作品タイトル不明
135 自白剤 再び
そして私は自分のマジックルームから、小瓶を数本取り出した。
「〈空間魔法〉……クロエ嬢……」
女性教師が瞠目しているが、二の次だ。
「ガブリエラ様、あなたが正直で、ダイアナが嘘つき。これでいい?」
ガブリエラは私の小瓶に釘付けになりながら、小さく頷いた。
「じゃあ、これをお飲みください」
「……これは?」
「私の作った自白剤です。とっても評判がいいんですよ? 1番お買い上げいただいているのは王家で、重要な場面で重宝しているそうです。なので品質は保証します」
「じ、自白剤……」
ガブリエラの顔から血の気が引いていく。
「ガブリエラ様、こちらを飲んでいただけますか?」
「な、なぜ、私がそんなものっ!」
「うちの次期領主の側近が殺されかけたのです。もちろんローゼンバルクは徹底的に犯人を探します。ここにいる全ての関係者に飲んでもらいます。よろしいでしょう? 校長先生?」
黙って私たちの会話を聞いていた校長は、ゴクリとツバを飲み込んだ。
「それで……学校サイドのへの不信感が払拭され、辺境伯からの抗議を受けずに済むのなら……ええ、飲みます」
校長は前回兄と対峙している。ローゼンバルクの恐ろしさを少しは覚えているのだろう。
「さすが校長先生、おっしゃる通りです。潔白であれば、こんな薬、当然飲めるはずです」
「…………そんな怪しげなもの、飲めない」
ガブリエラはそう呟いたが、皆がその発言を問題としなかった。
「そうだ、クロエ様、ここにいる皆一斉に飲めばいいのではないですか? 薬は不安がっているガブリエラ嬢に配っていただけばいいいかがでしょう?」
ベルンがポンと手を叩いて口だけ笑みを浮かべて提案した。
「わしは構わんよ」
「もちろん私も」
「自白剤……一回分20万ゴールドはすると聞いたことがあります。それを無償で試せるのなら……願ってもないチャンスです!」
教師陣はこぞって参加を表明した。
「じゃあベルン、私も久々に飲むわ」
そう言って、私はマジックルームに入れていた自白剤を全て取り出して、テーブルに並べた。30本ほどだ。
「ではガブリエラ様、どれでも好きに掴んで我々に配ってください」
皆の視線を浴びて、ガブリエラはノロノロと適当に小瓶を選び、テーブルのそれぞれに1番近いところにコトリコトリと置いた。
「ガブリエラ嬢……君も選ぶように」
「は、伯爵である父に聞いてから……」
「これは学校生活において必要なことであると判断した。ゆえに全権は学校に委ねられる。そもそもやましいことがないのになぜそうも躊躇する? さっさと取りたまえ!」
先ほどから私たちに応対する副校長が、突き放すようにそう言った。
ガブリエラは誰か味方になるものがいないか探すように、目をあちこちに走らせながら、恐る恐る一本握った。
「では一緒に飲みましょう。どうぞ!」
「ベルン、あなたも飲むの?」
「ええ。そのほうがいいでしょう? それに私はこの自白剤、スッキリして好きなのです。マリアとの仲を取り持ってくれましたしね。ああ、この味、久しぶりだ」
皆が次々と飲む姿を見つつ、私もフタを開けてゴクリと飲んだ。
前回飲んだ時は、フワフワと浮遊感があり、聞かれるままに自分の好物と苦手なもの……青カビチーズ……をしゃべったけれど……今日は心の中が重苦しい。これは……憎悪だ。
大好きなダイアナを傷つけた人間に対する感情。ちょっとつつかれたら、私はそれを馬鹿正直に口にするだろう。
「ガブリエラ君、早く飲みなさい」
「君がだらだらしてると、皆帰宅できない」
教師陣も、イライラした気持ちが漏れるようになってしまった。その結果、ガブリエラは追い詰められ、顔を顰めながら、薬を飲み干した。
私は大人しく、脳に薬が作用する時間……およそ1分待った。
「ベルン、ここから先の全員の証言を、全部〈紙魔法〉で記録して。ああ、もちろん、この事件に関すること以外はお互いに聞くことはやめるということで。皆様、特に問題ないでしょう?」
皆、生きている以上暴かれたくないことはある。だから会話を限定すれば、皆言葉を出すのを怯えているのか、黙って頷いた。
「い、嫌よ!っあっ!」
ただ一人を除いて。
「私は忠誠を捧げているクロエ様の言うことしか聞きませんので、悪しからず」
ベルンが正直に、そう言って、紙を出しペンを握った。
「では、副校長先生から、質問してください。よろしくお願いします」
「う、うむ。ガブリエラくん、君は、ダンジョンでダイアナ君を待ち構えたね?」
「はい……あっ!」
ガブリエラが信じられない……という表情になった。彼女はたった今、自白剤がどういうものなのか、身をもって知ったのだ。
「ダイアナ君の姿が見えたら、〈火魔法〉を発動したね?」
「はいっ……いやあああ!」
ガブリエラは取り乱しはじめたが、質問に対する回答には影響ない。
「ダイアナ君を殺すほど嫌いだったのかい?」
「違う! あんな平民、眼中にないわっ」
「ではなぜ?」
「命令されたのっ!」
やはり、首謀者は別にいた。その場の全員が息を詰め、彼女を見守る。
「……誰に?」
「エ、エリザベス殿下によっ!」
空気が止まった。
私も、ベルンもエメルも、教師陣も動きを止めた。
『王女か? アベルとドミニクの妹の?』
エメルの問いに、小さく頷くことしかできない。
「エリザベス殿下? ほ、本当に?」
校長が、尻つぼみな応答をする。
エリザベス殿下が……黒幕……。
どうして……まだ二度目の人生では出会ってもいないのに、あの人の標的にされるなんて……。
『クロエッ!!』
ひとまず動揺するのも考えるのも後回しだ。私は気持ちを立て直して、口をつぐんでしまった副校長に代わって質問を続ける。
「エリザベス殿下にダイアナを殺せと言われたの? ガブリエラ様は殺せと命令されたら人殺しするの?」
ガブリエラの口は、滑らかに勝手に動き続けた。
「人殺しなんてしてない! 私は爆破で壁を崩落させただけよっ!」
「私、〈火魔法〉はご存知のとおりからっきしなんだけれど、爆破はできるの。だって簡単だもの。なんの魔力調整もせずに炎に魔力を込めて弾くだけ」
話すつもりのないことまで、私もペラペラと喋る。この薬、効きすぎだ。
「でもね、爆破はレベル10前後の簡単な魔法だけど、威力は術者の魔力量次第。ガブリエラ様は平均よりもうんと多いと聞きました」
「私の魔力量は女性では類を見ないほどなのよ! 素晴らしいの!」
知っている。そのためにドミニク殿下は彼女をそばに置いたのだ。
「その素晴らしい魔力量でダンジョンを爆破すれば、当然、その場にいる人間はただでは済まないと、わかりますよね?」
「そんなこと、考えなかった!」
考えなかった……。これが真実の言葉なのだ。何も想像できない人のために、ダイアナともう一人の学生は死ぬところだった。
「あの崩落になんとか持ち堪えたのはダイアナだったからです。そして物理的な外傷は骨折で済んでも……ダイアナともう一人の生徒、酸欠で死ぬ寸前でした。あなたは殺人未遂犯です」
「エリザベス殿下の命令を拒めるわけないでしょう!」
ガブリエラが私たちを睨みつけた。
「いえ、さすがに殺人は拒みますよ。それとも、何か引き換えの権利をもらえたのですか? 教えてください」
「協力すれば、ドミニク殿下と共に引き立ててくれるって。アベル殿下に会わせてくれるって。私を一組にしてくれるって言われたわっ!」
「クラス替えのために殺しですって!?」
女性の教師が悲鳴のような声を上げた。
たったそれだけの餌に釣られたの? エリザベス殿下には簡単に果たせる約束だけれど、その先の未来は何も示されていないと気づけない?
「ダイアナを閉じ込めたのは、何のため?」
「あなたを……王都から出さないため。あなたがダンジョンに駆けつける段取りになったことを確認したら、私はしばらく王都を離れなさいと指示された」
「私に、どんな用事があると?」
「知らない、知らないわ! 私は言われたことをやっただけ。あの平民を怪我させるつもりなんてなかった!」
「知らないで済むわけないでしょう! 私のダイアナはあなたの罠で、死にかけたのよっ!」
「私は王家と結婚して、国のトップに立つ女なのよ! この仕打ち、許せない! 許さないんだから!」
ガブリエラは興奮して、ぎゃあぎゃあと喚きはじめた。これ以上は有効な証言は得られそうもない。教師の一人が校長とアイコンタクトして、彼女を無理矢理立ち上がらせ、部屋を出てどこかへ連れていった。