら、さっそく広場でお祭りにしましょう! じつは、この建物の完成をもともと祝う予定だったのです」

「ほう」

たしかに大きいから、皆完成を楽しみにしてたのだろう。

「そうか。それじゃあ、村へ行こうか」

そうして俺たちは村へと向かった。

メッテが歩きながら訊ねる。

「そういえばヨシュア。虎人の作るあの料理はもう食べたか?」

「グランク麦の麺料理のことか? 村で評判みたいだな」

今、村でちょっとした話題になっている麺料理だ。魚の骨を煮込んだスープに麺を浸した料理……これがなかなか美味しいと聞く。

メルクが呟く。

「ヨシュアもはやく食べないとしばらく食べられなくなるかも」

「グランク麦の料理は本当に人気ですからね」

アスハの言う通り、今ではグランク麦は同盟中の者たちが求める食材となった。

さらに麦畑を広げたが需要に追い付かず、フェンデル村周辺だけでなく西のノワ族や狐人たちも村の周辺で育て始めている。

メッテが笑って言う。

「ベイロンやネイア、リーセが食べる分も用意しておかないとな。でないとやつら怒るぞ」

ベイロンをはじめとするグランク傭兵団は相変わらず傭兵団を続けている。

ただしもう危険な仕事は請け負わず、各地に散った虎人を集める旅を第一の目標としているようだ。ベイロンはそうじゃないと言うが、ネイアはそうだと言っていた。

他にも亜人がいれば声をかけ、フェンデルへの移住を促してくれている。すでに百名ほどの亜人が、このフェンデルにやってきた。

イリアが答える。

「ベイロンさんたちも、いつかはここで暮らしてくれるといいのですが」

「旅が終ればきっと一緒に暮らせるはずだ。ここはもう、彼らの故郷みたいなものだからな」

フェンデルの南には、すでに虎人の村ができている。ベイロンも近くにくれば必ず寄ると、虎人たちに聞かせているようだ。

そんな中、俺は狐人の一団が門に入っていくのに気が付く。ヨモツとミリナ、ミリナの兄弟たちだ。

背負っている籠には野草の類が入っている。どれも薬草。ヨモツは薬の知識があるからか、こうしてよく薬草を集めてくれているのだ。

メルクが少し嬉しそうに言う。

「ようやく仕事をはじめた」

「ヨモツさん。以前よりも、生き生きとされていますね」

アスハの言う通り、ヨモツは変わった。門の一件以降しばらく塞ぎ込んでいたが、ミリナたち子供の声ですぐに仕事をするようになった。

薬にいくらか詳しいため、今ではフェンデルの皆からも頼られる存在となっている。学校ではミリナの勧めで、嫌々ながらも魔法を住民に教えているようだ。

「よかったな……というより、皆来るんだな」

よく見ると、村に続々と皆向かっている。東からはノワ族をはじめとする東部の亜人、川からはカッパが船にのってやってきていた。

イリアはこくりと頷く。

「はい。今日はめでたい日ですからね!」

「そんなにあの建物がめでたいか……まあ、せっかくだし今日は建国記念日と皆に伝えよう」

「そうしましょう」

イリアをはじめ皆がこくこく頷く。

そんな中、メッテがしみじみとした顔で言う。

「しかし……本当にこの村も大きくなったな。昔は、こんなにたくさんの家ができるなんて思わなかった」

ここは昔、天幕や茅葺き屋根の家があるだけの草原だった。それが今では城壁に囲まれ、街路樹や花壇、噴水……温泉なんかまである。

しかもこの村だけではない。西にも南にも亜人たちの住処がある。フェンデルは本当に大きくなった。

「家以外のものもたくさん。今思うと、本当に信じられませんね」

アスハの声にメルクも答える。

「仲間もいっぱい増えた。本当に賑やか」

「これも、ヨシュア様のおかげです。ヨシュア様のおかげで、私たちはたくさんの仲間を得ることができました」

イリアの声に俺は首を横に振る。

「前も言ったけど皆のおかげだ。それに……俺もここに来て、かけがえのないものを得られた。フェンデルの皆と出会えて……本当によかったよ」

俺はここで居場所を得ることができた。騎士団の歯車でしかなかった俺とはもう違う。

ウィズもなんだか感慨深そうに、俺の肩の上で体を縦に曲げた。そうだなと言わんばかりだ。

「ウィズもそう思うよな。本当にたくさんの大事な仲間ができた……ちょっと恥ずかしいが、今本当に俺は幸せだ」

心の底からそう思う。

イリアたちはそれを茶化すこともなく、私たちもと頷く。

イリアは微笑みながら答える。

「これからもずっと幸せに暮らしましょう」

「ああ」

俺は迷わず頷いた。

そうして東門をくぐり村に入ると、なんだか村は妙に飾り付けられていた。

家の壁や街路樹は色とりどりの草花や布で装飾されている。地面にはこれまた色鮮やかな花びらで彩られている。

道端では着飾った亜人たちが、俺たちを微笑ましそうに見ていた。

「おお、すでに祭り気分だな……うん?」

俺は前方からエクレシアとモニカがやってくることに気付く。

エクレシアはイリアに言う。

「皆、来たか。そうしたらまず……」

「エクレシアさん、よく考えたのですが、私たちはこの服装のままで行こうかと」

イリアの声にメッテも頷く。

「そうですね。ヨシュアの作ったこの服が一番だ」

「あれはあとで着る」

「そうですね。ちょっとあの服は綺麗すぎて恥ずかしいですし……」

メルクとアスハも同調した。

なんのことかと首を傾げる俺だが、エクレシアとモニカもそれがいいと頷いた。

亜人たちの服装を見ていると今日はやけに着飾っている。めでたい日だから着飾ろうとしたのだろう。

だが俺の作った服がいい……か。嬉しいことを言ってくれる。

そうして俺たちは再び村の中央広場を目指すことにした。

そんな中、メルクがぼそりと呟く。

「でも、よく考えたら、フレッタやモーたちに悪い。裾を持ち上げる練習を皆していた」

「気にしませんよ。それにしばらく他の人たちのけっこ……!」

モニカは慌てて、「結構続きますから!」と言い直した。

メッテが呆れた顔で言う。

「全くモニカは……特別な日だからと浮つきすぎだ。本番はヨシュアとのきす」

急に口を押えるメッテに、イリアは深いため息を吐く。

「あなたのほうがやらかしてますよ、メッテ……」

「ご、ごめんなさい!」

なんなんだ、いったい……

そんなことを考えている内に、俺たちは中央広場に到着した。

そこでは広場を埋め尽くさんばかりのフェンデルの住民がいた。

広場にはテーブルが並べられ、その上に豪勢な食事がこれでもかと置かれている。

楽器を奏でたり、踊ったりする者たちも多い。本当にお祭りのような雰囲気だ。

「すごいな……」

「同盟中の種族の方たちが集まってきていますから」

そう話すイリアの視線の先には、カッパのエナ、ノワ族のローナ、亀人のフォニアが集まっていた。皆も祭りに参加するようだ。

他にもベルドスや先ほど見かけたヨモツたちの姿もあった……って、なんかソルムもいる?

そんな中、セレスとユミルがこちらに気が付く。

「メッメー! きたっす! ユミルちゃん、始めるっす!」

「了解なのじゃ! ロネアよ、今じゃ!」

ユミルが小旗を振る先には、少し離れた場所にいるデーモンのロネアが。その周辺には筒のようなものが無数に置かれている。

ロネアはぺこりと頭を下げると、手に火を宿し、それを筒に次々と放った。

それからどかんどかんと音が鳴ると……

空には、大きな花──虹色の花火がいくつも打ちあがった。

周囲の亜人たちはわあわあと声を上げる。さすがの俺もこれにはおおと感嘆の声を漏らした。

「こんなに綺麗な花火、初めてだ。ユミルたちが作ったのか?」

「そうじゃ! この日のためにな! なんといっても、今日はワシらとヨシュアの結婚式じゃからのう!」

「へ?」

その声にイリアたちはあちゃーと残念そうな顔をする。

結婚式……建築の祝いにしてはあまりにも豪華だと思ったが……

もう隠す必要もないと思ったのか、イリアは俺にこう言った。

「も、申し訳ございません、ヨシュア様。ですが、こうでもしないとヨシュア様は結婚してくださらないと、ソルム様とイーリス様から助言を!」

「あ、あの二人……」

ソルムはすぐに目を反らす。

ソルムがいるのはそのせいか。俺の結婚を見届けようとしたのだろう。意外に俗っぽいところがあるな。

とはいえ、的を射ている。

俺はいままでもずっとイリアたちの好意に対して、はぐらかしていた。

自分みたいなのはイリアたちに相応しくない……そう考えたからだ。

でも、そんなことはどうでもいい。

俺はイリアたちが好きだ。

苦しい時を一緒に乗り越えてきた。皆と一緒にいると心が安らぐ。先も互いに口にしたように、俺はイリアたちとずっと一緒にいたい。

「駄目で……しょうか?」

とても切なそうな顔でイリアは言った。皆もどこか不安そうな顔だ。

しかし俺は首を横に振る。

「そんなこと、あるわけない…………俺は皆が好きだ。どうか俺とこれからも、ずっと一緒にいてくれ……って」

そこまで言って、俺は先ほども同じような言葉を口にしたのを思い出す。

しかしイリアたちは皆、心底嬉しそうな顔で首を縦に振る。

イリアもメッテもメルクも……皆、見せたことのないほどに嬉しそうな顔を見せてくれた。俺はとても穏やかな気持ちになった。

「もちろんです、ヨシュア様──そうしたら、結婚式を始めましょう!」

「へ? え? 誓いの言葉のこと? ──っ!?」

イリアは突如俺に抱き着き、唇を重ねてきた。

「ヨシュア様、好きです! だーい好きです!」

結婚式をなんか勘違いしてないかと言いたくなったが、イリアはおかまいなしに俺にキスを続ける。

「ああ! イリア様! するときは皆一緒だって!」

「だからメルクは言った。最初からこうなるって。結局早い者勝ち!」

メッテとメルクも俺に飛びついてくる。

「皆さん……もう、好き勝手して! 次は私です!」

アスハもそう言うと、エクレシアもモニカも俺に抱き着いてくる。

また、もみくちゃにされる俺。

「またか……」

しかし、内心はとても満たされていた。

言葉にしないが、俺はイリアたちにありがとうと告げる。

俺はこうして皆と結婚した。何かあれば互いに助け合い、仲良く皆で暮らした。たまにこの結婚式のように、争いになることもあったが……

それからのフェンデルには大きな問題は発生しなかった。ソフィスや皇帝の尽力もあり、フェンデルは襲われなくなった。

また、人と魔物、亜人の融和が少しずつ進み、大きな争いが徐々に起きなくなっていったのだ。

フェンデルはその後も順調に発展し、飛行艇で別の大陸を発見するまでに至る。その大陸の人々とも交流を始め、さらにフェンデルは繁栄していった。

俺はそれを見守りながら物づくりに熱中し……このフェンデルでイリアたちと末永く幸せに暮らすのだった。