軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217話 お迎えの準備が整いました!

「これはすごいことになりましたね……」

ソルムは宮殿の周辺一帯を見て言う。

宮殿の周囲は庭園で囲まれ、いくつもの建物や温室が見える。

「ああ。これなら数年は遊んでも飽きないだろう……」

フェンデルの技術と知恵を結集して完成した宴会場……宴会場と呼ぶには、いささか規模が大きいか。

「ともかく設備はできた。あとは管理と運営だが」

「私やヴァースブルグの者にお任せください。イーリスにも伝えて、調度品などを運びに一足先に来てもらいましょう」

俺はうんと頷く。

「貴族たちには貴族たちの作法があるからな。人間に任せた方がいいだろう。食材などはロバや馬で運ばせるようにする」

さすがに飛行艇を見せびらかすわけにはいかない。

基本的には、ここに王侯貴族が来た後、俺たちは接触を避けるつもりでいる。この宮殿をイーリスたちに貸し出すわけだ。

ただし、それでは俺たちに何の利もない。

だからイーリスには、この宮殿はフェンデル同盟から人間たちへの贈り物としてもらったと言ってもらう。

かつて奴隷商に俺が言ったように、フェンデルを強大な勢力として思わせるのだ。王国ではすでに友好的な仲間として伝わっているが、他の国ではまだ名前すら知らない者もいるはずだ。

もちろん、すでに逃亡した奴隷狩りやシュバルツ騎士団の者から、南方に強力な亜人がいると聞いた貴族たちもいるだろう。そういう者に、フェンデル同盟は人間に敵意を持っていないと伝えるためでもある。

そうすることで、人間がフェンデルを襲わないようにさせたい。また、人間が奴隷狩りを躊躇うようにさせるのも目的だ。フェンデルを怒らせれば報復されるという恐怖を与える。

そんな中、突如イリアが何かに気が付いたような顔をする。

と思えば、すぐに刀を抜いた。

メルクも耳をピンと立てる。

「どうした、二人とも? あっ」

俺にも分かった。魔力の反応が高速でこちらへとやってくる。

「こいつは……」

視線を向けると、そこには空を飛ぶ黒い鎧が。見れば背中には、大きな黒い翼が生えている。

姿を隠すことができたはずだがそうしないのは、こちらを警戒させないためだろう。

鎧の接近に気が付いた周囲の亜人たちはざわつきだす。武器を構える者もいるが、イリアが攻撃を待つよう命じた。

黒い鎧は近づくと徐々に速度を落とし、俺たちの前にすっと降りてきた。

そして頭を下げる。

「突然の来訪をお許しください」

「前にも来たな?」

翼こそ生えてなかったが、こいつは以前グリニアと一緒にやってきた鎧で間違いない。全く同じ意匠の鎧だし、声も同じだ。

ソフィスという名で、何故かグリニアも知らない魔王の言葉を俺に伝えた。ヨモツと狐人の命を助けてくれと。

俺はそれを約束した。

また魔王に敵意がないと伝えてくれとこのソフィスに頼んだのだ。

とすると、こいつは魔王にすでに俺の言葉を……

ソフィスは答える。

「はい。以前お伝えいただいた魔王様へのお言葉。しかと、私の口からお伝えしました」

「そうだったか。それで、なんと?」

「一度、お会いできないかと仰っていました。つきましては南方の魔王軍の陣幕にまで、一度お越しいただけないでしょうか?」

「そこで、停戦協定について話し合おうと?」

「そうです」

「どこか、中間地点では駄目なのか?」

「それは……私はお言葉を伝えるように命じられただけ。申し訳ございませんが、魔王様にお伺いを立てるため一度帰る必要があります」

ソフィスの声に、イリアが何かを喋りたそうにしている。危険だと俺に言いたいのだろう。

たしかに危険だ。しかしここで断れば、魔王はもう接触してこないのではないか……そんな気もした。

このソフィスは明らかに特別だ。グリニアとは違った。

グリニアは帰るなり魔王に俺たちから受けた仕打ちを伝え、オルトたちを俺たちに攻撃するよう仕向けた。

それを了承する魔王が、今度は黒い鎧を送り、俺たちを呼び寄せる……あまりにも煩雑すぎる。

最初から俺たちを謀殺したいなら、黒い鎧に最初から俺たちを呼び寄せるよう伝えればよかったはず。

俺が思うに、グリニアとオルトが話した魔王と、このソフィスの魔王は違う。

そしてこれは陰謀……というよりは、何かのメッセージと取るべきじゃないだろうか。

イリアたちが心配そうな目を向けたので、俺は頷いてみせた。

「……願ってもないことだ。だが一ついいか?」

「なんでしょう?」

「その魔王は、本当に魔王なのか?」

「魔王様は、この世界に……お一人しかおりません」

「そうか。悪いがもう一ついいだろうか?」

「お応えできることならなんなりと」

「その翼は、前は見せなかったな?」

黒い鎧はそう言われて、自分の背中のほうに首を回す。

それからゆっくりこちらに顔を向けた

「……自由に隠すことができます。このほうが、遠くからでも皆様から分かりやすいと思いまして」

「そうか。作り物と、以前は口にしたが随分と精巧だな」

何かを隠しているのは疑いないな……

だが、魔王……を名乗る者と接触する機会ができた。

危険は承知だが、乗らない手はない。

「ともかく、魔王には分かったと伝えてくれ。数日以内には向かう」

「はっ、魔王様にお伝えいたします」

黒い鎧はそう答えると、すっと消え、南の空へと帰っていった。