軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第66話】ならし任務⑥ 会話

ホックさんことニーズホック様は、北方の大国ツァナデフォルの出身だ。ホックさんが15の時に父親に連れられてルデクへ亡命してきた。

ホックさんの父親は優秀な軍人だったらしい。北で何があったかは知らないけれど、とにかく僕らの国へ流れ着く。

そして先王の代にルデクに仕官。騎乗技術を買われて第二騎士団の部隊長に任ぜられると、そのまま団長へ上り詰めたのだ。

南の大陸からきたルルリアは、僕らの国の軍馬を大きくて立派だと、騎馬隊は迫力があると喜んでいたが、僕らの大陸において騎馬隊といえば、名馬の産地として知られるツァナデフォルを連想する人は多い。

ツァナデフォルは寒い国だ。夏は短く、冬は長い。雪に閉ざされる過酷な環境の中で逞しく生きているのは人だけではない。馬もだ。

ツァナデフォルの馬はルデクの馬に比べて逞しい。ツァナデフォルの軍馬が揃って突撃してきたらと想像するだけでゾッとする。しかもツァナデフォルの騎士団はほぼ全てが騎馬隊である。

そんなツァナデフォルだから、国力や兵数では帝国に劣っているにもかかわらず、帝国と互角以上の戦いを可能としているのだ。

そのような国からやってきたホックさんの父親の騎乗技術は、ルデクの騎士団でも頭ひとつ、いや、二つくらい飛び抜けていたらしい。かの人の指導により、第二騎士団の騎乗技術は大きく底上げされたと言っても過言ではない。

ホックさんも幼少から馬に慣れ親しんでおり、若くして第二騎士団の一員として戦場を駆け巡ってきた。そうして現在は団長の地位にある。

、、、、、ということを、ホックさんは聞きもしないのにずっと喋っていた。

おかげで肝心なことは聞けていないけれど、ホックさんの激動の人生については大変よくわかった。

書物で知っている事柄も結構あったけれど、ツァナデフォルの出身だというのは初耳だ。僕もそういう話は嫌いではないというか、むしろ騎士団長の生き様など大好物だ。聞かなければいけないことをそっちのけで聞き入ってしまった。

散々喋って満足したのだろう。お茶に口をつけると大きく息を吐くホックさん。

「けれどロアちゃん、、、、貴方も変わっているわぁ」

そんな風にしみじみと呟く。

「何がですか?」

「これだけ喋っておいてなんだけど、アタシの話を飽きもせずにこんなに聞き入った人は初めてよ。ねぇ、レゾール」

「そうですね。正直、その一点においてだけでもロア殿は只者ではないと感嘆しております」

、、、、、それは、ホックさんにあんまりな言いようではないだろうか。

「そうよねぇ」

ま、本人が気にしていないのならいいか。

「とにかく、話を聞いてくれてありがと。ワタシ、貴方のこと気に入ったわ。うふふ」

あれぇ? 、、、、ただ趣味の話を聞いていたら、第二騎士団長に気に入られた。

「すごく面白かったですよ」とりあえず僕は無難な返事を返しておく。

それにしても随分と時間を使ってしまった。どうしたものだろう。

それからしばらくは、当たり障りのない、けれどこれはこれで有益な、騎馬隊の運用についての会話が続く。

正直言って勉強になることは多い。こちらもついつい聞き入ってしまう。

、、、、、やっぱりこの人、悪い人には思えないなぁ。

そうこうしている間に、そろそろ戻らなければならない時間が迫ってくる。

後ろ髪を引かれる思いではあったけれど、僕らは礼を伝えながら席を立った。

僕はふと、最後に一言だけ聞いてみる。

「ホックさんは、ツァナデフォルの出身なのに、ルデクに、ゼウラシア王に忠誠を誓うことに悩んだことはないのですか? あ、なんとなく気になっただけで、すみません、失礼な質問でした」

「ないわね」

即答か。

「そうですか。すみません。こんなつまらない事を聞いて」

「いいえ。ちゃんとロアちゃんがワタシの話を聞いていたって事だもの。構いやしないわ」

「ありがとうございます。また時間があれば、是非お話を伺いたいです」

「その時は歓迎するわ。また、是非」

こうして僕と第二騎士団団長の会談は、終始和やかなまま幕を下ろした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「第10騎士団の連中は帰りましたか?」

ロアとウィックハルトがレゾールに連れられて退出してしばらくした後、奥の隠し部屋から第一騎士団のヒーノフが現れる。

「聞き耳立てていたのだから、知っているでしょうに」ニーズホックは少し呆れたようにヒーノフを見る。

「それで、奴らはなんと?」

「それも聞いていたでしょう? 本当に単純に挨拶に来たみたいよ。あの子、若いのになかなか見どころがあるわねぇ」

「ふん。レイズの犬など見るべきものなど何もない」

「ま、忠犬という意味では貴方も大差ないわよ」

ニーズホックに揶揄われたヒーノフは、ニーズホックを睨みつける。

「まさかとは思いますが、翻意されるわけではありませんな?」

「まさか。アタシはルシファルに大きな恩がある。アタシは恩には必ず報いる。それは約束できるわ」

そう言ったニーズホックは少し遠くを見た。

ーーーそう、それがあの若い将兵たちの骸の上に成り立つものだとしても。ーーー