軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61 暴露

「……なんてことだ」

エメルは私の前世の体験を、私がエメルに伝えたまま正確に、兄に伝えてしまった。

私はそれをただ、呆然と見ていた。

頭を抱えていた兄は険しい顔のまま、ベッドに乗り上げ、ドラゴンに威圧され動けずにいる私を、グイッと自分の懐に全て入れ込むように抱きしめた。

「もういい。前世と交わらないローゼンバルクでのんびり過ごせ。クロエを脅かすものは、俺が始末する。王子であれ、教育者であれ」

「お兄様……」

ようやく声が出た。

「体調が回復しだい、連れて帰る」

「でも、通わねば、貴族として瑕疵が……」

「クロエを失う可能性があるのに、学校に通わせる? 冗談じゃない!」

そううまく行くだろうか? でも、兄の気持ちが嬉しい。それに、

「お兄様は、こんな荒唐無稽な話を信じてくれるの?」

「……当たり前だ。真実だから、話せなかったんだろう? 全く腹が立つ! ようやくこれまでのクロエの言動と辻褄があって、スッキリしたくらいだ」

「私のこと、おかしいと思わないの? 嫌いにならない?」

「クロエ、俺が情もない、そんな薄っぺらい男だと思っているのか?」

兄が凄む。

「ご、ごめんなさい」

「いや、俺が経験したことのない苦痛を味わってきたんだ。きつく言いすぎた」

兄は、はあ、とため息をつき、私の頭に頰を載せた。

「クロエ、他に隠し事はないな?」

「はい」

「家族はな、重い問題であればあるほど、皆の問題として対処し、協力して立ち向かうものなんだ。わかるか?」

「…………」

「知らなかったのなら、覚えろ!」

「……はい」

「俺はおじい様に辺境伯としての権限を預けられてきた。明日、届けを出して、退学させるから。もうクロエ一人の問題ではない。全て俺に任せるんだ。いいな?」

「はい」

『ジュード、頼んだぞ』

「わかってる。エメルはしばらくクロエから離れないでほしい。そして、容態が悪化でもするならすぐに連絡して」

『了解〜』

「お兄様もエメルも……過保護すぎだわ」

「……足りないくらいだ。またしても一番大切なものを失うところだった。俺は猛烈に後悔しているよ」

◇◇◇

その晩は涙目のマリアに身体を拭いてもらい、パン粥を少し食べてエメルを抱きしめて寝た。兄は王都での仕事をしつつ、夜中もちょくちょく様子を見にきていたらしい。

そして朝、遅く目覚めると、既に兄はいなかった。

「ローゼンバルク辺境伯として、学校と王宮に向かわれました」

ベッドから出ようとする私を、ベルンはニッコリ笑って押し戻しながら教えてくれた。

ゆっくり調剤して過ごそうと思っていたのだけれど……諦めて、ヘッドボードにもたれるように腰掛ける。

「ベルンから見て、私の退学、許されると思う?」

「許す許さないではありません。ジュード様は激怒されています。誰も否と言えないでしょう」

「激怒……しているの?」

「最愛の妹がいわれなき誹謗中傷を受け倒れたのです。心労であれば特効薬もなく、ただ見守るしかできなかった。ホークの手紙ではお館様は王都に向けて兵を招集しかかったと」

『リチャード、やっちまえ!』

「エメルってば! だめよ。止められたの?」

「一応は。でもクロエ様を知る者皆同じ気持ちです。私も、柔らかな草の繭をこじ開けて、血の気なく気を失ったクロエ様を見たときは、息が止まるかと思いました。ここまで追い詰められたのかと……」

結婚して表情豊かになったベルンが、唇を噛み顔を歪ませる。

「ごめんね。ベルン」

ベルンがそっと私の頭を撫でる。

「クロエ様をこの屋敷に戻し、休ませるのが最優先でしたので、私は真っ直ぐここへ戻りました。そのあとはクロエ様が発熱されたので私はここを離れておりません。ジュード様は私の連絡を受け、自力でこちらに向かわれる傍ら、在学中のツテを最大限に使われて、クロエ様がどのような仕打ちを受けたのか、情報を集められました」

「私が……虐められたから、倒れたと思ってる?」

「それだけではないのでしょうが、間違いでもないでしょう」

私への中傷が、前世と重なり、私の容量を超えたから倒れたんだけれど……まあ、きっかけには違いない……か……。

「ジュード様は到着後、学校と王家に説明を求めました。隠蔽するには目撃者が多すぎたのか、双方とも正直に詳細に説明してくれましたよ。話を聞けば聞くほど……お粗末な学生と第二王子で……。王家からの説明は、あの場にいらっしゃったシエル侯爵令息でした。前回の件で、クロエ様を贔屓にされているようで、大変心配していらっしゃいました」

「そう……」

「フィドラー子爵は当主自ら謝罪にいらっしゃいましたが、ジュード様が追い返しました。アルマンの方は体調が改善したようで、山のようにお礼の品が届きました」

「ああ、ベルン、お薬渡してくれたの?」

「ええ、クロエ様が倒れる前でしたので、何の迷いもなく。クロエ様の受けた仕打ちを聞いていれば見殺しにしましたが、命拾いしましたね。まあそのお礼の品もジュード様が突き返しました」

「……そう」

思わず額に右手をあてる。

今更だけど、彼らは辺境伯は身内がバカにされて黙っているお人好しだとでも思っていたのだろうか? 内にも外にも苛烈であることを態度で示さねば、あの地を守り抜くことなどできないのに。

兄の、祖父の耳に入ってしまっては、もうどうしようもない。

「そしてジュード様は、領外への薬の供給を全てストップしました」

「うそ……」

「薬を作ることで、妹が危険にさらされた。望みどおり、妹は心労がたたって死んだと思ってくれと」

それは……王家も黙っているわけにはいかなくなった。この冬、前回のようなジリギス風邪が流行でもしたら、倍の死者が出るのではないだろうか?

「こんなに大事になっちゃって……どうしよう」

思わず声を震わせる。

「クロエ様、あなたは我々ローゼンバルクの自慢であり、宝です。あなたを傷つければローゼンバルクの民全員が牙を剥く。それくらい予測がつかないほうが愚か。あとはジュード様にお任せするのです」

「でも、迷惑ばっかりかけてる……おじい様に養女にしてもらって以来、ずっと……」

「お嬢様!」

ドアそばで私と夫を見守っていたマリアが駆け寄って、私の肩をギュッと抱く。

「クロエ様は……死に覆われ陰鬱としたローゼンバルクにようやく咲いた、かわいい一輪の花です。クロエ様がローゼンバルクにやってきて、皆が明るく、幸せになった。それまでのローゼンバルクを想像してご覧なさい。ただただ男くさいでしょう?」

ベルンが口の端を片方だけ上げた。

「ふふふ、そうね、お嬢様がいなければ、私もここにいなかったものね」

「そう、最愛のマリアもいなかった。クロエ様は私のキューピットでもあります」

「キューピット? 初めて言われたわ」

嬉しい。

「ありがとう、ベルン、マリア」

「大好きですよ、我が子のように」

「愛してますわ。お嬢様」

ああ、私に優しくしないで。慣れたら、次に堕ちたとき、立ち上がれなくなる……。