軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第87話 魔境の近くにお引越し

「(予想以上にとんでもないギフトだったな……。無限に作物や鉱物、さらには薬草まで栽培できるとは……。もしこの存在が世間に知られてしまったら、戦争が起きかねんな……)」

領主様は難しい顔をして黙り込んでしまった。

「えっと、領主様……?」

「ああ、すまぬすまぬ。少し考え事をしておった。そうだな……ここでは少々、街と距離が近すぎるの。この菜園、移動させることができるのだろう?」

「あ、はい、できますけど……」

「悪いのだが、これから指定する場所へ移ってもらってもよいか? そこなら誰にも見つかる心配はないはずだ」

確かにこの場所だと、領主様のように誰かが菜園に侵入してくることがあるかもしれない。

「分かりました。そうします」

「菜園間を一瞬で転移できるのなら、街から離れていても問題ないだろう?」

「そうですね。今のところ馬車で三日、四日くらい離れていても大丈夫でした」

「……そんな距離でも可能なのか」

実際どれぐらいの距離まで使えるんだろう?

さすがに制限なしなんてことは……あるかもしれない。

「よければ、今から動かしてみてくれぬか?」

「え? 今からですか?」

「やっほ~~~~~~~~っ!」

防壁の上に乗って大声を響かせる幼女、もとい、領主様。

「これは凄いな! 本当に菜園が走っておるぞ! しかも馬車よりも速いときた! 今度、我が王都に行くときに乗せていってくれぬかの!」

「ええっ!?」

「くくく、冗談だ、冗談っ!」

どうやら領主様は、走る防壁の上に乗ってみたかったらしい。

子供のようなはしゃぎようだ。

見た目は子供だけど。

「随分と楽しそうですねー」

防壁の下では、リルカリリアさんが苦笑している。

「乗ってみますか?」

「いえいえー、わたくしは絶叫系は苦手ですのでー」

絶叫系?

「おっ、ゴブリンだ。よし、このまま押し潰してしまえ!」

「ぎゃっ!?」

「はっはっは! 無敵ではないか!」

防壁に弾き飛ばされ、ゴブリンが悲鳴とともに高々と宙を舞った。

それを見て、領主様は上機嫌に笑っている。

「のう、もっとペースを上げられぬのかっ?」

「は、はい、できますけど……あの、落ちないように気を付けてくださいね……?」

「心配するな! そんなヘマはせぬ!」

僕は家庭菜園をさらに加速させた。

「見えてきたぞ」

「えっと……森、ですか……?」

前方に見えてきたのは広大な森林だった。

「ただの森ではない。魔境の一つとされ、〝死の樹海〟とも呼ばれている危険な場所だ」

「死の樹海……」

名前を聞いただけでも恐ろしそうな森だ。

「あのスタンピードの発生源となった森でもある」

「じゃあ、あの魔物の群れはここから来たんですか……?」

「よし、この辺りでよいだろう。止めていいぞ」

領主様の指示で、僕は菜園を停止させた。

「もしかして、今後はここに?」

「左様。時々、魔境に挑む冒険者はいるが、ベースキャンプはずっと南の方にあるからな。この辺りならまず人が来ることはないだろう。その菜園隠蔽とやらを使っておけば、絶対に見つからぬはずだ」

「き、危険じゃないですか……?」

そんな魔境と目と鼻の先に菜園を構えるなんて、いつ魔物が襲ってくるか分からない。

「アトラスを討伐しておいて何を言っているんだ? この魔境でも、あれほどの魔物は滅多におらんぞ?」

「言われてみれば……」

逆に魔物がわんさかいる場所なら、以前やったように魔物寄せのお香を使った自動レベルアップが無限にできるかもしれない。

「それにここなら幾らでも土地を使って構わん。好きなだけ菜園を広げるがいい」

「はい」

さすがにこれ以上の広さは必要ないと思うけど。

「ただし、ギフトのことは基本的に秘密にしておくこと。すでに知っている者たちにも誰かに話したりしないよう、念を押しておくといい。そして収穫物の販売はこれまで通り、リルカリリアを通すこと」

「分かりました」

「リルカリリア、お主も頼むぞ。誰に問い詰められても、仕入れ先については絶対に黙秘しろ」

「もちろんですー」

領地のために永遠に作物を作り続けろ、みたいなこと言われるんじゃないかと心配していたけど、そんなことなかったのでちょっとホッとした。

ここまで菜園を走らせて一時間ぐらいかかったので、アーセルからはかなり離れている。

それでも菜園間転移を使って、一瞬で自宅に戻ることができた。

「本当に一瞬だな……」

「便利ですよねー」

領主様とリルカリリアさんが呆れている。

「ふああああ……なぁ、メシはまだか、メシは。お腹空いちまったぜ」

と、そこへタイミング悪く現れたのは、セナの寝室に運んだはずのミランダさんだった。

シャツが捲れ上がったお腹をボリボリと掻きながら、欠伸混じりに近づいてくる。

領主様に気づいて、ミランダさんは言った。

「む? 誰だそのチビは?」

「ちょっ、ミランダさん! この方は領主様ですよ、領主様!」

領主様に向かってなんて失礼なことを言うんだ、この人は。

だから寝室に押し込んでおいたっていうのに……。

「……ミランダ?」

「すいません、この人、うちの居候というか……妹の師匠というか……」

「いや、構わん、気にしなくてよい(しかしこの黄昏色の髪に、ミランダという名……いや、まさかな)」

よかった。

怒っていないようだ。

「それでは邪魔したな。先ほど言ったこと、くれぐれも頼むぞ」

「は、はい!」

ようやく領主様が帰っていき、僕はやっと緊張から解放されたのだった。