軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第147話】騎士団合同演習⑥ 複雑な思い

東の本陣で戦況を見つめるザックハートの手元には、十騎士弓が握られている。巨体のザックハートが持つと十騎士弓は玩具のように見えた。

「西軍は中央にグランツ隊、北へラピリア隊、、、そして南に第四騎士団とロア隊ですか。中央は予想通りですが、少し意外ですね」戦場を睨むザックハートに声をかけてきたのは、副将のべイリューズである。

「何を予想外と捉える?」ザックハートはそちらに視線を移すことなく聞く。

「そうですね、最初からロア隊も投入したこと、それからロア隊をラピリア隊の方へ回さなかったとこです」

べイリューズの言葉にザックハートは鼻白む。おそらくべイリューズも想定の範囲内であるはずだ。しかしこの男は出番がないと、このような児戯に興じてくる。

放っておいても良いのだが、放っておいたら何度も話題を変えて話しかけてくるので、さっさと処理したほうが面倒が少ない。

「何が意外なものか。今回の演習、新兵の数の差とはいえ西軍の方が少ない。時間が経つほど不利になるのは明確。なれば、先手を打って攻め入るのは悪い選択ではない」

「ですね。では、第四騎士団と合流したのは?」

「ふん、それこそ明白ではないか。第四騎士団の双子も騎兵。騎兵で集まった方が機動力が存分に活かせよう」

「御慧眼です」

最後の心のこもってない褒め言葉は無視して、前線の動きに集中する。取り決め通り、新兵同士の長柄槍による叩き合いが始まっている。ロアによれば長柄槍は元は民兵が恐怖心を感じずに使える武器として生まれたという。

「なるほど、面白みのない武器だが、武器を使い慣れぬ者には適当かもしれん」

「そうですね、おや? 平行に構えて突出してくる者がいます。へえ、変わった使い方ですね。あのように構えて、人数を集めて突撃させても良いのではないですか?」

確かに目新しく感じるが、、、、

「いや、突きの勢いもない。相手が熟練の兵なら簡単に切っ先を避けて、柄の部分を掴んで動きを封じてくるぞ。そうなれば弓の良い的ぞ」

「確かに。まして、動きが取れなくなれば”それ”がありますね」

べイリューズはザックハートの手元にある十騎士弓に視線を移した。

ザックハートも自身の手の中の武器を改めて見つめる。

「戦はどんどんとつまらぬものになってゆくの、、」

その言葉はべイリューズに向けたものではない。いや、言葉に出すつもりすらなかったかもしれない。ただただ、ザックハートの本音が溢れたのだ。

「ザックハート様は、不満でいらっしゃいますか?」

おちゃらけた雰囲気が消え、少し真剣な声音でべイリューズが問うてくる。

不満、、、不満か。ああ、私は不満なのかもしれない。戦いは確実により簡単に、より効率良くなってゆく。

弓にせよ槍にせよ、武器というのはそれぞれの技量を表すものだ。

技術と経験から生み出された戦略で敵を討ち果たす。。。。それはある種の芸術であると考えていた。

おそらくロアの考え方は正しい。これらの武器が流通すれば、ルデクの戦い方は一段上に上がるだろう。

だがなぁ。。。。

ザックハートは十騎士弓を西軍の本陣に向けて構えてみる。やはりこれは、つまらん気がするのぅ。

いや、考えるのはやめておこう。これ以上は詮なきことだ。

「そろそろ本番ですね」

ザックハートの思考はべイリューズの言葉で中断する。

新兵のやりとりが終わり、中央が混戦になってきたところで南北の軍が激突を開始する。

北側を請け負った第五騎士団は、十騎士弓以外に、通常の弩も全員に配備させていた。

襲い掛かる矢の雨。

しかしラピリア隊も心得たもの。部隊を自在に動かして、矢の雨を華麗に逃れながら被害を最小限に抑えているようだ。

弩は連射ができない。矢の雨がひと段落したとみるや、ラピリア隊が第五騎士団へ突撃して行く様が見えた。

南は、と見れば、第七騎士団と揉み合っているのは、月に燕の旗印。ロア隊のものだ。第四騎士団は第七騎士団の相手をロア隊に任せ、こちらへと迫ってくる。

最前列にいるのは全身鎧に身を包んだ双子。馬にも鎧を履かせた重装騎兵。ただ、重装騎兵は前列付近の一部だけだ、装備は旅程の荷物になる。全員分の装備は持ってきていないようだ。

「あれでは前線には十騎士弓も通らんな」

重装騎兵相手では、鏃があっても弾き返されるだろう。

「狙うとすれば足元でしょう。騎馬は勢いを止めると、弱い」

「うむ。どの程度のものか、試しに狙ってみよ。足ではなく地面を狙えよ。演習で馬を傷つけるものではない」

「承知いたしました」

べイリューズの指示で十騎士弓を預けられた兵が、第四騎士団の前列の足元に狙いを定める。

もう少しで射程、そう思った直後のことだ。

第四騎士団の最前列が唐突に左右に割れ、見当違いの方向に走り出す。

するとその後ろから通常の装備の騎兵が一斉に十騎士弓を構える、その数は100や200ではない。

「まずい! 放て!」べイリューズが慌てて射撃を命じるのと同時に、第四騎士団からも矢が放たれる。第四騎士団の方が圧倒的に矢数が多く、一気に脱落者が出る。さらに、あっという間に第二射目が準備されて、第三騎士団へ撃ち込まれた。

「どういうことだ!? 相手の連射が早すぎる! 第四騎士団は事前に速射の訓練を行なっていたのか?」べイリューズが眉根を寄せながら、前線が崩れぬように指示する横で、ザックハートは口角を上げる。

「違うぞ、べイリューズ。”あれ”はロア隊だ。第四騎士団は最前列のみの偽装。ロアは最初から十騎士弓を最大限に利用して、我々を叩こうとしてきたのだ」

おそらく西軍の全ての十騎士弓を持ってやってきている。なるほど、なるほど。これがロアの戦い方か、面白い。

そこまで考えたところでザックハートは気が付く。

ロアの戦い方は面白い。武器がいかに変化しようと、それを使いこなせねば無意味。

ならば、新たな武器であっても、真に使いこなせば芸術か。

一度大きく迂回した双子は、再び第三騎士団へと馬首を向けなおしている。

ザックハートはなんだか愉快な気持ちになってきた。

「者どもよ! ここからはこのザックハートが相手をしてやる! 叩き潰されたい者から前に出よ!!」

遠く離れた西の本陣にいたロアにも届くほどの、気迫のこもった叫び声が戦場に轟くのだった。