軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第114話】帝国騒動① 皇帝

「え? もう一回お願いします。ツェツェドラ皇子がなんですって?」

歴戦の商人らしからぬ慌てようで僕の元へとやってきたダスさん。只事ではないと思った僕は、ひとまず一緒にレイズ様の元へと連れてゆく。

レイズ様もその様子を見てすぐに話を聞く場所を設けてくれた。

「ですから、ツェツェドラ皇子がルデクに会談を求めているのです」聞き間違いではなかった。

それならばダスさんの慌て様も分かる。

現在交戦中のルデクに対して皇帝の息子が会談を求める。通常ならばあり得ない話だ。けれど、落ち着いてダスさんの話を聞けば、僕にも他人事でない話であった。

僕らがルルリアを送り届けた後、ツェツェドラ皇子とルルリアは約束通り、僕の手紙を2人で読んだ。

当初は内容に懐疑的な立場だったツェツェドラ皇子だけど、ルルリアの「違ったら違ったでいいから、調べてみない?」という提案を受け、密かに第二皇子フィレマスと、問題の大臣、バソルの身辺を調べ始めた。

結果は言うまでもない。僕は未来を知っているのだから当然の話だ。

早速、父、皇帝ドラクへ報告すると、ドラクからの返答は意外な言葉だった。

「お前が気づいたのであれば、お前が解決してみせよ」と。

グリードル帝国皇帝、ドラク。

専制16国を生み出した元凶、グランスウェウルの再来と呼ばれる傑物だ。大陸東部の小国の一領地に過ぎなかったグリードルの領主から始まり、祖国を乗っ取ると瞬く間に勢力を拡大。現在の帝国を一代で築いた人物だ。

ドラクの強みが、徹底した実力至上主義にあるところもグランスウェウルと良く似ている。貴賎は問わず、ただ才のみを求める。

その号令を聞きつけてドラクの元には盗賊や流れ者も多く集まった。それら一癖も二癖もある者たちを平然と束ねること自体、ドラクの非凡性を表してるといえる。

ただ才能を評価する。その考え方は息子たちにも向けられた。

ドラクの4人の息子は幼くしてそれぞれ領地経営を任され、治めた領地で問題があれば、側近もろとも容赦なく叱責される。最悪側近の首が飛ぶ。物理的に。

つまりドラクはツェツェドラ皇子に「実力を示せ」と言ってきたのだ。

父に話をすれば終わりと思っていたツェツェドラ皇子は困惑する。他の兄弟に比べて末っ子らしいおっとりとした性格のツェツェドラ皇子は、地方領主という立場に満足していた。

熾烈な後継者争いを繰り広げていた他の兄弟も、ツェツェドラ皇子は競争相手と見做しておらず、ごく自然な兄弟付き合いをしていた。

皇帝ドラクさえ、ツェツェドラ皇子を後継者の候補と見做していなかったようだ。だからこそ、甘やかしていたのである。

ところがその末っ子が才覚を示して見せた。ゆえに皇帝は実力を見定めようとした。

困ったツェツェドラ皇子だったが、思わぬ展開がやってくる。

第二皇子のフィレマスから使者がきたのである。

内容は「自分の身の振り方について、折り入って相談がある。場合によっては父上に継承権の辞退を申し出ることになるかもしれない。そのため、できれば帝都で相談に乗ってほしい。兄弟の中で唯一心を許せるツェツェドラにしか頼めない」とのこと。

僕の知る後世、語られる筈の物語の中では、ツェツェドラ皇子がなぜ帝都に居たのか分からなかったけれど、これではっきりした。フィレマスは最初からツェツェドラ皇子を巻き込むつもりで呼び出したのだ。

折しも皇帝と第一皇子は対ツァナデフォルの遠征に出発したばかりだった。であれば、いくらおっとりしたツェツェドラ皇子といえど、これが罠だと察する。

そこでツェツェドラ皇子とルルリアは一計を案じた。

騙されたふりをして、ドラク本軍と連携して反乱軍を挟み撃ちにしようと。皇帝は主攻でなければ手伝う事を了解する。

、、、、ちょっと気になる事がある。一計を案じるところで、ダスさんから突然ルルリアの名前が出てきたことだ。本人は無意識の様だけど、、、、その作戦、考えたのはもしかして、、

僕の考えはよそに、ダスさんの話は続く。

果たしてその日はやってきた。

ツェツェドラ皇子は大臣のバソルを捕縛し、フィレマスの到着を待った。

計画が露見しているとは知らずのこのことやってきたフィレマスは、帝都にたどり着くことなく大剣のガフォル将軍と密かに待ち構えていた皇帝の本隊に包囲される。

不意をつかれた反乱軍は抵抗らしい抵抗も見せずに瓦解。まともな戦闘になる前に、すでに勝負が決していたらしい。

こうして反乱が未然に防がれたが、戦いの混乱の中でフィレマスは逃走、船で帝国を脱出した。

「なるほど。そこまでは分かった。しかしそれがなぜツェツェドラ皇子の訪問に繋がるのだ?」レイズ様の質問は、この場にいた全ての総意。いや、ドリューは興味なさそうなので、ドリュー以外の総意だ。

「フィレマスはゴルベルに逃げたのです」

「ゴルベルに? しかし、我らの海域を通っての移動なら見咎められそうだが?」レイズ様が眉間に皺を寄せた。自国の領内を好き勝手移動されるのは芳しくない。

「その辺りのことは良く分かりませんが、運が良かったのかもしれません。一応、見た目は他国の商船に扮していたそうです」ダスさんは少し言いにくそうに答えた。

「、、、まあいい。南の大陸ではなく、ゴルベルに亡命しようとしたということは、既に密約があったと考えるべきだな」

「はい。私もそう思います。フィレマスがゴルベルに逃げたことは、逃げ遅れた者を問い詰め、すぐに分かりました。そこでゴルベルに問い合わせると、貴国の皇子が亡命したいと突然やってきて困惑している。希望されればすぐに引き渡す、という返事でした」

「その皇子、見捨てられたな」

「でしょうな」

「ならば引き渡し途中に”事故”で死んで終わりか。ゴルベルは口封じをしたい、そして、、」

レイズ将軍の言葉をダスさんが引き継ぐ。

「両国としても無難でしょう。帝国としては業腹かもしれませんが、どのみち引き取ってもフィレマスには死を賜る運命しかありません。実子を処刑するとなれば、少なからず動揺が走る。なれば、他国で亡くなってくれたほうが面倒が少ない」

「だが、フィレマスは死ななかった、そういうことか?」

「はい。突然事情が変わったのです」

そこまで言って、一度喉を湿らせたダスさんの話は、いよいよ佳境に向かうのだった。