軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【第110話】ホグベック領⑤ 昔々のお話

「もう少しゆっくりしていけば良いのに、ね、オーパさんもそう思うでしょ」

年明け早々に出発準備を整えた僕らに、セシリアが言う。僕としては、少なくともウィックハルトはもう少しゆっくりしていけば良いと思う。

元々ウィックハルトがリーゼの砦に向かう理由は、急遽離脱した第六騎士団の穴埋めをしてくれた第七騎士団への、謝罪とお礼のためだ。

たまたまとはいえ、先日トール将軍に会って言葉を交わしているので、既に目的は達せられたといえる。

「けれど、流石にドリューの様子も気になりますので」とあとから来れば良いという僕の提案に、ウィックハルトは同行を申し出た。

僕はなるべくウィックハルトがまとまったお休みを取れるようにすると、密かに心に決める。

、、、、場合によっては、オーパさんとも今生の別れになるかもしれないから。

もちろん、そうならないように頑張るつもりだけど。

「今後はもう少し頻繁に戻るようにするよ」少しだけうるさそうに応じるウィックハルト。照れ隠しにしか見えない。

「ロア殿」領主様が僕の方へとやってきて手を差し出した。僕が応じると「ウィックハルトを、息子をお願いいたします」と真剣な顔で言う。

「、、、、はい」

僕の方が助けられてばかりだけど。

こうして僕らはウィックハルトの実家を後にしたのである。

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リーゼの砦はハクシャよりも近い。道中何事もなく、さしてかからずに到着した。

番兵に来訪を告げると、既に話が通っているので割符さえ確認せずに中に入ることができた。

久しぶりのリーゼの砦は閑散としている。大半の兵士が帰郷しているのだろう。

通常時であればありえないが、今の時期だけは相手も絶対に攻めてこないので、どこもこんなものだろう。

年末年始は戦わない。これは北の大陸における不文律だ。それぞれの統治者への戒めと言い換えることもできる。

かつて、北の大陸の北西にあった小さな国に、一人の傑物が誕生した。

男の名はグランスウェウル。彼がほんの少しだけ人の気持ちに配慮できたなら、北の大陸を統一したかもしれないと言われるほどの人物。

だけど、グランスウェウルは道半ばで死んだ。一族郎党と共に、根絶やしにされた。グランスウェウルを殺したのは敵国の将ではない。国民と、自国の兵士だ。

グランスウェウルは戦に強く、内政にも非凡な才能を発揮し、当時としては珍しく貴賎を問わず優秀なものを重用して、小国を瞬く間に大国へと押し上げた。だが、目的のためには躊躇しない果断さは、下々の人間を苦しめた。

彼は年末年始だろうがなんだろうがお構いなしに戦争を仕掛けた。最初は戦勝に沸いた民草も、ある程度国が大きくなると休息を求めた。しかし、グランスウェウルはそれを許すことはなかった。

そして、大きな反乱が起きる。

皮肉なことに、反乱が起きたのはその年の最後の日だった。人々が休息を望んだその日に、各地で火柱があがったのである。

さらにいえばこの日、グランスウェウルの一族は揃って祝宴を開いていたと言うのだから、起こるべくして起こったのかもしれない。

反乱は成功した。グランスウェウルの首を晒し、そのまま内乱に突入する。

反乱を指揮した者達に加え、グランスウェウルに滅ぼされた国の王の血族なども蜂起し、長い戦いがあった。

内乱期に隣国が攻め込んでこなかったのは幸いだったけれど、隣国が手を出す気になれないほどの、ひどい混乱だったという。

そうして出来たのが専制16国である。

専制16国は他国に対抗するため同盟関係を保っているが、様々な利権や思惑が絡み合って、一つの国として完全にまとまらないのは現在の状況を見ての通りだ。

いつしか大陸には一つの格言が生まれた。

「国を滅ぼしたくなければ、年の変わり目は戦をするな」と。

現在大陸でもっとも有力な、帝国の皇帝でさえ格言を守っているのだから、専制16国に至る話は僕が知っている以上に苛烈だったのかもしれない。

そう言うわけでリーゼの砦に限らず、北の大陸の全ての砦がこんな感じなのである。残った兵達もどこかのんびりとしており、この時期らしい空気が全体を包んでいた。

「あ、来たわね」

途中でラピリア様が迎えに来てくれた。

「ラピリア様、ドリューの様子はどうですか?」

「ついてからほとんど一睡もせずに何か作っていたみたいだけど、さっき糸が切れたように寝たわ」

そんな風にいうラピリア様の目にも、ほんの少しクマが見えた。流石に一睡もしていないことはないと思うけれど、かなりの時間ドリューの様子を見ていてくれたみたいだ。

意外に面倒見が良いのである。

「ドリューはしばらく起きないでしょうから、まずはトール様のところへ行きましょ」

ドリューのことも気になるけれど、とりあえず僕らはラピリア様の先導に従って、砦の中央にある建物へと歩を進める事となったのだった。