軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174 君の名前を呼んだ夜(2)

「今、なんて言いましたの?」

まっすぐな視線に射抜かれる。

ハルムが言葉を発することができないでいる間に、アセリアはベッドから抜け出てハルムの目の前まで近付いてきていた。

金色の緩やかな髪が揺れる。

アセリアの視線は外れることがなくて、気付けば逃げ場など、もうどこにも残されてはいなかった。

「今……、なんて言いましたの?」

切実な声。

それを言わなくては、アセリアから逃れることは出来ないだろう。

「アセリア……、と」

それだけを告げる。

その事実以外、言える言葉など持ってはいない。

「ハルム」

アセリアが、触れそうなほどそばで、俺の名前を呼ぶ。

「はい」

「もう一度」

アセリアのその言葉に、喉の奥が熱くなる。

「アセリア」

「はい」

アセリアが、微笑む。

その声が身体の中に響いた。

「アセリア」

「はい」

気持ちが込み上げてくる。

ふいに涙が溢れてきて、頬を流れ落ちた。

「どうしましたの、ハルムったら」

アセリアは笑っていたけれど、やはり泣きそうな顔でハルムを覗き込んでいた。

もう、言わなくてはいけなかった。

誤魔化してはいけなかった。

この人の前では。

「アセリア」

その名を呼んで、静かに手を伸ばす。

吐息がかかる場所まで近付く。

その手で、アセリアを抱き締めた。

「好きだ」

腕の中で、アセリアどんな顔をしているのか分からなかった。

けれどもう、言うしかなかった。

「俺は……、君のことを……愛してるんだ。一人の女性として」

アセリアは、腕の中で黙りこくっていた。

やはり驚かせてしまったのかと、怖くなる。

どんな顔をしているかなんて、知りたくはなかった。

けれど、もう、執事の顔をしてそばにいることなんて出来なかった。

もし、遠く離れなくてはいけなかったとして、……村の一員として見守るのはありだろうか。

アセリアを腕から解放しようとして、離れようとすると、アセリアがハルムの身体から離れないことに気が付いた。

やはり困惑させてしまったのだろうか。

「……お嬢様?」

返事は、ない。

もう一度声をかけようか考えあぐねていると、

「違いますわ」

とくぐもった声が聞こえてきた。

「…………」

その名を呼んでもいいのかと、躊躇する。

金髪の髪に、赤いリボンが結んであるのが見えた。

「……アセリア」

アセリアが、ゆっくりと顔を上げた。

困った顔で笑う。

頬を真っ赤に染めて。

目に涙を浮かべて、

「はい」

そう言ってすぐ、顔を思い切り逸らす。

「いけませんわね、わたくしったら。動揺しすぎてしまって」

少しふらついたかと思うと、アセリアはベッドにトサリと座り込んだ。