軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第299話】ホックさん、帰る。

単身でのツァナデフォルへの交渉。その大任を背負い旅立ったホックさんが、王都に戻ってきた。

季節は既に、クラザの木々に青々と葉が茂る時期を迎え、人々に夏の到来を知らしめている。

「無事でよかった! 安心しました!」

無事の帰還を喜びつつ、部屋へと招き入れながら、僕は胸を撫で下ろす。

リフレアに感取られぬように、それでいてなるべく確実にツァナデフォルと交渉できる最良の選択を考えて、ホックさんに全てを託した。けれど、これは一種の賭けでもあった。

祖国を捨てた裏切り者として拘束される可能性もありえたし、ツァナデフォルが僕の想定以上にリフレアとの関係を深めているようなら、最悪の結果も考えられたのだ。

ホックさんを送り出してから、僕はずっと頭の片隅に不安をおいての生活だったので、無事に帰還してくれて本当に良かった。

何かあったら、第二騎士団の人たちに申し訳が立たない。

「ちゃんと任務を果たしてきたわよ」

「さすがです、ホックさん。それで、反応はどうでした?」

「サピア様は半信半疑だったけれど、トゥトゥを育ててみることも、凶作についての懸念も受け入れたわ。凶作については、サピア様も少し思うところがあったみたいね。思ったよりあっさりしたものだったわ」

そうか、、、ツァナデフォルの女王は凶作の兆候を感じていたのか。それは助かった、話が早い。

「それじゃあ、、、帝国とも?」

「ええ、皇帝ドラク公にも、女王の交渉の意思は伝えてきたわよ。それにしても、こんな短期間でサピア様と皇帝の両方に謁見するなんて思わなかったわね」

うん。ツァナデフォルが折れたのなら、あとは問題ないな。皇帝は多分、ツァナデフォルとの交渉をまとめるだろう。

ツァナデフォルさえ納得してくれれば、皇帝にこの戦いを継続させる利益はないはずだ。

「そういえばロア、皇帝陛下が「自国の繁栄と大陸の平和のために話を聞いてやる」と貴方に伝えるように言っていたわね」

その言葉を聞いて僕は苦笑する。僕には全く逆の意味に聞こえたからだ。

皇帝がツァナデフォルとの戦いを止めるのは、別に平和が目的ではない。内政に力を入れたいのも事実だろうけれど、もう一つ、大きな意味がある。

今、帝国の前には、滅ぼしたところで領土的な旨みが少ないツァナデフォルよりも、最も美味い餌が転がっている。リフレアのことだ。

ルデクが負けたら帝国が両方滅ぼすという言葉は、あながち誇張ではないと思う。

ルデクが負ければ、帝国はまず間違いなくリフレアに攻め込むつもりであろう。内政に力を入れつつ、リフレアを見据えた動きをするためにも、ツァナデフォルとの争いはもはや無駄なのである。

つまり皇帝はこう言っているのだ「帝国の繁栄のためにさっさと新港を作れ。リフレアと戦争中だろうが手を抜くな。それからお前らが負けたらリフレアは俺のものだから、せいぜい頑張れ」と。

僕が皇帝の言葉をそのように解釈したことをホックさんに伝えると、ホックさんは少し呆れ顔。

「あの皇帝のことだから十分ありえるけれど、面倒な人種ね、貴方たち」

あの腹黒皇帝と一緒くたにされるのは、少々心外である。

もう一ついえば、この時点で帝国が戦争を全て止めることは大きな意味を持つ。南の大陸へのアピールだ。

新港の件で注目を集めている中、帝国としては南の大陸に向けて「帝国は安全」という姿勢を見せておきたい。

誰だって危険な場所には好んで商売に行きたいとは思わない。帝国としては商業航路が安定するまでは、なるべく懸念事項は減らしておきたい。

多分、皇帝はそこまで考えている。だから、ツァナデフォルが折れた段階で、あとは皇帝に任せておけば安心と判断した。多少譲歩してでも、ツァナデフォルと友好的な関係を築こうとするだろう。

「、、、、とりあえず、これでツァナデフォルの人々も飢えに苦しむ心配はかなり減りました」

僕がそのように言うと、ホックさんは首を傾げる。

「そのトゥトゥだけど、、、たった2箱でなんとかなるものなのかしら?」

「あ、それは無理です。ツァナデフォルに持っていってもらったトゥトゥは、あくまで先々を考えての事ですね。この冬のツァナデフォルには、ルデクと帝国から食料を流して凌いでもらいます」

「あら、そうなの」

「ただ、僕の方で育てているトゥトゥは秋に一度収穫できます。予定通りならそれなりの量になるはずなので、これをもう一度植え直して、冬にもう一度収穫できれば、ルデクの国内だけはそれなりに足しになるはずですよ」

「、、、、そんなに上手くいくの?」

「おそらくは。ま、失敗したら南から仕入れた食料から、他国に回す分が減るだけです」

そうは言ったけれど、まず失敗しないだろうと思っている。と言うのもこの芋、非常に繁殖力が強い上に、一つの種芋から大量の芋が育つ。

東の諸島でも強すぎる繁殖力を懸念して、育成場所に制限をかけているような野菜なのだ。

本来この芋が北の大陸にやってきたのは今から20年ほど後のことだ。どのような経緯かは分からないけれど、ツァナデフォルで育成が始まり、凍てついた北の大地と非常に相性が良いことがわかった。以降、ツァナデフォルの名産品として欠かせない存在となってゆく。

それまでのツァナデフォルは常に食料問題に悩まされていたのは、旅した未来の知識で知っている。リフレアが付け込むならそこかなと思ったので、短期、長期両面で、リフレアからの脱却を図らせてみたのだ。

未来の可能性を提示することで、リフレアへの援軍も二の足を踏むだろうというのが僕の考えだ。

皇帝との交渉にも応じるということは、リフレアからは距離を取るということ。

とりあえず上手くいきそうで良かった。

「ところで、トゥトゥってどこで育てているの?」

ホックさんが何の気なしに聞いてくる。そうか、ホックさんはトゥトゥ農場を見たことなかったか。

「せっかくですから、北へ戻る前に見学していきます?」

「、、、、そうね。話の種に見学させてもらおうかしら」

そんな風に話がまとまったので、僕らはトゥトゥ農場を見学するために、王都を出発するのだった。