軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【コミックス三巻発売記念!】ローランドの大切な一日(後)

それからジュードお兄ちゃまとエメルちゃんと三人で、おふろに入った。実は二人は遠くから飛んできたからホコリまみれで、僕がぎゅーしたから僕まで汚れちゃったんだって。

お兄ちゃまのお部屋で、エメルちゃんが〈風魔法〉でブワーッと僕の体を乾かしてくれて、お兄ちゃまが氷の入ったお水を飲ませてくれた。

うう……せかいはカッコいい魔法ばっかりで、僕、悩んじゃう。

◇◇◇

そろそろお昼だから、お母さんのいるメイド長のお部屋に行かなきゃ。僕は二人にバイバイして一階に降りた。すると、いつも閉じている、茶色の大きなドアがちょっとだけ開いていて、僕はそーっと覗いた。

大きな机の向こうの、じい……じゃなかった。おやかたさまと、パチっと目が合った。

おやかたさまはまじめなお顔のまま、手でおいでおいでをした。だから僕はいつもどおり、こっそり中に入ったよ。

「おやかたさま、おはよう、ん? もうこんにちはかなあ」

そばまで行ってご挨拶したら、ヨイショって抱っこされた。

「うむ。ローランド、二人だけのときは、じいでよい」

「じいっ!」

「うむ」

じいは引き出しを開けると、いつもの甘いクッキーを取り出して、僕のお口に入れてくれた。

「うふふ。おいしいねえ」

実はね、じいの引き出しにはお菓子がいっぱい入ってるの。僕のためだって!

「ん? ローランド、いい匂いがするな」

「今ねえ、ジュードお兄ちゃまとエメルちゃんとお風呂に入ってたの。石けんの匂いかも」

「……そうか。午後に神殿に行くとベルンが言っておったな。清めてやったか」

「じい?」

「いや、気持ちよかったか?」

「うん。エメルちゃんがね、いっぱい泡ブクブクしてくれて、エメルちゃんとお揃いのツノを、僕の頭に作ったの」

「エメル様を友達扱い……ローランドは大物になりそうだな」

じいは困った顔のまま笑った。なんでー?

「ねえねえ、じいの〈木魔法〉もカッコいいよね」

「無論だ」

じいが今みたいにニヤッと笑うの、すごく好き。

「僕にはどんな魔法が似合うと思う?」

僕がそう聞いたら、じいは指を机にトントンした。

「ふむ……ローランド、魔法はな、まだ誰も知らない魔法もあるらしい」

「そーなの!?」

今でも覚えられないくらいたくさんあるのに? びっくりだ。

「だから、ローランドになんの魔法が一番似合うかは、わしにもわからん」

「じいにもわかんないのか……」

一番えらいじいにわかんないなら、僕、ますますわかんない。

「だから、とりあえずは、神殿でローランドにオススメしてくれた魔法を練習してみるといい。わしはそうだった。そうしているうちに、〈木魔法〉が好きになった」

「そっかー! じゃあ僕もそうしよう!」

神様のオススメなら間違いないね。ねえねえ、神様って瑠璃色のドラゴンなんだって。知ってた? エメルちゃんが内緒だよって教えてくれたんだ。

「じい、僕、がんばるぞー!」

僕がそう言って両手を高く上げたら、じいは笑ってもう一枚クッキーをくれた。こ、こんどは干し葡萄が入ってるじゃないかっ!? ぜいたくっ!

僕はにこーっとじいに笑ってモグモグ食べてると、コンコンって音がして、ニーチェおじちゃんが入ってきた。

「お館様、こちらの決済を……ローランド! こんなとこにいたの? お母さんが探してたよ?」

「え、お母さんが? わかった。じい、バイバーイ!」

「そしてローランドの口にクッキーのカス! またお菓子を食べさせて……お館様、こないだマリアさんに怒られたばっかりでしょう! おやつは午後だけだって! 昼ご飯が入らなくなるのは困るって!」

「いやその、しかしだな、せっかくここに……」

じいはイスの下のほうで、バイバイを返してくれた。

◇◇◇

お父さんとお母さんと一緒に一回お家に帰って、お昼ご飯を食べて、ボタンが首のすぐ下までついてるちょっと窮屈なお洋服に着替えて、家族で神殿に行った。

神殿には『りょうしゅかん』のみんなや、ここの『よういくいん』のお友達がいっぱい集まってて、びっくりしちゃった。

「ローランド!」

「お姉ちゃん!!」

僕のお姉ちゃんが、一番前の家族席で待っていて、しゃがんでぎゅーしてくれた。

「ローランド、五歳のお誕生日、おめでとう!」

「ありがとう!」

僕のお姉ちゃんは可愛くて、お薬も作れて、とっても優しいの。自慢のお姉ちゃんだよ!

「お嬢様、西の領境の整備から戻られるなんて……。ずいぶんと無理したのでは?」

「マリア、私がローランドの節目の日を外すわけないでしょう? それに絶対……絶対に今日を、ローランドにとって幸せな日にするの。私のように目には……」

「クロエ様……ありがとうございます」

僕を抱っこしてるお姉ちゃんごと、お父さんとお母さんはぎゅーっと抱きしめてくれた。へへへ、幸せ。

オルガンの音が流れ出したら、みんなイスに座った。ソワソワしてたら、いつもそこで畑仕事をしてるおばあちゃん……ドーマ神官長がやってきた。今日のドーマおばあちゃんは、とってもキラキラしたお洋服を着ている。ビックリ!

ドーマおばあちゃんも、僕が産まれた時に一緒にいてくれたんだって。僕のお産は大変だったんだ、ってみんな言う。だから僕が元気だと、みんな嬉しいんだって。

「では、適性検査を始めましょう。ローランド、この鑑定石を両手で包むように触ってごらん」

「はい」

僕はドキドキしながら祭壇に歩き、台の上のまんまるで大きな石に手をおいた。思ってたよりもツルツルしてた。

すると、石の上がピカッと光った! いっぱい何か書いてあるけれど、まだ習っていない字ばっかりで、読めないよ。

「ほお……なるほど?」

ドーマ様が愉快そうに笑った。

「「「ドーマ様!」」」

じれったそうに、お父さんとお母さんとお姉ちゃんが叫んだ。

『ドーマ! もったいぶるな!』

エメルちゃんも!

するとドーマおばあちゃんは、ふふふって笑って、僕の前にしゃがんで、目を合わせる。

「わかりました。では、ローランドの適性は……」

みんながごくっと息を呑んだ。

僕も……ドキドキが止まらない!

「〈雷魔法〉です! ローランド、よかったね」

……カミナリ? お空でピカッと光るアレ? 考えたこともなかったてきせいに、僕がボーゼンとしていると、急に後ろの方から大声がした。

「俺の勝ちだーーーーーー!!」

ホークおじちゃんが、ガッツポーズしながらビューンって走ってきた! そして僕を抱き上げて、わっしょいわっしょい祭壇でぐるぐる回りだした。

「マジかよ……俺が育てたかったのに……」

「ゴーシュはトリーがいるでしょう? 俺が水を基礎からしっかり……」

「ニーチェだってザックがいるだろうが!」

「ダイアナ、お館様に連絡!」

「デニス、わかったわ……はい、飛ばしたー」

みんなが大騒ぎしているあいだ、僕はホークおじちゃんにほっぺをスリスリされている。

「ホークおじちゃん、おひげが痛いってば!」

僕がそう言うと、こわい顔したお父さんがおじちゃんから僕をとりあげ、お母さんの腕に戻してくれた。

「〈雷魔法〉かあ、ステキね! ローランド。おめでとう! お母さんに、いっぱい雷見せてね」

お母さんは目をキラキラさせて、そう言った。

「うん、まあホークの弟子になるかは置いといて、ローランドおめでとう」

お父さんも、ニコニコしながら、僕を撫で撫でしてくれた。

「ローランドー! 〈雷魔法〉おめでとう!」

お姉ちゃんもニコニコ笑って、ほっぺにチューしてくれた。

「お姉ちゃん、雷ってカッコいいの?」

「魔法はなんだってかっこいいわ! でも、ローランドが頑張ったら、雷はパワーもあるし、雨も降らせられる。私の〈草魔法〉を助けてもらえるわ」

『オレも雷はあんまり知らないんだよね。いっちょ、オレもローランドと一緒に勉強しようかな』

「エメルちゃんと一緒に!? 楽しそう!」

「よーし! 俺の全てを、ローランドとエメル様に託すぞー!」

「ホーク、興奮しすぎだよ」

また僕を抱っこしそうになったホークおじちゃんを、お兄ちゃまが後ろから捕まえてる。

「みんなー! 今日は宴会だー」

「「「「うおーーーー!」」」」

トリーお兄ちゃんの合図であっちこっちでバンザイもおこって、もう大騒ぎ。

そんなわちゃわちゃな神殿をドーマおばあちゃんは見回して、楽しそうに笑ったあと、僕に祈ってくれた。

「これからも、ジーノ神のお導きで、ローランドが健やかに育ち、その神に与えられし〈適性〉で世の役に立ち、幸せになりますように……」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

◇◇◇◇◇◇

◇◇◇

それから十数年経ち……

四大魔法でない自分がのびのびと魔法を伸ばす環境だったローゼンバルクがどれほど素晴らしい場所だったのか?

希少魔法であるにも関わらず、身近にホークという、タフで愛情深いうえレベルMAXという最高の師がいたことがどれほど幸運だったのか?

そして自分がどれほどの愛に包まれて育ったのか?

大人になり外の世界に出て初めて、私は思い知るのだった。

そんな素晴らしいローゼンバルクという帰る場所がある私は、結局、どこへ行こうと無敵だった。

手首の師弟紋を空にかざして思う。

父さん母さん、師匠、エメル様。そしてお兄……お館様と姉様。

私は元気にやっています。

全ては愛するローゼンバルクのために。