軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97 村に新しい風が入り込みますわね!(1)

いよいよ夏も間近なある日、それは突然やってきた。

ファエンが持ってきたものは、大きなオークの丸太数本に、ロープ、それに樽に入った松ヤニだ。

広場に乗りつけた商業用の馬車から、大きな丸太がはみ出していた。

「よくやりましたわ!」

アセリアが褒めると、ファエンは、演技なのか本気なのか、鼻を鳴らして自慢げな顔をした。

ファエンの耳飾りが揺れる。

他でもない、アセリアがドレスを売ったお金で手に入れた、橋の材料だ。

感慨深くなる。

チーセの顔を思い出す。

顔のサイズにに合わない大きな眼鏡。

令嬢ではありえない短い髪の毛。

いつだってやる気十分の瞳。

あなたが作ったドレスで、橋が作れますわよ、チーセ。

それも、ただの橋じゃない。この村の人々を生かすための橋だ。

「これで、橋がかかりますわね」

「そうですね」

ふと見ると、ハルムがにっこりと笑っている。

……最近、ハルムが笑ってますわね?

以前は、まるで人形のように、無表情のままで仕事をしていた。

何より社交界を相手にするあの場面では、無表情が一番便利だったのだろう。

それで、仕事は捗っていた。

そんなハルムであったというのに、最近は仕事をしているときにしても、話すときにしても、なんだかほわっと笑顔でいることが多い。

ちょっとずるいですわ。

ファエンが馬車に乗り、村の住人たちが馬車を囲いゆったりと歩いた。

次第に、現在の橋が見えてくる。

例の、朽ちてボロボロになった橋。

アセリアはドキリとする。

今の黒い橋が、危険なものだと身体が覚えてしまっているのだ。

トン、とアセリアの頭がぶつかったのは、ハルムにだった。

「お嬢様。……大丈夫ですか?」

気遣う、囁くような声。

「ええ、大丈夫ですわ」

少し強がると、それもハルムにはお見通しなのか、ハルムがアセリアの脇に寄ってきた。

「手をお貸ししましょうか?」

「ええ、そうしますわ」

差し出された手に、手を置くと、キュッとアセリアの指先が掴まれた。

「…………」

なんだか……。

これでは、エスコートいうより怖がっているのを気遣われて手を繋いでるだけみたいじゃありませんの。

照れるのを抑えるため、キュッとくちびるをかむ。

そしてアセリアは、少しだけ繋がれた手に力を入れる。

まるで、繋がれた手を握り返すみたいに。

男たちの手で、その木はその場所に置かれた。

「大工たちも、近いうちに村に来るよ」

「感謝いたしますわ」

「世界でも屈指の大工集団だ」

「すごい力の入れようですのね」

「そりゃあね。これは君の矜持をもって、成し遂げられるものだからな」

ファエンは、眩しそうに、橋の材料を眺める。

「ええ。それは、何よりですわ」