作品タイトル不明
16 わたくしが土いじりだなんて、冗談じゃありませんわ!(2)
「出来ましたわ!」
といった時には、アセリアはすっかり泥だらけだった。
例え小さな子供でも、ここまで泥だらけになるには泥の中に飛び込んで転がらないと無理だろうというほどに。
それでも、手の中のニンジンの種は全て畑に蒔いたのだから、いっそ誇らしいというものだ。
「では、お嬢様」
ハルムがいつもの顔を見せた。
「土をかけていきましょうか」
「ん?」
「土をかけるんですよ」
「土?土って何ですの?」
「この地面に広がってる“土”ですよ」
「そ、それは存じてますわっ」
意地悪な執事から目を逸らすため、そっぽを向く。
この素っ頓狂な質問は、別に土というものを知らなかったという話ではない。
まさか、地面の土を掬って使うなんて思わないじゃありませんの!
「ええ、準備は出来てましてよ。どうぞやってくださいませ」
「みんなでやるんですよ」
「そうですの。それならば、早く終わりそうですわね」
「お嬢様もやるんですよ」
ハルムがニッコリと笑う。
それは、悪戯っぽい笑顔だった。
な、なんですの。そんな顔、見せたことないじゃありませんの。
アセリアから見たハルムは、これまでずっと、年齢よりも大人びた少年だった。
いつだって無表情で、仕事をこなしていた。
一つ違いとは思えないほど理解力もあり、疑問を浮かべる表情さえ、思い出の中には存在しない。
けれど、今、目の前にいるハルムは、年相応の青年だ。
困った表情をする。
不満げな表情をする。
そして今は。
今は、楽しそうに意地悪な表情をするハルムだ。
からかわれているというのに、そんな顔をされたら……、どういう感情でいればいいのか、わからないじゃありませんの……。
アセリアは唇をキュッと結ぶ。
表情を気取られないように、視線を伏せる。
「けどわたくし、地面にはしゃがめませんわよ?」
そこで作った不満げな顔が、予定より不満そうになってしまう。感情を、コントロールしなくては。
「どうしてです?」
「だって、スカートが地面についてしまうじゃありませんの」
それは、当たり前のことだった。
ドレスならば、ズルズルと地面を引きずらないよう、子供の頃から叩き込まれてきたのだ。
人前で地面にしゃがむなど、はしたないことこの上ない。
ハルムが、キョロキョロと周りを見渡す。
「お嬢様。そのスカートは、まとめて掴んで、地面につかないようしゃがむようですよ」
「あら?」
確かに、周りの女性を見ていると、しゃがんで土を触っているようだった。
「わ、わたくしはしませんわよ!?」
「そうは言っても」
ハルムがサッとアセリアの上から下までに視線を投げる。
「既に泥だらけじゃありませんか」
結局、最初に派手に転んでから、足が土に引っかかること数回。既に髪の先からスカートの中まで泥だらけだった。
「不可抗力というのよ」
フン、と言ってはみたものの、あまり説得力はなさそうだ。
結局、アセリアも丁寧に土をかけていく作業に参加することになった。
「ほんの少しでいいそうですよ。風や鳥などの害がないように」
「わかりましたわ。わたくしこう見えても、繊細な作業は得意ですの」
「ほぉ……」
と感心した声を出したハルムは、意味ありげに、またアセリアの上から下までに視線をやる。
「お嬢様はさすがですね」
「まったくもう!生意気な執事ですわねっ」