軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163 【コミックス二巻発売記念!】庭師ルル(前)

リールド王国最南端の小さな町で、私は祖父の友人に弟子入りし、庭師見習いになった。ちなみに親方は、庭師に学歴は不要と、敢えて私がリールド学校卒であることなど、周囲に話さないでくれている。

王都から遠いこの地、誰も私の事情を知らない。私は生まれ変わったように生活している。

「ルルは庭掃除も草むしりも黙々とやってくれるから助かるよ。さすがトムの孫だ!」

親方の言葉に曖昧に笑って俯く私。私は過去に大きな間違いを犯した。信じるべき人を裏切った。じいちゃんと、姫さま。

じいちゃんは私と姫さまと手を繋ぎ、姉妹弟子としていつまでも協力し合うようにと常々言っていたのに。

小さく痩せた姫さまは、凛々しい修行中以外は、カルガモのヒナのようにニコニコと私の後を追い、慕ってくれたのに。

姫さまは、たとえどんなに魔法が強くても、その生い立ちゆえにその心は傷つきやすく、もろいと知っていたのに。

私に褒められる資格はない。

じいちゃんはきっと、天国で怒っているだろう。ちょっとじいちゃんの墓を綺麗に整えたくらいで許してくれるわけがない。じいちゃんは結構怖いのだ。

「ルルは下地ができているから、本当はもう庭を触らせてもいいんだが……まあ、順番ってものがある。辛抱しろ」

親方には、私よりも先に取った弟子が三人いる。そしてその中には私よりも技術が下の者もいる。そりゃそうだ。私は適性ではないとはいえ、生まれたときから、祖父と父のもとで庭を学んできたのだから。

でも、出過ぎると叩かれることを私はよく知っている。

姫さまも素晴らしい薬を作れるからこそ、学校でいじめられていた。ノートを差し出すくらいしかできなかった自分が不甲斐ない。

だから、兄弟子たちを追い越そうなどは思わない。ゆっくりでいいから、父とも祖父とも違う、ここの親方の技法を吸収する。

いつか、姫さまに自分から連絡できるような庭を作るのだ。

「ルル、おまえ今週早朝番だろ? もう上がれよ。あとは俺が引き継ぐ」

私の一つ上の兄弟子マルクが、顎で促す。彼は私も含めた弟子の中で一番腕がいい。そっけないところもあるけれど、面倒見がいいのだ。

私は男兄弟はいないし、学校で友人もできなかったから、若い男性とうまく意思疎通ができるか不安だったけれど、マルクが私に命じ、私は返事をするだけという関係は、私にとって楽だった。彼は決して理不尽な要求はしない。常に 正(・) し(・) い(・) 。

そこからスタートした兄弟弟子の関係は、今では質問できるまでに成長した。彼は眩く長い金髪を一つに結び、首には汗拭きの布を巻いている。瞳は姫さまの若草色よりも、ずっと濃いグリーンだ。

「マルク兄さん、ありがとうございます」

私は頭を下げて、仕事を上がった。

うちの親方は、じいちゃんのように一つの貴族の使用人となり庭を保持する庭師ではなく、造園がメインで、一年ほどかけて庭を作り上げたら次の仕事場に移る。親方の庭は斬新で評判が良く、紹介で十年先まで仕事の予定が入っているそうだ。

今の職場はこの子爵領の領主館の庭園で、臨時雇いの私たちも使用人部屋に一室もらっている。

「ルル。もうお仕事終わり? 一緒にお茶を飲みましょう?」

領主館のメイドは皆、屈託なく同世代の私に声をかけてくれる。間引きした花をもったいなくて配ったことをきっかけに。

「ルルってば、王都から来たっていうから、最新のオシャレとか詳しいと思ったのに、全然知らないんだもん。いっつも顔にドロを跳ねさせてるし」

「……オシャレに興味あったら、庭師目指さないって」

「言えてる〜!」

お給料をもらって買った屋台の揚げ菓子をつまみながら、歯を見せて笑い合う。私は今、ようやく青春を味わっている。友人とお菓子を食べあうなんて……姫さまとの幼い日以来だ。

それにしても、こうも使用人たちが明るく仲良いなんて。

モルガン侯爵家とは全然違う。貴族でも、皆一緒ではないのだな、と思う。

◇◇◇

その日も日の出と共に起きて、伸びすぎた枝を剪定していると、マルクがあくびをしながらやってきた。

「おはようございます」

「うん。ルル、水分とれ」

マルクが差し出す水筒をありがたく受け取る。

「あの、兄さんは遅番でしょう?」

「親方、二日酔いだって。だから俺が頼まれた」

親方は腕も人柄も最高だけれど、お酒が大好きすぎるのが玉に瑕だ。嫌な酔っ払い方はしないけれど、二日酔いで次の日まで影響を残すことが度々ある。

「酔い覚ましの薬、煎じましょうか?」

「ルル、おまえは〈草魔法〉、庭関係だけでなく、薬関係も伸ばしてるのか?」

「簡単なものだけですけれど」

「適性は〈岩〉だろ? なのに〈草魔法〉をそこまで……俺も負けてらんねえな」

「いや、兄さんには追いつける気がしませんって」

私は兄弟子に苦笑を返しながら、この庭の中にある使える薬草を探そうとしゃがみこんだ。

その瞬間、あたり一面眩く光り、世界が真っ白になった。

「きゃっ!」

「ルル!」

マルクが大きな体で、私を守るように覆いかぶさった。

二人して、息を殺し、固まっていると、スゥ……と光が引いた。お互いに腕をぎゅっと掴みながら顔を上げると、天頂から、真っ白な、大きな翼を広げた存在が地上に向けて降りてきた。

「……ドラゴン……」

かの存在を、私は知っていた。