軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第194話】王とロア⑦ 議会は踊る(3)

帝国との同盟。

僕の提案したこの策に対する反応は、はっきりと3つに分かれた。

真っ先に不快そうに「あり得ぬ!」と吐き捨てたのは貴族院の人たち。

プライドの高い彼らは、一方的に攻めてきた帝国にこちらからすり寄るなど到底できぬと声高に述べる。

次いで「無理だ」「不可能だ」と口にするのは文官の上層部。こちらは実務的な方面から想像して、所詮絵空事だと首を振る者が多い。

最後に沈黙を選択したのは武官。すなわち騎士団長たち。けれどその表情は苦々しい。

戦況を身近に想像できる騎士団長は、もう分かっている。このままではルデクに未来がない、と。

だからこそ感情的には反対であっても、この提案の有用性を無視できないでいるのだ。

文官も武官も知る僕としては、貴族院以外の反応は概ね予想できた。貴族院に関しても、正直ここまでは予想通りと言える。

まとめて説得するのは効率が悪い、順次攻略していくのがいいだろう。

では、どこからか。

僕が選択したのは文官。

敢えて語弊のある言い方をすれば、文官というのは帝国への感情よりも、目的に対して自分たちがどう動かなければならないのかを考えがちだ。

言い方は悪いけれど、愛国心よりも実現性が大切なのだ。

「不可能だ、そのように仰る方がおられますが、きちんと道筋を考えた上での提案です。現に必要な手配はすでに進めています」

僕は帝国との交渉までの流れを説明してみせる。

「なんと、、、しかしそれは無茶な、、」

「そのような方法で、本当に皇帝と謁見が可能なのか?」

半信半疑で聞いている人たちの中から、

「正規の外交ルートではダメなのか?」という声が上がる。

「平時であればその通りだと思いますが、今は爪の先ほどの時間でも惜しいのです。正規ルートでは時間がかかりすぎます」

それはルデクにツェツィーがやって来た時の流れを見ても明らかだ。特に今回は内容が内容なだけに、最初の使者のやり取りだけで下手したら1月以上かかる。それでは話にならない。

「それは確かにそうだが、、、そのような不確かな者の力を借りねばならないとは、、、」

まだ不満そうな質問者、次いで別の疑問を呈する者が出てくる。

「仮に貴公の言う通りに話が進んだとして、交渉といってもこちらが何を差し出すのだ? 皇帝は利に聡い男だと聞く、相当な物でなければ歯牙にもかけぬのではないか?」

その通りだ。ましてルデクは窮地にあり、立場は弱い。当然帝国もルデクの状況を早々に把握するはずだ。

「尤もです。ですからそれなりの”土産”を用意しました。すでに王にはお話ししています」

僕が持っていくお土産のことを話すと、文官どころか貴族や武官もざわついた。そしてすぐに貴族院から「ありえぬ!」と激昂する者が現れる。

「ですが、今、同盟を成すためにはこれくらいの譲歩は必要です。また、譲歩という言葉を使いましたが、先々を考えればルデクにとって益のない話ではありません」

「戯言を申すな!!」

机を叩いて立ち上がる貴族。えっと、あれは誰だったかな。あ、そうだ、キンズリー=インブベイ様だっけ?

キンズリー様の声に、他の貴族院の人たちが同調して、僕に非難の言葉を投げつけてくる。キンズリー様は鋭い目つきに特徴的な鷲鼻まで真っ赤にして僕を睨みつけている。

さて、どう説得しようか、、、考えを巡らせる僕に、意外なところから援軍が現れた。

「、、、、、いや、これは意外に悪くない狙いかもしれませんな」

声の主はサイファ様。

ルデクにおける外交の要が発した言葉に、全体が再びどよめいた。

僕も少し驚く。サイファ様が一番最初に賛成してくれるとは思っていなかった。これは嬉しい誤算だ。

「サイファよ、どういうことか!」

キンズリー様の矛先が僕からサイファ様に向かう。

けれど、長年他国と渡り合ってきたサイファ様も負けてはいない。

「言葉通りの意味ですな。確かに短期的に見ればロアの提案はありえないでしょうが、長期的に見れば悪くない。私はそのように判断させていただいたまで」

「貴様、、、帝国に我が国を売るつもりか!?」

「キンズリー様、なぜそのような結論になるのですかな? わが国を売ろうとしているのはルシファル=ベラスと第一騎士団、そしてルシファルに降った愚かな者たちであり、その中にはご存知の通り貴族の将も少なくない。そこにいるロアの提案は、私にはただ必死に打開策を探しているように見えますが?」

第九騎士団の主要な将官の裏切りは、貴族院の泣きどころだ。キンズリー様は「ぐう、、」と言って乱暴に腰を下ろす。

その様子を見た王が、「他の者の意見も聞こう、どうだ?」とそれぞれの顔を見渡す。

「宜しいか?」と手を挙げたのは、ザックハート様。

「忌憚ない意見を申せ」王の言葉を受けて立ち上がる。

「帝国に持ち込む同盟とはどのようなものだ? 当国の窮地に兵を出してほしいと頼み込むのか?」

「いいえ、我々ルデクが望むのは不戦。端的に言えば”手を出すな、傍観しろ”と」

僕の言葉に満足そうにしたザックハート様は「ならば何もいうことはない。ワシも賛成だ」とだけ言って着席する。

同盟が成ってもここで援軍を望めば、ルデクは永遠に帝国の風下に立つことになるだろう。それではダメなのだ。帝国との同盟はあくまで対等でなければならない。こちらが利益を提供する代わりに余計なことはするな。ここがギリギリのラインだ。

サイファ様とザックハート様の賛成を受けて、ぽつり、ぽつりと賛成を表明する人々が増えてくる。

会議は佳境を迎えようとしていた。