軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第289話】ゾディアック家の人々⑨ お仕事の時間

「やあ、皆様、お疲れ様でした」

怪しげな山師のような口ぶりで部屋に入ってきたサザビー。次いで隣の部屋で息を潜めてやり取りを聞いていた人たちが、次々に入室してくる。

なんとなくその様子を見ていた僕は、ビルドザル様の入室を見てギョッとする。何せ、滂沱の涙を流しながらの登場であったのだ。

「お、お祖父様!?」

ラピリアも相当な慌てよう。と言うことはやっぱりただ事ではないようだ。

ビルドザル様は涙を拭うこともなく、ラピリアの前に立ち、その頬にそっと触れる。

「お祖父様!? どうされたのですか!?」

「ラピリアよ、、、、先程の一喝、見事であった、実に気迫の篭った良い一撃である。あの小さかったラピリアが、このような立派な騎士に、、、私は、、、私は、、、、」

、、、、、心震わせる部分は良くわからないけれど、とにかく孫娘の成長を喜んでいると言うのは良く分かった。

「お、お祖父様、落ち着いてください。ほら、涙をお拭きになって!」

ビルドザル様にハンカチを手渡すラピリアを見ていたリウラ様が、くすくすと笑い出す。

「でも、本当にお見事でしたわ。少々礼を失する方でしたもの」と言えば、「全くだ! 無礼にも程があったわ!」と憤慨するベルトンさん。

それからベルトンさんは立ち上がると僕の方へやってきて、力強く肩を叩き「しかし痛快であった!」と笑顔を見せたかと思えば、即座に目尻に涙を浮かべ始め「む、、娘を、、頼む、、」と泣き出してしまった。

ご老人と中年男性が涙を流す混沌とした状況、僕はなんとか話題を変えられないものかと視線を走らせたところで初めて、ネルフィアがいないことに気がつく。

「あれ? サザビー、ネルフィアは?」

「ネルフィアでしたら仕事に行きましたよ?」

「仕事?」

「はい。テレンザ一行の後をつけて行きました。あれだけ驚いてくれれば、いい具合に動いてくれるはずですから」

「動くっていうのは、、、仕掛け人の元に。ってこと?」

「ええ。散々ロア殿の噂を流した甲斐がありましたよ」

あー、やっぱり第八騎士団が暗躍していたのか。おかしいと思ったんだ。いくらなんでもテレンザの動揺が過ぎる。

「ちなみに、なんて噂を流したか聞いていい?」

「色々ありますが、ロア殿は王家の祠でべローザ家の策謀を打ち破ったことがありましたよね」

「破ったというか、差し向けたごろつきを叩いただけだけど?」

「けれど、結果的にべローザ家は潰えた」

「、、、、まあ、そうだね」

「なので、その一件を少々脚色しました。べローザ家の一件、取り潰しに裏で動いたのはロア=シュタインだ、と」

「ええ〜。それは、無理があるでしょ」

「そうでもないですよ。確かにロア殿が部隊長のままなら鼻であしらわれるような噂ですが、今や第10騎士団副団長。王に最も近しい臣下のお一人です。かつて名家を短期間で全滅させたロア殿が、北の貴族に目を光らせているぞと各方面に流したら、先ほどの通りです」

それなら、テレンザのあの態度も納得だ。まるで貴族の首を刈る悪魔のような人間に対して、あのような態度をとってしまっては、もはやお家取り潰し待ったなしである。

「北の貴族を牽制するためにも使えそうだったので、効果が確認できて良かったですね」と、悪びれもなく言うサザビー。

噂には噂を、か。

まあでも、確かに今の状況ならテレンザは慌てて依頼元に泣き付くだろうな。それなりの名家が命令を聞くような相手、一体誰だろう。

「ロア殿、なんの話をしているのかね?」

すっかり泣き止んだベルトンさんを始め、ゾディアック家の人々が怪訝な顔で僕らの会話を聞いていた。

「、、、、ベルトンさんも疑っていた通り、バーミトン家はゾディアック家を罠に落とそうとしていたのです。僕らはそれを防ぎに来ました。黙っていてすみません」

僕はここまでの経緯をかいつまんで説明する。

けれど結局その説明の中で、ラピリアとの婚約について偽装であるとは言えないままであった。

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その夜。

「少し話さない?」

ラピリアに誘われて、僕らは庭へと出る。

「色々お疲れ様」

「ラピリアもね」

それからなんとなく黙って庭をゆっくり歩く。

「、、、、解決して良かったね」

「、、、そうね。ありがとう。ロア」

「大したこと話してないよ。そうだ、ビルドザル様も言っていたけど、あの一喝、かっこよかったね」

「そう?」

山の方から虫の声が聞こえる。

「いい場所だね」

「うん」

「あのさ、、、、その、、、婚約のことだけどさ、、、」

「、、、、、うん」

「その、、、、、ラピリアさえ良かったら、しばらく、そのまま、、、さ、、、」

「、、、うん」

虫の声が妙に耳に響く。

「、、、、リフレアとの決着がついたら、ラピリアに伝えたいことがあるんだ」

「、、うん」

満天の星だけが、僕らを見守っていた。