軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

237話 止められませんでした!?

「ソフィスさん、傍らは私に!!」

イリアがそう叫ぶと、ソフィスは手を少し上げて、魔法を少し遠くへ飛ばす。

一方でイリアは、ソフィスに迫る無限とも思える人型の大群に斬り込んでいった。

遠くで爆発が上がり、近場の人型は青白い靄となって霧散していく。

近くと遠くの集団を倒したことにより、ソフィスの周囲にいくらかの余裕が生まれた。

メッテが言う。

「ヨシュア。私がメッテとアスハでイリア様を援護する。ここは任せた」

「ああ、頼んだ」

俺は頷くと、ソフィスのもとへ駆け寄る。

「ソフィス、大丈夫か!?」

「ヨシュア様……皆様……申し訳ございません」

ソフィスは魔法を撃ちながら、表情を曇らせる。

「……何があった? こいつらは?」

「彼らはキュウビの生み出した精霊。計画を完璧なものとするための軍勢です」

計画を補完するための戦力か。

人間と魔王軍が衝突したとしても、全てが戦いで命を落とすわけではない。どちらも被害が大きくなれば撤退を始める。その撤退を許さないためにキュウビは自らも軍勢を用意していたわけか。

決して強くはない。

メルクとアスハの魔法で倒せる、イリアの鬼人の角で鍛えた刀で斬れる、メッテの紫鉄の金棒も通用する……魔法と、魔力を宿した武器で倒せるようだ。

「つまり……キュウビの説得は上手くいかなかったのか?」

「……残念ながら。ですが、彼は迷っていた……もう一度、話ができれば」

ソフィスは祈るような顔で言った。

客観的に見れば、すでに説得は難しいように思える。ソフィスと対峙することを選んだのだ。全て覚悟の上だろう。

「しかし、分からない。なぜ、キュウビは新たな計画に首を縦に振らなかったんだ」

皇帝は俺たちの計画が成功するかどうか判明するまでは待つことにした。ここで政敵や各地の王侯貴族を葬れば、自分が世界を意のままに操ることができるようになる……だが、皇帝はその実行を待つことにしたのだ。

良心か俺たちに期待してか。いや、キュウビを全面的に信じることは危ういと考えたのかもしれない。

ソフィスはこう答える。

「キュウビには、母と再会する以上にやりたいことがある……」

そうだ。たとえば、キュウビもまた皇帝のように世界の統治を狙っていたとしたら。

いや、ソフィスを出し抜いて、そんなことはしない。ソフィスの反応を見るに、キュウビは苦渋の決断を下したように見える。

となればキュウビの思いは一つ──亜人と人への恨みだ。

「……亜人と人を徹底的に滅ぼす。そのためならば、恩人であるソフィスとも敵対するか」

俺が言うと、ソフィスは悔やむような顔で首を縦に振った。

「死と生の境目がなくなるのに、人の絶滅を望むのはおかしな気もする。そもそもキュウビは、そんな計画が成功するなどとは思っていなかったのかもな……」

「それはどうでしょうか……私が思うに、キュウビは門を築く過程をも利用したいのだと思います」

「利用?」

「キュウビの紋は、神をも欺くことができます。操ることは不可能ですが、認識の一つ二つを変えることは容易い。そこでキュウビは、神に人と亜人を滅ぼさせるよう仕向けるつもりだったのかもしれません」

そうすれば、大陸中の人間と亜人が消え去る。地上には魔物だけが残るということか。

「しかしそれは……」

「はい。自らも消え去るでしょう」

それだけの覚悟を以てということか。

俺はソフィスに問う。

「キュウビの計画が上手くいったとして、魔王軍は生き永らえることができる。むしろ人と亜人が消えれば、世界は魔王軍だけのものになる……」

ソフィスと魔王軍には悪い話ではない。この戦場にいる、魔王を軽んじる魔物たちがいなくなれば、ソフィスにとっても都合がいいだろう。

しかしソフィスは首を横に振った。

「皇帝にも言った言葉が全てです。あなた方には期待しているのです。ここであなた方を失いたくない」

ソフィスは魔法を放ちながら、前線で戦うイリアたちに目を向ける。

「私は魔王です。彼女たちの中には、私の部下である魔物たちに仲間や先祖を殺された者もいるでしょう。ですが、そんな怨敵である私を仲間と信じて、あなた方はここに来てくれた」

俺の親は魔王軍によって殺され、故郷は魔王軍によって焼き払われた。亜人たちの多くも、歴史的に魔王軍から被害を受けている。

「とても、裏切ることはできません」

ソフィスはきっぱりと力強い口調で言い放った。

俺はこくりと頷く。

「ありがとう、ソフィス……俺たちでキュウビを止めよう」

ソフィスは首を縦に振る。

「キュウビの居場所は……分かっていれば苦労しないな。まずは、この軍勢を全滅させるべきか?」

「いえ、ヨシュア様。ここは私にお任せください。キュウビがもし、人と亜人の絶滅を望むなら、そのためにもう一つ手に入れておきたいものがあります。それは、恨みの対象である──」

「フェンデルに匿われている」

ヨモツか。

「ヨモツが何故、必要なんだ?」

「彼は類まれな死霊術の使い手です。門を開く際、こちら側からだけでは開けられない。門の向こうの、死者にも手伝ってもらう必要がある。その際、強力な死者に呼びかけられるのがいい」

「ヨモツならできると」

「そうです。私を捕らえるのをこの精霊たちに任せたのなら、キュウビが向かったのはヨモツのいるフェンデルのはず」

ソフィスは、すぐにフェンデルに戻れと言っているようだ。

フェンデルの警備は厳重だ。しかしこの規模の精霊を送り込めるキュウビが相手となるとどうなるか。

「……だが、いいのか?」

「これは止められなかった私の責任です。すでに、増援を要請していますし、イリア様たちのおかげで皆も一息吐くことができました」

見ると、精霊までの距離が相当に開いていた。

イリアたちが大量の精霊を倒したおかげか、魔王の配下も少し休むことができたようだ。

「あとはお任せを。どうか、フェンデルにお戻りください」

「……分かった。向こうが終われば、すぐに俺たちも仲間を連れて戻ってくる」

「ありがとうございます。私たちも終われば、すぐにフェンデルに」

俺とソフィスは互いに頷き合う。

そうして俺たちは、再び飛行艇に乗り込みフェンデルへと急ぎ帰還するのだった。