軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

137 招かれざる客

翌朝、ダイアナの熱は少し下がっていて、短い時間であれば目を覚ましていられた。

「クロエ様、ご面倒をおかけして……」

『何言ってんだ被害者!』

エメルの発言に真顔で頷く。

「ダイアナは怪我人、私は病人よ。私もベッドに戻るわ。でも、何か気づくことがあればすぐ紙鳥して」

「同じ屋敷内なのにですか?」

「だって、みんな忙しいのよ。それに楽しいでしょう?」

「……そうですね。小さいとき、孤児院と領主館で夜更けまでたんぽぽ飛ばして、怒られてたの思い出します」

どうしても、ダイアナの無事を自分の目で確認したくて、と言う理由をつけてこうして面会した後は、自室に籠った。

部屋中に結界と防音魔法を張り巡らし、窓には外からは部屋の様子が伺えないように草のカーテンを這わせる。そしてエメルが集音をかける。

周りの気配に気をつけ、あれこれと昨日のこと、今後のことを考えつつ空いている手で草カゴを編む。

『クロエ、ベラが来た。食事を持ってきたみたいだな』

「わかった」

不審がられない程度に横になって待つ。

そうして過ごしていると、午後、結界に侵入を感知した。一度も対面したことのない気配だ。

エメルが私を守るように首に巻きつく。階下がざわつく。

強烈な魔法の発動を探知した。

「……強いね。詳しくわかる?」

『……一人〈風魔法〉のMAXクラスがいる』

MAXクラスの人間のお客様か? それを護衛として雇える権力者の使いか?

「……刃向かってもいいことないね。ベルンが逆らわないといいけれど」

『……ベルンもそう判断したようだ。来るぞ』

「エメル……毒を入れてくれる?」

『いいの?』

私の体は全ての毒……ゼロの草以外……に耐性がある。そう思っていた。しかし、私の知識は毒植物がメイン。出会ったことのない魔物の動物性の毒には、普通に傷つくことがわかった。まあ、別の毒に慣れている分、軽症で済むけれど。

討伐に出るようになって気がついた。一度目の人生、討伐など行ったことなかったもの。

魔物の種類は湧き出るように無限で、毒もそれぞれのため、解毒剤作りが追いつかない現状だ。

つまり、ドラゴンの牙から出る毒もしかり。

『結構キツイけど我慢だよ。オレの毒は成分が安定している。ちゃんと解毒剤は調合済みだから』

エメルが心配そうに私を覗き込む。

「ありがとう。どうしようもないときは、それを飲んで戦うし」

『その前にオレがクロエを咥えて飛ぶ。じゃ、痛いよ!』

エメルが私の首筋に牙を深く突き刺した。三数えるうちに体中に悪寒が走り、呼吸がおかしくなる。

「う……く……」

バタリと布団に倒れ、はあはあと酸素を取り込む。そこへ聞き慣れたベルンのノックが鳴った。

『三人……あと一人もレベルMAX? 適性は……わからない。まあ、本気を出せばオレとベルンでなんとでもなる』

エメルは私の耳元でそう呟くと、ゆらりと透明になった。

その直後、カチャリとドアが開いた。

「お嬢様、お客様です……ご覧の通り、クロエ様は伏しておられます」

ベルンの冷ややかな声が聞こえる。

もはや、私は演技できる状態でもない。

「だ……れ……」

少しきつめの香りが鼻に届いた。

香りは一瞬で記憶の蓋を開ける。この……独占された高価なバラで精製されたオイルを使って作られた練り香水の香りは知っている。

前回嗅いだのは、祖父と王家のお茶会に呼ばれたとき。

そして、その前は……一度目の人生の学校で。

うっすらと瞳を開けると、思っていた通りの女が、フードをすっぽり被った付き人を二人従えて、面白そうに私を見下ろしていた。

天使を連想させる、眩く輝く真っ直ぐな金髪に、碧眼、王妃譲りの華やかな顔立ち。

「こんにちは、ローゼンバルク辺境伯令嬢、あ、はじめましてね!」

彼女がチラリと供に視線を送ったとたん、体に何か気持ち悪い気配が走った。鑑定……のようなことをされた?

供が殿下に小さく頷く。不本意だけれど、自動の防御魔法で弾くことすらできなかった。結果的に不敬にならずよかったけれど。

「……う……」

声も出ない。エメルの毒、なかなかだ。

「本当にご病気なのね。お見舞いに来たのだけれど、もちろんすぐにお暇するわ。私はエリザベスです。兄のアベル王子、ドミニク王子がお世話になっております」

彼女は可愛らしく私に微笑んだ。私は目を開けておくのも億劫なので、ただ、見つめ返した。

「大好きなお供が演習で怪我をしたんですって? それもガブリエラ伯爵令嬢の〈火魔法〉の 暴(・) 発(・) で。そして、自分の未熟さを棚に上げて、この私に命令されたと言っているとか? おかしなこと。私はあなたと会ったこともないのに。もちろんいずれ交流を持ちたいと思っていたわ」

「…………」

「だからね、速やかに処したわ」

処す?

「先程、ガブリエラを処刑しました」

「……あ?」

脳が、言葉を理解しない。

「当たり前でしょう? 王女である私の名を騙ったのよ? 自分が魔法を暴発しておいて、私の名前を出すなんて、全くひどいったらないわ」

たとえ、王女の言うとおりだとしても? 裁判もせずに、昨日の今日で処刑なんて、そんなこと許されるの?

……許される罪がたった一つあった。王族への不敬罪だ。前世、私もつまるところそれで、裁判も開かれることなく幽閉されたじゃないの。

「まあでも、ドミニク兄王子と仲が良かったようだし、伯爵家としての関与はなかったから、対外的には「病死」ってことにしてあげたのよ?」

エリザベスは優雅に微笑み続ける。

「学校の校長先生もそれで納得してくれたわ。ああ、私から、あなたのダイアナと、もう一人の平民には見舞金を差し上げてよ。彼のご家族は、飛び上がらんばかりに喜んで、今回の事件は水に流してくださるのですって」

力ではない、未知のものに遭遇したときの恐怖が、私の体に染み渡る。

「クロエ、私、あなたとじっくりお話しがしたいのよ。早く元気になってほしいわ。回復したら、私のお茶会に来てくださる? ああ、学校でおしゃべりしてもいいわね。あなたが 私(・) の(・) 婚約者と過ごしていたという中庭で」

それは、かつての婚約者であるリド様のこと? それとも現婚約者であるシエル様のこと? どちらにしろ、少しお話ししただけだというのに、誤解を招く言い回し。じわじわと怒りが込み上げるけれど、表情には出ない。エメルの毒をしのぐことで精一杯だから。

「私、優秀な人間がとっても大好きなの。どうぞ宜しくね」