軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第252話】疑惑(下)

「お、難しい話が始まりそうだな。よし!」

「ルファ、レニー、街を探索に行くぞ!」

「うん!」

「は、はい!」

面倒な話は聞くつもりがない双子の、迅速な判断によって連れ去られる二人を見送ってから、第九騎士団の本部だった館へと連れ立って入る僕ら。

先導はシャリスだ。

「ここから上が、ヒューメット様の居住空間です。最上階の全てが私室となっています」

言いながら指し示した扉は、鍵が破壊されていた。

「これはシャリスが?」僕が聞くと、シャリスは「そうです」と肯定する。

シャリスとグリーズさんはデンバーに到着してすぐに、せめてヒューメット様に献花をと考え、館を訪れた。

ところが私室に入る鍵が見当たらない。ヒューメット様の私室の管理を任されていた執事のもとへ行き、鍵の行方を問うたところ、シャリス達が追い払われて以降、ヒューメット様の私室は閉鎖されていたらしい。

その執事は第九騎士団の貴族から「今後は出入りを禁じる」と通達され、一方的に役を解雇されたとシャリス相手に憤っていた。

そのため鍵のありかは全く分からず、仕方なく鍵を破壊したのだという。

「足元に気をつけてください」注意を促しながらシャリスが薄暗い階段を登り、僕らも続く。

階段を登り切った場所は、大きな窓から光が差し込む明るい空間。王の伯父の住居として相応の調度品が並ぶ廊下に出る。

「口で説明するより、実際に見ていただいた方が伝わるかと思います」

そんな風に言いながら、居並ぶ扉を次々と開け「ここは寝室です」「ここはリビングですね」などと説明して行くシャリス。

僕らは説明された部屋に入って見聞すると、次の部屋へ。さながら新居の確認のような時間を過ごす。

「、、、、隠し部屋などなければ、これで全てです。いかがですか?」

「確かに、ないね」

僕が答え、その場にいた全員が同意する。

どこにもないのだ、ヒューメット様の”血痕”が。

シャリスが濡れ衣を着せられそうになった時、ノーグロートは「ヒューメット様はご自害されたか、或いは誰かに弑された」と言った。記憶違いはないという。

また、ヒューメット様が亡くなったのが、夜のことだというのもはっきりしている。

年齢からして普通に考えれば、真夜中のこと、ヒューメット様は館の中で亡くなった可能性が高い。

さらに、自殺か他殺かわからないという表現からして、少なくとも外傷が残る方法だったのも間違いないはずだ。

なのに、この館には血痕がない。

考えられるとすれば、ヒューメット様は連れ出され、ここではない場所で殺されたということ。

だがその場合、もう少し外で騒ぎになってもいいはずだが、当日、そんな騒ぎはシャリスもグリーズさんも聞いていないという。

次に考えられるのは、血痕が掃除されたという可能性。けれど、人ひとりが亡くなるほどの傷だ。これだけの人間が血痕に注目して見て回って、全く気づかないことなどあるのだろうか?

当然ながら、新しく貼り替えられた床や壁紙なども存在しなかった。

今回シャリスから届いた報告に加えて、凶行のあった当日、シャリスは直接ヒューメット様の死を確認したわけではない。

これらのことから、ひとつの仮説が浮上する。

ヒューメット様は生きているのではないか? と。

報告を受けた段階で、もしヒューメット様が生きていたと仮定して、僕は考えを進めてみた。

生きているのに姿を現さない理由。こちらの希望としては、死なずとも大怪我を負ってリフレアに囚われている可能性。

そしてもう一つは、、、、、、、

ヒューメット=トラドが、ルシファル同様にルデクを裏切っている。

信じられないことだけれど、そのように考えると納得できることがいくつかある。

例えばルシファルとリフレアの関係について。僕はずっと疑問に思っていたことがある。いくら第一騎士団がリフレアの歓待を任されていたからといって、そう簡単に裏切る決断まで至るだろうか?

実際に裏切っているのだからそうなのだろうと思うようにしていたけれど、間にリフレアとルシファルを繋げる存在がいたとしたらどうだ?

ルシファルからすでに充分な信頼があり、かつ、ルシファルが裏切りを決断した後も立場を保証する人物が唆したのだとしたら、、、、

そしてもう一つ。

「ロアが考えているのは、我が国にもたらされた情報のことだな?」

ここまでの僕の説明を聞いて、リヴォーテがすぐに察する。さすがにただの残念長髪眼鏡ではない。こう見えて皇帝の懐刀の一人である。

「はい」

僕が帝国で聞いた、 第三皇子(ロカビル) が耳にしたというルデクへの侵攻理由。それは、貴族の内乱が起こり、ルデクは大混乱に陥るというものだ。

僕はルシファルのことを指しているのかと思ったけれど、王の伯父であるヒューメットが中心にいるなら一大事だ。王族間の争いになり、貴族達も割れる。確かに大きな内乱になってもおかしくない。

ではなぜ、内乱は起こらなかったのか?

帝国の侵攻が失敗したからではないか。レイズ様の手によって。

帝国乱入に乗じて、乱を起こそうと考えていた?

見込みが外れたから、別の方法を考えた。

それが、有力な騎士団を巻き込む方法。そうして声がかかったのが、第一騎士団。

「、、、あり得ない話ではあるまい」

僕の考えにリヴォーテも同意を示す。

「リヴォーテ殿は、内乱の首謀者が誰なのか聞いていないんですか?」

僕の問いに首を振った。

「その件はファスティス等が動いていたからな。派閥が違う。ロカビル皇子は知っているかもしれんがな。そもそも、帝国でヒューメット=トラドの死は知らされていない」

組織の規模が大きいのも考えものだなぁ。

けど、ヒューメットの死を知らされていないなら、第九騎士団が裏切ったという事実の中に、ヒューメットも裏切ったという意味も含まれる事になる。

そうなると帝国としては、ヒューメットの裏切りはルデクも当然知っているものとして話を進めるだろう。

ロカビル皇子が隠していたというよりも、僕らとそもそもの前提が違うので、特に触れる必要のない話題と考えたか。

参ったな。いずれにせよこのまま放置はできない問題だ。僕の考えの通りなら、ヒューメットと内応をした貴族がいることになる。

これは一度、王都に戻った方がいいな。

主人の帰りを待つ小綺麗な館の中で、僕は深々とため息をついた。