軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第83話 ピッピ空を飛ぶ

その日、リルカリリアは、領主であるエリザベートの部屋に通されていた。

普段は必要な商品を家臣に届け終えればすぐに帰るのだが、どうやら何か話があるらしい。

「今日はどのような御用でしょうかー?」

領主の真剣な顔つきに何かを感じ取りつつも、リルカリリアはいつもと変わらぬ調子で訊く。

しばしの沈黙の後、エリザベートは神妙に切り出した。

「リルカリリアよ、あの畑は一体、何だ? お主は何か知っておるだろう?」

その言葉を聞いた小さな商人の唇が、誰にも分からないくらい微かに吊り上がった。

(計画通りや~)

実は先日、彼女がシーファ一行へと入れ知恵したのは、単にそれによってジオの家庭菜園の規模を大きくするためだけではなかった。

与えた土地がその後どう利用されているのか、領主が無関心であるはずがない。

領地を守護する領主にとって、領地を脅かすような危険性は早期に発見し、未然に対処する必要があるからだ。

そして調査すれば、すぐに異常に気が付くだろう。

リルカリリアはそれを分かった上で、あえてあのような行動を取ったのである。

(魔法契約のせいで、うちの口からは直接話せへんからなー。お陰でまどろっこしくなってもうたわ。まぁ、あの契約は必要なもんやったから、仕方あらへんけど)

ゆえに領主の方から動くように仕向けたというわけだ。

ただ、それは決して己の利益のためではない。

(ジオはんにとって悪いことやない。領主様の保護下にあれば、それだけ安全やからな。まぁ中には悪徳な領主もおるけど、この領主なら信頼できると、うちが保証するで)

「今回は何の用だろう?」

「よく分からないわね。考えられるとしたらレッドドラゴンの件くらいだけど……さすがにそう何度も褒章なんてないと思うし……」

その日、シーファたちは再び領主の城へと招待されていた。

前回はダンジョン攻略とそれに伴う領地経済への貢献が理由だったが、今回ははっきりとした理由が思い至らない。

他に前回と違うところがあるとすれば、サラッサがいてマーリンがいない点だ。

今回はシーファのパーティだけらしく、マーリンは招待されていない。

……たとえ招待されていたとしても断ったかもしれないが。

「ねぇねぇ、また美味しいもの食べさせてもらえるかな!?」

一人だけなぜかテンションが高いのはセナだ。

最近は昇格試験に向けた講義とその復習ばかりで、久しぶりに勉強から解放されたためだろう。

「ちゃんと受かりそうなんでしょうね?」

「何が?」

「何って、昇格試験よ、試験」

「しけん~? あたし、わかんなーい」

「……現実逃避してる」

不安になる一行だったが、今は領主との謁見に集中しようと、気持ちを引き締めるのだった。

◇ ◇ ◇

「にゃーにゃーっ!」

「ぴぴぴぴぴぃっ!」

第二家庭菜園で、ミルクとピッピがいつものように追いかけっこをしている。

最初の頃はミルクが手を抜いて走って、ようやくピッピが追い付いていたけれど、今ではほとんど互角の走りを見せている。

見ている感じ、瞬間的な速度ではミルクが勝り、逆に長距離になってくるとピッピの方が優れている印象だ。

なのでミルクが追う側のときは、いかに速く追いつくか、あるいは追いつかれないかが勝負の分かれ目となって、なかなか見応えがある。

逆にピッピが追う側のときは、ミルクの体力が切れて先にへばるまで追い続けるため、時間無制限だとミルクに勝ち目がなく、結果は簡単に予想できてしまう。

「それにしても、二匹ともまた大きくなったよなぁ」

ミルクの全長はたぶんもう二メートルを超えている。

とっくに僕よりも大きくなっていて、猫と言い張るのはもはや難しいだろう。

ピッピの成長はそれ以上のペースだ。

見た目はもうミルクとあまり変わらない。

ふわふわの羽毛の分、かなり水増しされてはいるけれど。

「それにしてもお前、凄い鳥だったんだな」

「ぴぃ?」

某酔っ払いのせいで驚いている暇がなかったけれど、ピッピはコボチョという幻の神鳥らしい。

ミランダさんも秘境で一度見たことがあるだけらしく、詳しい生態はよく分からないという。

もし見つかったら大変なことになるだろう。

なるべくこっちの第二家庭菜園で育てるべきかもしれない。

「ぴぴぴぃっ!」

そんな僕の不安を余所に、ピッピはまた空を飛ぶ練習を始めていた。

必死に翼をはためかせてはいるけれど、やっぱりすぐに高度が下がって地面に着地してしまうようだ。

まるで上達の兆しは見えない。

でも、最初は難しいと思っていた僕も、段々とピッピならできるんじゃないかと思い始めてきていた。

なにせ幻の神鳥だ。

家庭菜園だって空を飛ぶくらいだし、神鳥が飛べないはずがないだろう。

と、そんなことを考えていた、そのときだった。

「ぴぴぴぴぴぃっ!」

ばんっ!

再挑戦したピッピの足元で、一瞬、空気が弾けるような音が鳴った気がした。

次の瞬間、ゆっくりと落ち始めていたピッピの身体が、僅かながら上昇していた。

「空中で地面を蹴った……?」

「ぴぴぃ?」

当の本人は何が起こったのか分からず首を傾げているけど、確かに今、僕の目にはそう見えた。

「ぴぴぴぃっ!」

今のでコツを掴んだのか、ピッピは何度も空中で空中を蹴り叩き、身体を持ち上げていく。

ついには地面に落ちることなく、高度を維持できるようになった。

「え? そういう飛び方ありなの……?」