軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

124 三年生

年度末のテストもダイアナと二人、無難にクリアした。

「今年の卒業パーティーは、盛り上がりにかけたそうですよ。昨年のように王族も高位貴族もいないので、女性陣の気合の入りかたも緩く、下級生も軒並み不参加。王都のドレスショップががっくりしているようです」

もちろんルルも欠席だったとのこと。

「ドミニク殿下は参加されなかったの?」

「どうやら今年度までが謹慎だったようです。始業式からは登校するのではないかと思います」

エリザベス王女殿下も入学するのに、兄である王子が謹慎中というのもカッコがつかないのだろう。

「あ、ガブリエラ伯爵令嬢は、殿下の謹慎に関係なく、学校に来ています。殿下不在でも、楽しそうですよ」

「そうなの」

殿下、一度目も今回もガブリエラを溺愛してみえたけれど、案外双方には温度差があるのかもしれない。

まあ、自分に火の粉が降りかからない限り、知ったことではないけれど。

そして月が変わり、かわいいトリーが入学した。これまで全く興味のなかった入学式も、幼なじみのようなトリーが出るならば別だ。

「見えないわ……」

「頭一つ小さいですからねえ。まあ、ゴーシュさん見てれば、きっと一気に大きくなるんでしょうね、はーあ」

トリーの役目は主に学内の情報収集。今現在、埋没するほどに存在感がないのなら、それはそれでいいことだ。そして情報収集のためにトリーは学校の寮に部屋を借りている。もちろん我々の王都のローゼンバルク邸にも一室あり、都合に合わせて行ったり来たりしてくれる。

トリーも平民ゆえに一学年の4組だ。ローゼンバルク出であることを隠すつもりはないが、トリーはうまく話を誘導し、出自の話題が長引かないようにしているようだ。さすがに次期領主の側近……既に幹部であることは秘密にしている。

トリーは学内で公式には〈土魔法〉で通すそうだ。学内では四魔法のほうが動きやすいから。兄とエメルの特訓でマスターに仕上げた〈土魔法〉だが、彼の適正魔法ではない。

この歳で適正魔法以外の魔法でマスターというのはすごいことだ。兄への献身ぶりがよくわかる。

そして、真の適正魔法はもっとレベルが高いだろうことを想像できる。なんせゴーシュの息子なのだ。

ゴーシュの適正魔法もまた、私は知らないけれど、祖父と兄が信頼し、ベルンやホークが立案したプランをほぼ成功させ、商談? から領地に戻ってくるゴーシュは……相当の強者なのだ。

幼い私には、面白いおじさんでしかなかったけれど。

この親子は無邪気で朗らかな一面と同時に、早熟で、完璧主義で……ただ一人に捧げる忠義が重い。

「トリー、ゴーシュに似てきたね」

「うー、おおむね同意ですがゴーシュさんみたいにムキムキにトリーがなるのは、ちょっとイヤかなあ〜」

なんやかんやで、ダイアナもトリーが可愛いのだ。

そして私とダイアナは三年生になり、相変わらず4組なのだが……教室に入ると、なんとザックは2組に異動していた。

「よっぽど成績良かったのね」

私は目を丸くしつつも感心した。誰の邪魔にもならない、通路側の一番後ろという指定席に腰を下ろす。

「真面目にテスト勉強したことももちろんですが、〈水魔法〉師としての依頼を複数受けて、堅実に成果を上げ、評判を上げたようです」

ダイアナも、私の隣の席に座り、小さなメモ紙の束から必要な情報を探して伝えてくれる。

前回、トトリの漁依頼を出したときに、ローゼンバルクの依頼だけ受けたら悪目立ちするので、時間があるときは、他のものも受けて経験を積んだら? とニーチェと共に焚き火を囲んで話したのを思い出した。素直な彼はそのまま実行したようだ。

「そもそも貴族だしね。使える貴族は引っ張り上げておこうってことね。そしてあわよくば自分の派閥に、と。ザック、大丈夫かしら?」

「あんな大きいナリをしてるんです。子爵も健在ですし、クロエちゃんが心配することないって」

「そっか」

そういえば……2組といえばガブリエラがいたような? 一度目の人生ではドミニク殿下と親しくなったのちに、私のいる1組にやってきたのだけれど。

「ガブリエラ伯爵令嬢? そういえば、2組ですね。まあ伯爵令嬢ですしね」

「そうなの? ドミニク殿下が1組に引き上げたかと……」

「いや、さすがに殿下は謹慎中でしたから、引っ張り上げようがないと思いますよ? 殿下もおそらく今日から通ってるはずですが、もう殿下が王になる可能性はほぼなくなったので、1組のこれまでの御学友も、距離を置く感じでしょうね」

前回の殿下は、ニコニコと余裕の表情をして、たくさんの御学友に囲まれて過ごすのが大好きなお方だった。ダイアナの言う通りであれば、物足りない日々になるだろう。

「本当の孤独は……そんなものではないけれど」

「クロエちゃん?」

心配そうに私を伺うダイアナに、笑ってみせる。

「ダイアナ、なんでもないわ。2組、近寄らないようにしよう」

「そのほうがいいかと。ほら、窓側を見てください」

言われるままにそちらを見ると、ケイトが一人、ポツンと座っていた。

「珍しいね。いつも仲の良いお友達とわいわい賑やかなのに」

「お友達に愉快な話題を提供したり、商会のちょっとした小物をプレゼントしたりする気持ちの余裕がないんでしょう。そういうもので繋がっていた仲ならば、それが切れたら終わりです」

「ザックが物理的に会えない距離に行ったから、心に余裕がなくなったってこと?」

「残念ながら、その物理的な距離は生涯届かないものです。いかに裕福でも平民のケイトは2組に近づくことすらできません」

1組と2組は100%貴族だ。

「そしてザックは婚約者のいない嫡男。一年のときのやらかしは周知の事実ですが、その後の生活態度とクロエ様の温情で、禊は済んだという評価です。子爵位とはいえ、婚約者のいない貴族の女性からすれば……今期目玉の優良物件ですね」

「……うわあ」

ザックに2組の伯爵令嬢や子爵令嬢が押し寄せ迫るイメージが頭に浮かぶ。

ちょっと気の毒だな、と思ったけれど、私には人の心配をしている余裕などない。

「……ザック、頑張れ」

「クロエちゃん、それが正解です。まあ我々にとって悪い話ではないですよ。ケイトのめんどくさいクロエちゃんに向いた嫉妬が、分散されますから」

「確かにめんどくさかったけれど……」

第三者から見れば、ザックの心は騎士になること一本で、アルマン商会を継がせたいケイトと結ばれる未来はない。ケイトは心の整理をつけて、他の人を探したほうがいい、と考える。

でも、ケイトのザックへの想いが、商売云々ではなく、本当の純愛であったのなら、簡単に割り切れるものではないだろう。

前回の私も、ドミニク殿下の思いが私にないことなど薄々わかっていたのに断ち切れなかった。

現在の私は、男女の本当の愛を未熟ゆえに咀嚼できず、きちんとした言葉にできずにいる。

「無心になるまで薬を作りたい気分だわ」

「ジャンジャン作ってください! 厳しい冬を越えたローゼンバルクは例年同様現金減ってます! エイエイオー!」

「オー!」

私もダイアナに合わせて右手を突き上げた。

ダイアナが私に常に寄り添って、沈みがちな思考から引き上げてくれる。

私は……一人ではない。