軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第39話】漂流船騒動⑤ 騎士団一の頑固者

ザックハート様を一言で言い表すなら「厳格」だ。

例え王が相手であっても、正しくないと思ったら毅然と反論する人だ。

先の王をザックハート様が怒鳴りつけた話は、もはや伝説として語り継がれている。

僕らがザックハート様に挨拶している間、両側に並んだ将兵は後ろ手を組んで微動だにしていない。この雰囲気がザックハート様の性格をよく表していた。

統制の取れた第三騎士団は強い。以前ゼウラシア王の質問に対して波風立たないように言葉を濁したけれど、多分、第一騎士団、第10騎士団と比較しても遜色ない戦力だと思う。

先代の頃より騎士団を率いて戦場をくぐり抜けてきた古豪。経験と、その経験に裏付けられた戦術は他の騎士団長を凌駕する。

そんな第三騎士団だからこそ、王都の次に重要なゲードランドの港を任されているのである。

そしてもう一つ、僕にとっては感慨深い人物でもある。と言っても、一方的にだけど。

僕の知る未来では、王都炎上に呼応するように、東からは帝国が、西からはゴルベルが攻め込んできた。

それまではゴルベルに対してはある一件からルデクが押し気味で、帝国に対しては侵入を許さなかった騎士団だけれど、状況は一変。

王都炎上の知らせとともに北からはリフレア神聖国の兵が大挙して雪崩れ込み、ほとんどの騎士団が挟撃される形で壊滅に追い込まれてゆく。

ルデクが誇る騎士団が大きな抵抗もできぬままに消えゆく中で、唯一、最後までリフレアの軍勢を手こずらせたのが、この第三騎士団だ。

第三騎士団はゲードランドを拠点にして敗走する騎士団を迎え入れると、圧倒的な兵力差を前に徹底抗戦の構えを見せた。

戦闘は実に3ヶ月にも及び、最後はゲードランドの街が灰燼に帰するほどのものだったという。

実際、ゲードランド制圧後、リフレア神聖国は近くに別の港を造らざるを得なくなった。

ちなみにゲードランドの市民は海軍が港から逃しており、ゲードランドでの死者は騎士団の将兵のみだ。

最後の一兵まで戦い抜いて散ったザックハート様と第三騎士団は、のちに戯曲となり旅一座の手によって大陸中で広く語られることになる。

「ルデク、最後の戦い」として。

僕はこの戯曲が嫌いだ。

2度と見たくない。

「何を呆けている」

ザックハート様が不機嫌そうに僕を睨み、僕は慌てて非礼を詫びる。

「噂に名高いザックハート様と第三騎士団に見惚れてしまい、つい」と伝えると

「そのような世辞は不要だ」とにべもない。

「いえ、お世辞ではないですよ。現役の中で最も長く戦い抜いた騎士団長が率い、王からの信頼も厚い第三騎士団。。。。それに、僕にとっては一番馴染み深い騎士団ですし」

「一番馴染み深い? 先ほど初めて見たような口ぶりだったであろうが?」

「あ、そうですね。大人になってからこうしてまじまじと見るのは初めてだったので。実は僕の出身は近くのクゼル村なんです。小さい頃は魚を売りに父に連れられて、よくゲードランドに。その時に、時々騎士団の人によくしてもらった記憶があって、、、、」

規律正しい第三騎士団ではあるけれど、長くゲードランドの港を拠点としているだけあって、市民との交流は深い。

漁港で遊んでいる子供らにはよく将兵がこっそりとお菓子をくれたものだ。

そのように話すと、ザックハート様の表情が少しだけ緩んだ気がした。ほんの少し。ほんっの少しだけど。

「そうか、クゼルか」とだけ言い。黙ってしまう。

、、、、、何か怒らせちゃったかな?

僕に失言があったのか聞こうとすると、絶妙なタイミングでリュゼルが戻ってきた。

「お待たせしました。例の御人との面会の段取りも取れました、、、、って、、何か?」

何だか微妙な空気を察したのか、途中からキョトンとした顔になるリュゼル。

「いや、何でもない。では、貴様らは貴様らの任務をまっとうすれば良い。こんなところで無駄に時間を使う暇などなかろう」というと、さっさと奥の部屋へ引っ込んでしまう。

そう言い捨ててザックハート様が退出すると、場の雰囲気が少し緩んだ。

「ロア、、、、何かあったのか」と心配そうにこちらを見るリュゼルに、僕は「、、、、さあ」としか答えようがなかった。

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漂流船に乗っていた要人らしきサルシャ人は、領主館の一角に部屋をあてがわれていた。部屋、というか、別館が丸々だ。外は第三騎士団の兵がしっかりと見張っており、中々に物々しい。

リュゼルから既に話が通っていたため、僕らはあっさりと中へ通される。何気にリュゼルって優秀だよね。

屋内にも警備の女性の兵士がおり、当人は2階の部屋で大人しくしているという。

少し息を整えてノックすれば、「どうぞ」と小さな声がする。

ルファを派遣したことから、おそらくは、と思っていたけれど、やはり部屋にいるのは女性か。

なるべくにこやかに部屋に入ると、深い青い髪と、少し赤みがかった眼。なるほど、サルシャ人の特徴のある若い女性が姿勢良く椅子に座っている。

その隣にもサルシャ人の女性が侍っており、お付きの人であるようだ。お付きの人はこちらを見て警戒感を露わにした。

逆に座している女性は僕ら、というかルファを見て目を丸くする。

「このような場所で同胞の女の子に出会うことになるとは思いませんでした」

「、、、、、ルファと言います。ルデク王国第10騎士団副団長、レイズ=シュタイン様の命により、貴方のお相手をするため、伺いました。失礼ですが、名前を伺っても?」

普段のぶっきらぼうな物言いからは想像もできないほどしっかりとした挨拶。その様子を見て、お付きの人も少しだけ居住まいを改める。

「騎士団の方なのですか? そのお年で? まぁ、その辺りもゆっくりお話ししましょう。もう退屈で退屈で参ってしまっておりましたの。せっかく海を渡って異国に来たというのに、街も歩いてはいけないだなんて、あんまりじゃありません事?」

漂流して命からがら曳航され、目的の国と敵対している国に辿り着き、さらには軟禁状態にあるとは思えないほどの優雅さを纏ったその人は、ルルリアと名乗った。