軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

229話 巨大でした!?

「ここが魔物たちの国……」

イリアは飛行艇の甲板から見える景色に見入っていた。

眼下に広がっているのは人間の街とそう変わらない風景だった。蜘蛛の巣のように張り巡らされた石畳の街道、城壁に囲まれた都市、どこまでも広がる田畑と牧草地。俺にもなじみのある光景だ。

俺たちを乗せた飛行艇は今、魔王城まであと僅かというところまできていた。ここらへんは魔王軍でも人に近い暮らしを営むゴブリンやオークがなどが住んでいるらしい。

イリアの隣でメッテが呟く。

「人の街にも驚きましたが、魔物たちの街も立派ですね」

「人間の街や村よりもいっぱいいるかも」

メルクのその言葉通り、人間の国よりも人口が多く見える。魔王城という魔王軍にとっての首都に近いから繁栄しているだけかもしれないが。

「あれ、ワイバーンですよね。人の国よりも、空も賑やかです」

アスハも先程から周辺を見て感心するような顔をしていた。

俺たちの飛空艇の周囲には、ワイバーンに騎乗したゴブリンが護衛として付いてくれている。

だが彼らだけでなく、物資の輸送などに多くのワイバーンやガーゴイルなどが従事しているようだった。日常的に空路を使っているのだろう。

ともかく……俺たちは、初めて見る魔王領に驚きっぱなしだった。

魔王領には俺も少し偏見を持っていた。もっと道が入り組むような複雑な街並みかと思ったが、建築物にしろ道にしろしっかりと計画されているのか、整然としていた。

セレスが得意げな顔でちっちと呟く。

「メッメー……皆、魔王領はこんなもんじゃないっすよ! 魔王城はもっとすごいっす! うちが案内するっす!」

「まるで魔王軍の者みたいな口ぶりだな……」

メッテがぼそりと答える中、紫色の髪を靡かせる黒い鎧の女性──魔王ソフィスが口を開く。

「私からすれば、空を飛び、たったの一日で魔王城に帰れてしまう、この巨大な船のほうが驚異に値しますが……これもヨシュア様が作られたのですか?」

ソフィスの問いに俺は首を横に振る。

「俺は材料を用意したに過ぎない。この飛行艇を設計してくれたのはドワーフだし、他の種族たちの力もなければ作れなかった」

「フェンデル同盟の皆さんで成し遂げた、ということですね」

俺はこくりと頷いた。

「ああ。だから、異界への門も俺たちなら作れる……そう信じている」

ソフィスは俺の目を見ると、無言で頷いた。その顔はどこか寂し気だ。

……これだけの魔物のトップだ。しかも、魔物たちは種族ごとに利害も大きく異なる。まとめるのは大変だろうし、常に孤独を感じているだろうな。

やがて、船首からメルクが声を上げる。

「でっかい山……いや」

メルクだけでなく、俺たちも飛行艇の向かう先を見て言葉を失う。

そこには空を貫くような建築物がいくつも立ち並んだ巨大な街があった。

俺たちの知る山をはるかに凌駕する高さの尖塔、それ自体で一つの街が入るかのようなずんぐりとした円形の建物……何もかもが、人間の使うものの十倍以上はある大きさだった。

イリアが呟く。

「まるで巨人の街……こんな場所があるなんて」

「これは魔王と魔物で作った?」

メルクが問うと、ソフィスは首を横に振った。

「これは魔王一人で作ったのです。最初の魔王が築いたとされています。彼は生産魔法の使い手だったので」

「へえ……人間にも魔王城は魔王が一人で築いたという言い伝えがある。やっぱり魔王はすごいな」

とても俺では敵わない。やはり魔王というのは格が違う。

感心する俺たちだが、ソフィスは小さく呟く。

「それは……どうでしょうかね」

「うん?」

俺が訊ねると、ソフィスはあっと何かを思い出すような顔をする。

「そういえば、今日は皆様に泊っていただこうと食事や泊る場所を用意させていたのです。ですが、まだ昼ですし、ここまで早いと……」

召喚石を魔法工房に入れるだけだ。そう時間はかからないから、今日にも折り返して帰ることができる。

ソフィスは少し言いづらそうに言う。

「よろしければ、お食事だけでもしていきませんか?」

イリアは無言でソフィスを見つめる。魔王城には何が仕掛けられているか分からない。早く去るべきと考えているのだろう。

何とも言えない空気が俺たちの中に流れるが、やがてメルクがこう言った。

「せっかくだし、ご飯だけでも食べていく?」

「メルクさん……そんな軽い感じで失礼ですよ。友達じゃないんですから」

そうアスハが言うと、ソフィスは「そうです、よね」と小さな声で答えた。

さらに微妙な雰囲気になると、メルクはその無表情な顔をアスハに向けた。

アスハは慌ててまた口を開いた。

「あ、で、でも! ……私も、少し魔王城の街に興味が」

しかし、イリアは真面目な表情を崩さない。

万が一ということもある。ソフィスほどの魔力の持ち主が不意を突いてくれば、太刀打ちできない……やはりまだ一定の距離は保つべきだと考えているのだろう。

だがやがて、メッテがこんなことを言った。

「まあ、私も魔王軍の者たちが何を食べているかは気になるな」

腕を組むメッテの目は、イリアに向けられている。イリアは不安そうな顔で視線を返した。

しばらくするとイリアは呆れるような顔で溜息を吐く。

「仕方ないですね……ちょうどお昼時ですし、せっかくですからここで食事をさせてもらいましょうか」

顔を向けてきたイリアに俺はこくりと頷く。

「そうだな……まだまだ時間には余裕がある。ソフィス。昼食だけでもいただいていいかな」

「ほ、本当ですか?」

ソフィスは意外そうな顔で答えた。俺たちが首を縦に振るとは思わなかったのかもしれない。魔王は俺たちと協力関係にあるとはいえ、他の魔物は違う。ここは敵地のど真ん中のようなものだ。

「いや、もちろん迷惑なら」

「そんなことは。すぐに用意させます」

ソフィスはそう答えると、部下の黒い鎧たちに食事を用意するよう命じた。

どことなく、ソフィスは嬉しそうな顔をしているようにも見えた。

自分のいた世界の者と会いたい。そうソフィスが望むのは孤独を感じているからに他ならない。

ヨモツもキュウビも孤独を感じていた……

ソフィスが二人の力が必要だから召し抱えたのは間違いないだろう。

しかしただ力だけが必要なら、部下の魔物たちに使った幻惑の魔法を用いればいい。

そうしなかったのは、大事な者を失ったヨモツとキュウビにどこか思うところがあったからだろう。

心のどこかで、ソフィスは今も仲間を求めているのかもしれないな……本人がそれに気づいているかは分からないが。

それから間もなく、俺たちを乗せた飛空艇は魔王城近くに着陸するのだった。