作品タイトル不明
91 牛なら出来ると思います!(3)
どうすべきか。
ハルムは、畑の柵に寄りかかり、頭を働かせていた。
オエグさんに、牛を借りる方法。
目の前の元々畑だった場所は、雑草でいっぱいだった。
数年放置された土地は、どうしても根が張っていることだろう。
幸い、大きな木のようなものはないが。
どうしても耕す時、牛がいなくては大変だ。
牛に車を引いてもらい、土を耕すことができれば、豆を植えることもそう難しいことではないだろう。
三頭いるなら、一頭を休ませて、二頭で引かせるのがいい。
どれだけ働けばどれだけ牛の身体に影響があるのかは、正直ハルムも想像が出来ないところだった。
オエグさんと村長を呼んで、話し合いをすべきだろうな。
その前に商人にでも聞いて、知識か農耕の本を手に入れられるように手配してみるか。
そんなことをツラツラと考えていると、離れたところにアセリアが見えた。
スカートをひるがえし歩いている。
後ろに編んだ三つ編みが、ぴょこぴょこと跳ねる。
子供の頃から一緒にいたはずなのに、スカートをひるがえして歩いているところを見るなんて初めてのことだった。
公爵令嬢には、王子の婚約者には、そんな歩き方は許されなかった。
「お嬢……」
声を掛けようとしたところで、アセリアが一人ではないことに気付く。
一緒にいたのは、バルドだった。
あいつ、またアセリアにちょっかいを……。
大股で近付いていくと、
「牛か!」
バルドの大きな声が聞こえた。
牛の話をしてるのか。
アセリアが、ツンとしたかと思うと、呆れたようにバルドを見る。
……なんか、仲良くなってないか?
声を掛けそびれていると、バルドの大きな声が、ハッキリと聞こえた。
「俺、そんな短い期間なら、牛乳は我慢できるからさ。ちょっとオエグさんとこ行ってくるよ!」
そんな、簡単なことじゃないだろ。
村全体の問題なんだ。
育ち盛りの子供に何日も牛乳を飲ませなくてもいいなんていう人間が、この村にどれだけいるのか。
「あ、ハルム」
アセリアがこちらに気付き、にっこりと笑顔を見せる。
「お嬢様、今のは……」
「牛の話をしたら、大騒ぎして行ってしまいましたわ」
そんな呆れ声を出すアセリアに、ムカムカしたりして。
ああ、もう!引っ掻き回されちゃたまんないんだよ!
慌てて、バルドが行った方角へ走った。
村の広場の方だった。
アセリアも後ろからちょこちょこと追いかけてくる。
広場まで行くと、バルドは子供たちと一緒にいた。引き連れていた、というより、従えていたといった方がしっくりくるだろうか。
「我慢できるもんなー!」
「おー!」
なんて話をしているところを見ると、すでに広場にいた連中は、牛の話を知っているようだった。
大人たちは、苦笑して見守っているようだった。
そんなに言いふらして……!
バルドたちが牧場へと進軍していく。
けれど結果的に、バルドが牧場まで行くことにはならなかった。
広場のそばに、ちょうどオエグさんが顔を出したのだ。
「牛のこと聞いたよ!オエグさん!」
バルドのでかい声が、広場に響いた。
「ああ、そうなのかい。けど、牛の健康を考えると、そう易々と首を縦に振るわけにはいかんさ」
そんなオエグさんに、声を上げたのは、やはりバルドだった。
「俺、牛乳しばらくの間さ、我慢できるよ!」
「何言ってんだい。バターやらにもしないといけないってのに」
「我慢できるよ!」
「俺も!」
「わたしも!」
そこでわっと騒ぎ出したのは、周りにいる子供たちだ。
言うだけなら、誰にだってできるだろ。
そんな簡単なことじゃ……。
けれど、オエグさんは困った顔で、笑ったのだ。
ハルムの足は、もう走ることはできなかった。
だってそんな簡単なことじゃ、ないはずだったんだ。