軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

232話 出迎えました!?

「ふむ。まさか、この宮殿が早速役に立つとは」

俺と同じシュバルツ騎士団に所属していたソルムは、フェンデルの南西の山に築かれた宮殿を見上げて言った。

皇帝が来ると聞き、俺たちは昨日、魔王城から急ぎフェンデルに帰還した。

ソフィスとも相談し、皇帝との会談は俺たちが人間を歓待するために造ったこの宮殿で行われることになった。

この宮殿は、同じくシュバルツ騎士団に所属していた戦友──今はトレア王国の女王でもあるイーリスが築いたものと表向きにはなっている。

運用も、ソルムとヴァースブルグの人間たちがイーリスの配下として担当してくれる。

もともと豪華に造ったから、会談場所としては非常に適しているだろう。

「しかし、皇帝が……」

ソルムは深刻そうな顔で俺を見つめる。ソルムにだけはすでに魔王のことや皇帝が来ることも伝えてある。

「操られているとしたら……いったいどんな術を使ったのでしょう」

「付近には腕のいい魔法師が護衛として何名も付いていたはずだ。みすみすキュウビにやられるとは俺も思わなかったが」

「あるいは正気で協力を申し込んだ……いや、あの方にかぎってあり得ませんな」

ノルドス三世は人間の間でも名君と知られた男。思慮深く、優れた戦略眼を持っている。

そんな者が突然全ての人間国家に魔王軍との聖戦を呼び掛けた──この時点でキュウビとの関連が気になっていたが。

「ああ……彼がそんなことを本気で考えているとは俺も思いたくない。ともかく、脅威なのはキュウビだ」

宮殿の外で何か計画を進める可能性もある。だからフェンデルはもちろん、ヴァースブルグにも魔法を使えるノア族を見張ってもらう。

「とはいえ、主人であるソフィス殿を慕っているというなら」

「そこまで心配することはないと思う。それに、新たな計画はキュウビの望みを否定するわけじゃないんだ」

「ならば、あとはソフィス殿にお任せするのがよさそうですな。我らは、その手伝いをするのみ」

「そう、だな」

俺はソルムと頷き合った。

それから俺は、近くで作業台を囲むイリアとメッテの元へ向かう。

こちらに気付いたメッテが声をかけてきた。

「おお、友人との打ち合わせは終わったか?」

「ああ。そっちも、配置のほうは大丈夫か?」

俺が問うと、メッテが頷く。

「抜かりない。もともとヨシュアと私たちで作った宮殿だからな。それにユミルとドワーフたちが、偽鏡なるものを作ってくれた。表からは鏡に見えるが、裏から見ると窓のように透けて見えるらしい。王都で見たんだそうだ」

「おお、そんなものを作っていたのか」

会談をしている部屋に取りつけ、隣の部屋から鏡の裏を覗けば、こちらの存在にばれずに会談の様子が窺える。

いや、ばれないわけがないか……

皇帝は分からないが、キュウビなら魔力か何かで見抜いてきそうだ。

イリアも分かっているのか、こう答える。

「でも、この偽鏡を信頼しきってもいけません。魔力の動きを察知することもできるでしょう。やはり、ハイドを使える者と少数で、会談を見守るべきです」

「そうしよう。会談を見守るのは、俺とイリア、メッテ、メルク。アスハには空から、エクレシアには庭園を見張ってもらう」

「承知しました。あとは、会談……というよりは説得がうまくいけばいいのですが」

イリアが不安そうな顔で言うが、メッテは何も心配なさそうだ

「大丈夫ですよ、イリア様。あのソフィスはキュウビにとって恩人なわけですから」

メッテの言う通り、魔王はキュウビの恩人。ヨモツにとってもそうだった。

キュウビとヨモツは、ソフィスに何も告げず人間国家での工作を開始した。

俺たちに捕えられたヨモツは、ソフィスに損になるようなことはしなかった。ソフィスについては口を割らなかったのだ。工作も、計画に迷いのあるソフィスの背中を押そうとしただけとも考えられる。

キュウビもまた、ソフィスに危害を加えるようなことはしないはずだ。

もちろん、何が起こってもおかしくはない。だからこうして警戒をしているのだが。

イリアはメッテの声に小さく頷いた。

その翌朝、帝国の皇帝がついに宮殿のある山へと到着した。

俺やイリアたちフェンデル勢はハイドで山上に隠れる。ソフィスとソルムたちは、皇帝を出迎えるように宮殿の前で立っていた。

煌びやかな鎧に身を包んだ騎兵隊が山の麓に見える。

騎兵隊は俺たちが築いた緩やかな石畳の山道を上がってきた。

巨大な旗が翻る下には、小さいながらも一際輝く金の月桂冠を被った老年の男が馬を進めていた。あれが皇帝ノルドス三世だ。

その皇帝の周囲には護衛だけでなく、少数の王侯貴族も一緒のようだ。トレア王であるイーリスの姿もあった。

しかし、キュウビの姿は目視では確認できない。

宮殿の前に到着すると皇帝と王侯貴族は下馬する。そして出迎えのために立つソフィスと側近のもとに向かう。

皇帝はすたすたとソフィスの元へと向かった。その顔は穏やかだが、とても操られているようには見えなかった。

一方のソフィスはローブを着た格好で出迎えた。白い仮面を付け、素顔を隠している。本当の姿では威厳が欠けるからだろう。

王侯貴族や護衛はそんなソフィスを見て失礼なと口にする者もいたが、皇帝は気にせずソフィスに声をかける。

「魔王よ。我が会談の求めに応じてくれて感謝する」

「こちらこそ会談の場を設けていただき、感謝いたします。場を提供してくださったトレア王にもお礼を」

ソフィスが頭を下げるのを見て、イーリスもあわてて頭を下げる。

「こ、こんなこともあるだろうと思いまして」

「余からも感謝する、トレア王」

イーリスはこくりと頷くと、近くで侍るソルムと顔を合わせて言う。

「そ、それでは、宮殿の中に皆様をご案内いたします。会談の前に食事も」

「ありがとう、トレア王。しかし、余の分はいらぬ。会談は、余と魔王のみで行う」

そう話すと、周囲の皇帝の護衛や王侯貴族が危険だと声を上げる。

しかし皇帝は首を横に振った。

「山上という圧倒的有利な場所で待ち構え、我らに何もしなかったのだ。魔王に他意はなし」

その言葉に、周囲の者たちは黙り込む。

イーリスは少し困惑しながらもそう答えた。

「そ、そういうことでしたらそうしましょう。えっと」

ソルムはイーリスに視線を向けられ頷く。

「問題ございません。皆様がお食事をする隣の部屋を会談用に整えております故」

「それでは、余はそこに向かおう。魔王よ、いいな?」

皇帝の声にソフィスは深く頷いた。

「構いません。私も一刻も早くお話したいと思っておりましたから」

そう答えると、ソフィスと皇帝はソルムに案内され、宮殿へと向かった。

他の王侯貴族や護衛も、食事のためにその後を追う。

しかしその集団の中に、キュウビらしき者は確認できなかった。

さすがに皇帝の護衛や王侯貴族だけあって、魔力の高い者が多い……しかし、キュウビは見つからない。幻惑のような術を使っているのだろうか。

分からないが、魔王が来る場に何もしないとは考えにくい。

俺はイリアたちと頷き合うと、宮殿へと向かうのだった。