軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 救出

ダイアナは猶予がないと言ってる。生きて出てこれるかもわからないのに……。

『天然のダンジョンはあちこちに横穴があって、逆に空気が籠らない。コレは人工だから、やばいよ』

ベルンが視線を学校側に向けたまま、背中の私に尋ねる。

「クロエ様、いかがしますか?」

「手間をかける時間はない。ダンジョンを破壊するしかないよ。でも〈木魔法〉や〈草魔法〉で土や岩石を圧迫して壊すのは時間がかかるし。最短はやはり〈土魔法〉で土をぶっ飛ばすか、ダンジョンを構成する土を全部砂に戻して風で飛ばすか」

『形態変化は土のレベル75だよ? そんなのクロエができるってバレない方がいい。〈土魔法〉はせいぜいマスターくらいだと思わせないと』

「そうですね。学生ではない、ローゼンバルク辺境伯代理の私の方が、彼らに恩を売りやすいです。エメル様、私の仕業でお願いします」

透明エメルがベルンの肩に移った。ベルンが副校長に向き直る。

「クロエ様の〈草〉で調べていただきましたところ、中の酸素濃度が低い。もう一刻の猶予もなりません。ローゼンバルクに救出を依頼した、ということでよろしいですね?」

「う……うむ」

副校長がベルンの気迫に頷いた。

『クロエ! 急げ!』

私はダイアナに向かってもう一度蔦を送り合図する。グイッと引っ張られて数秒後、ガガガッという振動が草を伝って体に届いた。彼女がシェルターを作り上げたのだ。

「エメル!」

『よし、ベルン!』

ベルンがさも、自分が術を展開しているように右手をダンジョンに向けた。

「『瓦解』」

エメルがバサっと両の翼を二度ダンジョンに向けて押し出すフォームをした。エメルは無詠唱、フォーム……身振り手振り無しが通常だが、今回はガイア様適性の〈土魔法〉でかつダイアナの命がかかっているので、万全を期したというところだろう。

山肌に入口である穴がポッカリ開いた人工ダンジョンである丘全体が白く光り、ミシッ、ミシッと数度地鳴りすると、丘がそのままの形で、頂から細かな砂に変わっていく。生えていた低木が横に倒れるのと同時に、砂が、重力に沿ってザラザラザラと下に流れていく。ダンジョンを形成していた〈空間魔法〉? が空気を歪めて解けていく。

「きゃあああああ!」

見慣れぬ魔法に、あちこちから悲鳴が上がる。

「竜巻」

今度はベルン自身が〈風魔法〉を発動し、大量の砂を一気に巻き上げ、奥の山に叩きつけた。

やがて、白い紙が何層にも重なっていると見られるドーム状のシェルターが姿を現した。

「ダイアナ!」

私はシェルターの中に繋がる蔦で合図をしながら、そこにエメルとともに駆け寄った。

パンッという破裂音とともに、シェルターが破裂した! 残骸がヒラヒラと紙吹雪のように舞う真ん中で、ダイアナが男子生徒を抱え込み、うずくまっていた。

「ダイアナ! お待たせ! 体調は?」

内部は温度が上がっていたのか、ダイアナの顔は赤く、汗を滲ませていた。

「なんとか……彼が、真っ暗な閉所に閉じ込められた恐怖で……パニックになり……酸素が……だから落としました……」

「そう……ダイアナ、さすがです。自分と彼を守ってくれてありがとう。とりあえず……私の滋養強壮剤飲んどきなさい」

私はダイアナに瓶を渡し、ダイアナが抱えている男子生徒を引き取る。ダイアナは安心したのかフラッとよろめき後ろに倒れたが、もちろんベルンが抱き止めた。

「ダイアナ?」

「これは……おそらく……ダイアナは左足首を折っています」

ベルンがそこにそっと触れて、眉間に皺を寄せた。

「面目ありません……突然の落盤で、変な風に捻って……」

「ベルン、ダイアナを安全な場所へ、この痛み止めも飲ませて」

「私がその男子生徒を抱えた方が?」

大柄な男子生徒を支える私をベルンが気遣う。

「大事なダイアナはベルンやうちのものにしか託せない」

「わかりました」

「クロエさま……ベルンさん……すいません……」

ダイアナはしんどそうに目を閉じた。たった一人でギリギリまで神経を張りつめていたのだ。無理もない。

私はその男子生徒の体にそっと触れて、どこも怪我がないのを確認し、上半身を起こして口を開かせ、ダイアナに渡した滋養強壮剤を少しずつ飲ませる。

『どう?』

「うん、ひとまず酸欠にはなってないみたい。緊急処置は必要ない」

『まあ、ダイアナと一緒だったからなぁ。それがよかったのか? ダイアナに巻き込まれて気の毒だったと言うべきか』

「それを言うならば……そのダイアナを巻き込んだのは私だよ」

下唇をギリッと噛み締める。

『クロエ、間違うなよ? クロエが悪いんじゃない。クロエを嵌めようとしてるやつが一方的に悪いんだ。そっちに怒りを向けろ』

「……そうする」

意識のないなか、瓶の半分飲んでくれたのでまずまずだろう。私は再び手持ちの種を地面に植えた。

「成長」

私の魔力を吸い、メキメキと草は私の頭上まで伸びる。その上部を掴み、彼の背中に入れて、再び魔力を流す。草が絡みあってゆりかごを作り、彼を大事に包み込んだ。十分頑丈に出来上がったのを確認して、私は彼を抱いていた腕を離し立ち上がる。

大元の茎をもう一回り太くして、先端のゆりかごの中の彼がなるべく揺れないように注意しつつ、茎をじわじわと伸ばす。そうすることで遠巻きに眺めるだけのギャラリーの下まで移動させ、そっと地面に下ろした。

わあっ! と歓声があがり、彼が取り囲まれている。あとは救命処置なり家族との連絡なり、職員がなんとかするだろう。

『派手に〈草魔法〉見せつけたね?』

「草がマスター以上なことは隠してないし……私たち、舐められてるみたいだもの」

『まあ、たった二人でダンジョンを破壊できるって知らしめられたんじゃない?』

「だといいけど」

愛するダイアナを危険に晒し、ろくな救出もしなかった。これで私が怒らないとでも思っているのだろうか?

私もゆっくりと人々が集合する場所に戻った。

私が視界に入った副校長が、駆け寄ってきた。

「おお、クロエ嬢、さすがだ。どうもありがとう!」

「……この件については、ベルンを通じて日を改めて厳重に抗議させてもらいます。それよりも、お聞きしたいことがございます」

人命救助はひとまず終わった。私は頭に占めていた疑問を投げかける。

「な、なんだろうか?」

「なぜ、ダイアナの前の組は、ダイアナたちが閉じ込められたところを見ていたのですか? 事前の説明では、ダンジョンに一度入れば、出口まで誰にも出会わない、と言うことでしたが?」

「そ、そうなのか? なぜだろう……担当のものに聞いておく」

「とりあえず、ダイアナの前を歩いていた、事件の目撃者が誰か、教えてください」

「ええと、おいっ、第一通報者は誰だ?」

副校長が、安堵に包まれ緊張感の消えたテントに向かって叫ぶが、すぐに返事はない。

「……クロエ様……ガブリエラ伯爵令嬢です」

ベルンの腕の中のダイアナが、目を閉じたまま声を振り絞って答えた。

私は目を見開いた。