作品タイトル不明
121 新メンバー
二学年の期末テストのために、私はダイアナと王都にやってきた。
前年同様、テストと卒業式、入学式、年度初めの演習までが滞在スケジュールだ。
今年は当然、卒業パーティーには行かない。今年は私を誘う王族はいないので、問題ないだろう。
ベルンには、今回も妻と子どものそばにいろ!と説得したが、今回も、夫婦揃って反対してきた。
「クロエ様、私たちはクロエ様を恐れ多くもローランド同様子どもだと思ってると、散々聞かせてきたつもりですが?」
「いやでもさあ、やっぱり離れるべきではないと思うのよ。昨年もなんのかんので滞在期間延びたでしょう?」
「王都、領地、どちらかで緊急事態が発生したときは、エメル様にベルンを捕縛していただくようにお願い済です」
「え?そうなの?」
『ベルン、身重だったマリアと一緒に飛んだだろう?あの一回で、コツを掴んだんだって。全く酔わないんだってさ』
「すごい……」
私と兄よりも捕縛を使いこなしている。
「で、その際は交代要員のミラーをやはり捕縛で連れてくるように手配済みです」
『そのミラーは試しに捕縛してみたら、半日吐いてたな……』
「……そっか。何事もないように祈るよ」
そして、今回から王都生活に新顔登場だ!
「クロエちゃーん! オレ制服似合う〜?」
「全く似合ってないわ!トリー、ちんちくりんじゃん!」
「ダイアナには聞いてませーん! クロエちゃんに聞いてまーす!」
「トリー、小柄だからぴったりのサイズの既製品制服なんてないよね。あとでこちらの侍女に補整してもらおうね。そうしたらカッコいいよ」
「はーい!」
そう、今回から、トリーも一緒なのだ。トリーは新年度から学校に入学する。一年生として。
エリザベス王女殿下の同級生になる。兄の差配だ。
私のエリザベス殿下と教授への怯えっぷりを見て、兄が手を打った。護衛の入れない日常の学内に入り込むには、手のものを学生として配置するしかない、と。
そして、同学年として、王女の動向を監視することは、私の安全につながると。
「でもさあ、入試、どうやって通過したの?」
「死ぬほど……辛かったよ……次期様スパルタで……」
トリーが右の頰を引き攣らせた。
「え? 正攻法で入学したの?」
「ダイアナは編入だったからいいけど、正規の入学だと、ズルして誰かを落として入学したら、後味悪いだろって、次期様が……」
「へー! 見直したわトリー!」
ダイアナがトリーの頭を雑に撫でる。
「ダイアナは軽い! クロエちゃん褒めて!」
「トリースゴイ! 私のために……ありがとう、トリー!」
「えへへ〜!」
私達三人が戯れ合うのをしばらく見守っていたベルンが、パンパンと手を叩く。
「ではクロエ様、早速ですがこのリストの分の調剤をお願いします」
「うん、わかった。学校の試験中は流石に勉強するから、薬の依頼は前倒しで教えてね」
エメルは大神殿に行ってしまい、留守だ。
「じゃあ、クロエちゃん、頑張って〜!」
「クロエちゃん、ご飯は一緒に食べられる? じゃああとでね〜!」
二人に見送られて、調剤室に向かった。
◇◇◇
「……トリー、足引っ張らないでよ?」
「わかってるよ。オレたちの至上命令は……ローゼンバルクの血を残すこと。そうしなければ、次期様が憂いなく領主になることはできない」
「相変わらず、ジュード様一筋ね」
「あったりまえだよ。でももちろん、クロエ様のことも大好きだから、死ぬ気で守るし」
「ならいいわ」
「相変わらず、クロエ様一筋だね、ダイアナは。……ほんとはお二人がひっついてくれるのが一番いいんだけどね……」
「私はクロエ様の気持ちを尊重する。とりあえず、今の私たちの任務はクロエ様の学校生活を無事終わらせること。いいわね?」
「危険分子は排除していいんでしょ?」
「あんた、「影」にも志願したって本当だったんだ……痕跡を残さないでよ?」
「わかってるって」
◇◇◇
久しぶりの登校はクラスメイトの誰からも声かけられず、淡々とテストを受けて過ごした。
ザックには、クラス内で話しかけるな! 用があれば紙鳥で! とダイアナが固く約束させていたので、頑なに視線もよこさなかった。
ケイトはたまに、私をチラチラ見ながら仲の良い友達と話していたが、気にしなかった。
そうして三日の試験が終わり、二学年を無事修了し、ダイアナといつもの中庭でお弁当を食べていると、客が来た。
「クロエ、久しぶり!」
「リド様、お久しぶりです」
リド様が前回同様変装姿で現れた。そんなこともあるだろうと予測していたので、特に驚かず、ダイアナもすかさず立ち上がり、私の後ろに立った。
「この時期神殿は春光祭で忙しいのでは?」
「忙しいよ。でもさすがに試験は受けないとね。クロエと同じだよ。ねえ、私クロエに文句があるんだけど?」
「え?なんでしょう?」
「私がかなり情熱的な手紙を送ってるのに、返事がそっけなさすぎる。何で薄い手紙しか書いてないアーシェルへの手紙のほうが、枚数多いのさ?」
「それは……姉弟ですもの」
「ずっと疎遠だったのに?」
「疎遠でしたし、色々と思うところはあるのですが……アーシェルが一人前になるまでは、姉貴面をして、手紙を書こうと思ってます。多分自己満足です」
「自己満足ね……」
「あ、アーシェルを介して、神殿にお願い事……なんて思ってもおりませんから」
「そんなことわかってるよ。ちょっと羨ましいって思っただけ。私には、神以外にそんな無償の愛をくれる相手はいないから」
大神官様は……その役職を継ぐリド様に、厳しいのだろうか? 肉親の情は見せないのだろうか?
「まあいい。クロエ、これは正式な大神殿への招待状。私はここでは話せない君への思いをいっぱい君にぶつけたいんだ」
「誤解される言い方は勘弁してください」
リド様は懐から取り出した白い封筒を私に差し出した。完全に本物の大神殿の様式だ。
「この方が、断る理由を探さないでいいだろう?」
「まあ、あの話であれば、いくらでもお聞きしますが……」
どうしても卵について熱弁をふるいたいのだろう。
「でも私、大神殿の玄関の検問? 苦手なんですけど。八歳の時に追い返されたことがあって。祖父もいないし、今回の供には、例の件を話したものがおりませんので……一人で出向いたほうがいいでしょう?」
ドラゴンの卵が神殿に存在している件……実際にはベルンは100%事態を把握しているけれど、口が軽いと思われるのも嫌だ。
「……ああ、グリーンドラゴンに襲撃を受けた時の話? わかった。その封筒返して。重ねて私の大事な客だと表に書いておく。まあ、クロエも大神殿にしばらくいたんだから、顔見知りは無礼なマネはしないと思うよ」
リド様がペンを走らせるのを見ながら、実はあれ以降も何十回とそのグリーンドラゴンは大神殿を襲撃してるんだが……などと考える。
「……できた。はいどうぞ」
「ありがとう……リド様、またこの『とても大切な人』って表現、困ります。本当に誤解を生みかねない。わざとですよね?」
「そう? 本当のことだけど? 誤解されてもちっとも困らないしね。私は晴れてフリーだから!」
リド様はそう言うと、パチンとウインクした。私は右手で額を押さえた。