軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第201話】皇帝とロア③ 第三皇子

「 帝国(ウチ) とルデクの同盟締結を手伝ってほしい、ですか? もちろん良いですよ」

ルルリアと同じように、理由を聞く前に協力を約束してくれるツェツィーに、ありがたくも思わず笑ってしまった。

「どうされました?」

「ごめん、ルルリアが言った通りだったからつい。ありがとう、ツェツィー」

「いえ、まだ何もしてませんし、、、協力しますと伝えた後で申し訳ないのですが、父上は息子の言葉だからと絆されるような人間ではないので、お役に立てるかどうか、、、そもそも謁見できるかすら怪しいかもしれません。急ぎ打診はしてみますが」

「あ、うん。謁見については別方向からも仕掛けているんだ。だから、、そうだね、あと2〜3日後でもいいよ」

「仕掛けですか?」

「君たちも会ったことがある人だよ、旅一座ル・プ・ゼアのゾディア」

「ああ、先だって当家に訪ねてこられた方ですね。確かにロア殿と面識があると仰っておりました。ですが、旅一座の方がなぜ?」

僕は正規の外交手順を踏まずに、皇帝に面談の希望を伝えられる利点を説明する。

「あら、でも今の言い方だと、もしかしたらロアたちの方が先に着いてしまったって事かしら? それならゾディアさんも一緒に来ればよかったじゃない」

「いや、僕らが早く到着できたのは、ルルリアたちがすぐに受け入れてくれたから。単なる幸運に近いんだ。先触れを出しての来訪じゃないからね。君たちが領内に不在の可能性だって考えられたし、状況によっては何日も港にとどめ置かれる可能性もあった」

それでも旅一座と違い、僕らは国境を越えるより船の方が早いと判断したのだけど、ルルリアのフットワークの軽さのおかげで信じられないほどスムーズにこの場に到着できたのである。

「それに、ゾディアも僕らと一緒にやってきて皇帝の元へゆけば、皇帝も警戒するだろうし」

海上からの入国に対して不確定要素が多かったこともだけど、何よりゾディアはあくまで中立の立場で皇帝に接触して欲しかった。

僕らと一緒にやってきたのでは、皇帝の警戒心を掻き立てるかもしれない。まずは一切の先入観なく同盟の希望を伝えたかったのである。

皇帝に同盟について考える時間を持ってもらう、その上でツェツィーから謁見の希望を打診する。

一見無駄な流れに見える。けれど、いきなり乗り込んでも門前払いは目に見えている。だから搦め手から攻める。

まず第三者から”同盟の利益”をちらつかせ、さらに身内から同じように”同盟の利益”について話を持ち込んでもらう。

皇帝ドラク=デラッサは利に聡い人だ。

単に戦いに強いだけでは、一代で帝国を築き上げることはできない。常に利益を確保して、それらを付き従う者達にばら撒いたからこそ、帝国は急速に膨れ上がったのである。

ルデク以外の人間から帝国の利益になる可能性を耳にすれば、多分、皇帝は無視しない。それは帝国の現状にも起因する。

帝国は大陸東部の覇者として君臨しているけれど、ここ数年は停滞が続いている。北はツァナデフォル、南西はルデクと戦争中ながら、領土は全く広げられていないのだ。

つまり皇帝の求心力の一つであった、新しい利益の供給が滞っているのである。

これは僕の知る歴史でも同じような状況だった。皇帝の苦しい台所事情は、もしかしたら帝国の人間よりも僕の方が詳しいかもしれない。

現状を打破できる可能性があるとなれば、皇帝も謁見を拒否しないのではないか。僕が皇帝との謁見を実現するなら、これが一番手っ取り早いと考えた。

ついでにツェツィーが同席してくれれば、皇帝の暗殺などに対する警戒も薄れるだろうし。少なくとも謁見に至るまでなら、僕はそれなりに勝算があると踏んでいる。

「謁見までの考えはわかったけど、その”同盟の利益”ってなんなのかしら?」ルルリアの質問に、僕は交渉の切り札となる腹案について説明。

僕の話を聞いたルルリアは目を輝かせ、ガフォル将軍は目を剥き、ツェツィーは「ロア殿はいつだって私たちの想像を越えますね」と微笑む。

三者三様の反応だったけれど、共通して「検討の余地はあるかもしれない」との返事をもらうことができたのは、とりあえず良かった。あとは皇帝が同じように考えてくれるかどうか。

「とにかく使者はすぐに準備して帝都に向かわせましょう」説明を聞いたツェツィーは言う。

「さっきも言ったけれど2〜3日後でも大丈夫だよ?」

「要はこちらからの報告は、ゾディアさんが父上に話を届けた後なら良いのでしょう? なら、こちらの使者は帝都で待たせておきます」

「そうか。確かにその方が話が早いね」

僕とツェツィーの段取りの相談に、ルルリアが加わってくる。

「ねえ、もちろん私も謁見に同席できるんでしょうね?」そのようにツェツィーに聞くルルリアの顔を見れば、彼女をここに押し留めるのは、皇帝を説得するよりも難しそうだ。

「もちろんだよ。ロア殿、宜しいですか」

「うん。頼りにしているよ」

「任せなさい。私が御義父様を説得してあげるわ」

、、、、ルルリアなら本当にやりかねない気もする。

とにかく謁見までに打てる手は全て打った。あとは皇帝の出方次第。そう思っていると、ルルリアが少しだけ眉根を寄せた。

「ルデクと同盟、、、、、ロカビル御義兄様はどう思われるかしら」

「うん、私もそれが気になっていたんだ」

ロカビル、、、確か、皇帝の第三皇子がそんな名前だったはず。何か問題があるのだろうか。僕の質問に、2人は珍しく歯切れの悪い感じで目配せし合う。

それから一拍置いてツェツィーが口にした言葉は、僕らルデクの人間がざわつくに十分な一言だった。

「ロカビル兄さんは、ルデクとの開戦を進言した張本人です」

僕が説き伏せなければならない相手は、皇帝だけではないのかもしれない。