作品タイトル不明
181話 猫を見つけました!
「あそこの沼地で、たしかエナを助けたんだよな」
メッテは砂浜の奥に見えた沼地を見て言った。
俺はコクリと頷く。
「ああ。マッドスライムのいた場所だな」
「あのときはクラーケンの毒があったからよかった」
メルクが呟くとメッテは苦笑いする。
「そもそも、そのクラーケンも怖かったよな……また、襲われないだろうか」
「そうそう何匹もいるようなやつじゃない……多分」
俺が自信のなさそうに言うので、メッテは心配そうに船の周囲を確認し始めた。
イリアがそれを見て言う。
「何が来ようとヨシュア様の敵ではありません。落ち着きなさいメッテ」
「そ、そうですよね。私たちにはヨシュアと……ええ、大丈夫です」
メッテはそれ以上に何も言わず頷いた。
イリアは一瞬首を傾げるが、すぐに俺に話しかけてくる。
「とはいえ、東にも強力な魔物がいそうですね」
「ああ。まあ……フェンデルの近くも正直危険な魔物ばっかだったんだが」
感覚がマヒしていたが、そもそもフェンデル周辺にいたアーマーボアやヘルアリゲーター自体が強力な魔物だ。
もっと人の少ない東にいくなら、更に強力な魔物がいる可能性もあるが……
アスハが帆に風を送りながら、こう呟く。
「私たちが見た限りでは、東でもやはりボアが多いですね。砂浜はやはりシールドシェルが」
天狗たちの情報によれば、特段目に見えて変わった魔物はいないようだった。
「とはいえ、油断はできない。皆、なるべく離れ離れにならないようにな」
俺の声に皆おうと頷いた。
そんな中、メルクが南をぼうっと見ながら言った。
「南には、何がある」
「そうだな。少し西からずっと南へ行けば、魔王軍の住んでいる南大陸が見えるだろう。だが、ここから南となると俺も何があるか」
そう言うとメルクは再び、南の水平線に視線を向けた。
「メルクは村でじっとしているより、冒険が好きか?」
「そんなことない。でもヨシュアと一緒ならどこまで行ってもいい」
「め、メルク……」
素っ気ない喋り方のメルクだが、俺は聞いていて嬉しくなる。
それを見たイリアもすかさずこう言った。
「私もヨシュア様と一緒なら地の果てでも……あの世でも!」
「あの世は一緒にいっちゃいけないだろう……まあ、いつかは行ける限り南に行ってもいいかもな」
「東も北も興味があります。もっと簡単に行き来できるといいんですけどね」
イリアの声に俺は頷いた。
「飛行艇が作れれば、それも解決するかもな」
ユミルディアの地下で入手した空を飛ぶ船の設計図。あれを作れれば、わざわざ川や海を通る必要もなくなる。
ドワーフたちが設計を進めてくれているし、俺も東で何か使えそうな物が見つけられると良いが。
そんな中、メッテが言った。
「皆、そろそろ腹は減らないか?」
「たしかにもうお昼だな。少し浜で休憩しようか」
メッテは船酔いしやすい。エントの葉があるとはいえ、無理は禁物だ。俺自身、船にそう強いわけじゃない。
皆、俺の言葉に首を縦に振る。
なので俺たちは近くの浜に上陸し、そこで料理をすることにした。
調理場を作り船を回収すると、俺はメッテと一緒に料理を作り始めた。
一方でイリア、メルク、アスハたちは周囲に魔物がいないか見にいってくれた。シールドシェルが何体か襲ってきたようだが、イリアの前では瞬殺だ。
「できたぞ! さっきエナが獲ったばかりの魚だ!」
浜に置いたテーブルの上に、メッテが料理を配膳していく。
香草の乗った魚のステーキと、カブのスープ、それとグランク麦のパンだ。
優しい潮風が吹く中、俺たちは食事を始めた。
「美味しい……」
「メッテ、腕を上げましたね」
アスハとイリアがそう褒める中、俺も料理を味わいながら無言でこくこく頷く。
エナによればこの魚は生でも食べられるらしいが……今度挑戦してみよう。
しかし、最初は焼いた肉や魚がほとんどだったが、ここまで食事が豊かになるなんてな。
そんなことを考えていると、メルクが突如耳を立てる。
そして茂みのほうに目を向けた。
「何かが狙っている。気を付ける」
「私が見てきます」
イリアが立ち上がろうとするが、俺はその手を引く。
「いや、魔力の形からして、恐らくは犬や猫だ。狼にしては小さいし、心配することもないだろう。それに一匹だけだ」
俺は茂みの中の魔力を見て言った。
「なら、少し魚を渡せば帰っていくだろう。ほら」
メッテは魚のステーキをほぐすと、それを乗せた皿を茂みの近くに置く。それからテーブルに戻ってきた。
するとしばらくして、茂みがガサガサと揺れる。
中から出てきたのは、赤い瞳の小さな黒猫だった。
「可愛い……」
アスハは思わずそう呟いた。
黒猫はこちらを警戒しながらも、魚を少しずつ口に運んでいく。あっという間に、全て平らげてしまった。
「お腹が空いていたんだな。ほら、スープも」
メッテはスープの入った皿を置いて、黒猫に飲ませた。
黒猫は満足そうな顔をすると、再び茂みに戻っていった。
メルクがそれを見て呟く。
「こんな場所で珍しい」
「ええ、私たちも猫はあまり見ませんね」
イリアもそう頷いた。
俺もフェンデルに来てから、野生の猫や犬を見たことがない。やはりボアやヘルアリゲーターにやられてしまうからだろうか。
「連れていきましょうか?」
アスハがそう言うと、メッテも「それがいい」と黒猫に近付こうとする。
しかし黒猫は逃げるように遠ざかってしまった。
「ううむ。ちょっと難しいかもな」
「無理して連れていくのも悪い。そっとしておこう」
俺の言葉に皆、賛成してくれた。
それから再び俺たちは船を海に浮かべ、海岸線に沿って東へと航海しだした。
だが、メルクがあることに気が付く。
「さっきの黒猫も同じ方向に走ってる」
「ついてくるつもりでしょうか?」
アスハがそう言うが、メッテが答える。
「夕食も狙っているのかもな。まあ、しばらくしたら飽きるだろう」
しかし、黒猫はずっと俺たちを追ってくるのだった。