軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第325話】フェマスの大戦11 ウィックハルトの冷酷

僕らがオークルの砦を出発する前夜のことだ。

ずっと机に張り付いていたために、固まってしまっていた身体をぐっと伸ばしたところで、ウィックハルトがやってきた。

執務室に招き入れると、後からひょっこりとレニーも顔を出す。少し珍しい組み合わせだな。

「二人してどうしたの?」

そう僕が聞くと同時に「私は外したほうが良いかしら?」とラピリアが口を開く。

僕が執務室にいる間は、ラピリアかウィックハルトのどちらか、もしくはどちらも都合がつかない時は、ディックが付くという決まりになっている、、、、らしい。

「いえ、ラピリアにも話を聞いてもらった方が、都合が良いです」ウィックハルトは穏やかな表情のまま答え、対照的にレニーはひどく緊張しているのが見てとれた。

「そう、、、」

ウィックハルトの言葉を受け、僕の隣に立っていたラピリアが、そのままの姿勢で肩の力を抜く。

「、、、、お茶、入れる?」

なんだか重苦しい雰囲気に耐えかねて、僕は文字通りお茶を濁そうと試みる。そもそも、こういう重苦しい雰囲気は苦手なのだ。

「いえ、お気遣いなく」

僕の提案はあっさりと却下された。ラピリアからの「それはそうでしょ?」と言わんばかりの視線が痛い。うぬぬ。

気持ちを切り替えて、とにかく本題だ。

「、、、分かった。それで、何かあったの?」

僕の再度の問いに、ウィックハルトはおもむろに口を開いた。

「ロア殿、この先、貴方の命はルデクの命運を握っていると言って、過言ではありません」

「ん? 過言ではあるよ?」

別に謙遜している訳ではない。それは流石に過言だ。なのに、僕の隣に立っていたラピリアが、僕の足を軽く蹴る、解せない。

「いえ、ロア殿がどう思うかは、この際問題ではありません。この度の出陣に際して、保険をかけたいと思っています」

「保険?」

「ええ。端的に申し上げます。レニーを影武者として仕立て上げたい、その許可を頂きに来ました」

そこまで口にして、ウィックハルトはレニーに視線を移した。

「影武者、、、、、僕が狙われた時の身代わりってこと?」

「ええ。仰る通りです」

確かにレニーは商家の出身だけあって、第10騎士団の中では線の細い方だ。そうは言っても、僕よりも断然筋肉質だけど。まあ、遠目から体格だけで判断するなら、似ていなくはない。

、、、だからレニーはこれほどまで緊張した面持ちなのか。僕の身代わりとなれば、命を狙われる危険性は一兵卒の比ではなくなる。

「レニーは、いいの?」

僕はあえて聞く。ウィックハルトが強引なことをするとは思わないけれど、立場的に断れないままこの場にいるというのなら、それはあまりに可哀想だ。

「、、、はい。覚悟はできています」

悲壮感漂う、レニーの返事。僕としては「そう、よろしくね!」とは答えにくい。

逡巡する僕の代わりに「レニー、貴方の覚悟は、ルデクを救うことになるかもしれない。けれど、貴方は死ぬかもしれない。それでもよいのかしら?」と聞いたのはラピリアだ。

「、、、本当のことを言えば、、、死にたくないです、今も死ぬほど怖いです。でも、、、僕は、副団長ならルデクに平和をもたらしてくれるんじゃないかって、、信じています。僕の家族が、平穏に過ごして行ける世界を作ってくれるって、、、、」

「、、、、」

言葉が出ない。なんと言っていいのか、分からない。

「ロア、レニーの覚悟を無駄にするつもり?」

決断を迷う僕に、さらにラピリアが言い聞かせるように畳み掛けてきた。

「、、、でも、、影武者と言ってもどうやって?」

僕の疑問は、ウィックハルトには想定内だったようだ。

「ロア殿の鎧は非常に珍しい物です。敵もそれを狙ってくるはず。なので、もう一つ作らせました」

「え?」

「ロア殿のそのような顔は珍しいですね、言葉の通りの意味です、王都出立前に急ぎ作らせました」

ウィックハルト、最初からそのつもりだったのか。

こうして僕は、レニーの影武者を受け入れることになったのである。

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僕の代わりに矢を受けて崩れ落ちるレニーを見た瞬間、僕は陣幕から飛び出す。多分、これは指揮官としては間違った行動だろう。でも我慢できなかった。

レイズ様の時のことを思い出す。もし同じ人物からの矢であれば、毒が塗られている可能性は高い。

「レニー!!」

駆け寄る僕の視線の端で、ウィックハルトが東の山の斜面に弓を向けているのが見えたが、今はそれどころではない。

倒れたレニーの元へ辿り着く、レニーの顔色は真っ青だ。

「レニー!! しっかりするんだ!」

僕の代わりにレニーが死ぬ。役回りを理解していても、その事実に動揺して上手く頭が回らない僕に、「すぐに周りの肉を抉って! 解毒剤を飲ませて!」と叫ぶ高い声が。

「ルファ!? 危ないよ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ! レニーを助けたいなら、すぐに!」

そうか、そうだ。僕がここで動揺したところで、レニーを助ける事は出来ない。一度大きく息を吐いて、矢を抜くと周りの肉を抉る。

その横でルファが解毒剤を飲ませている。射手がレイズ様やフランクルトを狙ったのと同じ人物であれば、毒に関しては分かっている。サンザ草の毒だ。ゆえにウィックハルトの指示で解毒剤が用意されていた。

処置を終えたレニー。息は浅いが辛うじて生きている。

「すぐに、陣幕へ!」

ルファの指示に、近くの兵士がレニーを抱えあげ、ルファも寄り添って走り出す。

「ロアお兄ちゃん! 気をつけてね!」と言い残して。

初めて会った時、グランツ様の背後に隠れてこちらを覗いていた少女は、こんなにも成長していた。

僕も負けてはいられない。

僕は、冷静になれ、冷静になれと言い聞かせながら、攻め寄せてきた敵兵と、中央で濛々と立ち上る黒煙を睨んだのだった。