軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 廃業危機を乗り越えろ 1

アニィの実家は定食屋さんだ。

僕の家から歩いて一、二分ほどのところにあり、何度か食べに行ったこともある。

元々はアニィの両親が経営していたけれど、現在はアニィのお姉さんが女将さんを継いでいた。

それなりに常連客がいて、お昼時には行列ができるほど繁盛していたはずだけれど……。

「……営業しているのかな?」

お昼を少し過ぎた頃、僕はアニィの店の前で首を傾げる。

以前はこの時間帯でも混んでいたはずなのに、中からは何の物音も聞こえてこない。

それとは対照的に。

「いつの間にこっちに競合店ができたんだ?」

アニィの店のほぼ向かい側。

そこに同じく飲食店をやっているらしいお店がオープンしていた。

しかもそろそろお昼の時間が終わろうとしているというのに、まだ長い行列ができている。

どういうわけか並んでいるのは男ばかりだ。

「次のお客様どうそー」

と、店員と思われる女性が店内から顔を出した。

それだけで行列に並んでいた男たちが「おおおっ」と歓声を上げる。

スタイルの良い美人だ。

その上、とても飲食店の店員とは思えないほどの露出。

スカートが異常に短くて太腿を惜しげもなく晒しているし、胸の部分がぱっくり開いていて谷間がばっちり見える。

よく見ると、店内には同じような姿の美人店員が何人もいた。

どう考えても彼女たちを目当てに、男たちが集まっているのだろう。

「そこのぼく? お昼はまだかしら? よかったらどう? 少し並ばなくちゃいけないけど……お姉さん、君に食べていって、ほ、し、い、な?」

ぼーっと様子を見ていると――断じて見惚れていたわけじゃない――声をかけられた。

少し前かがみ気味の上目づかいで、誘惑するように囁いてくる。

はい、並びます。

じゃなくて!

「い、いえっ、もう食べちゃったので!」

「あら、残念。また来てね?」

僕は頑張ってお姉さんの胸から視線を逸らすと、逃げるようにアニィのお店へと駆け込んだ。

中は閑古鳥が鳴いていた。

やっぱり今のお店に客を取られたらしい。

「ちょっとお姉ちゃん! やめなってば!」

「止めないで、アニィ! もうこの方法しか残っていないのよ! このままじゃ、お父さんとお母さんから受け継いだこの店は終わってしまうの!」

「お父さんたちだって、娘にそんなことまでしてほしくないって!」

店の奥から何やら言い争う声が聞こえてくる。

何だろうと思っていると、アニィのお姉さん――アリシアさんが現れた。

「いらっしゃいませぇ、お、きゃ、く、さ、ま♡」

もうほとんど裸と言っても過言ではなかった。

唯一、彼女の身体を隠しているのは、ピンク色の可愛らしいエプロンだけ。

そう、アリシアさんは裸にエプロンという斬新な格好で僕の前に現れたのだ。

しかも酷い猫なで声だった。

「って、なんだ、ジオくんか」

「あ、はい、すいません」

思わず謝ってしまう。

「ていうか、何なんですか、その恰好?」

「これ? ふふふ、どうかしら? ムラムラするでしょ?」

アリシアさんは髪の毛をかき上げながら、腰をくねくねさせた。

「ええと……」

押し付け気味に見せられても、かえって萎えるものだよね。

返答に困っていると、アニィが遅れてやってくる。

「お姉ちゃん、恥ずかしいからマジでやめてってば! あ、ジオ。来てくれたんだ」

「これ、どういうこと?」

「ジオも見たでしょ、目の前にできたライバル店。あそこが綺麗な女性店員にエッチな格好させて根こそぎ客を奪っていったから、お姉ちゃんもそれに対抗しようとしてんの」

「なるほど」

それで裸にエプロンというわけか。

アリシアさんは忌々しげに叫んだ。

「あの店のせいで、うちはここ数か月ずっと赤字続き! 対抗するには、あれ以上の格好をするしかないじゃない!」

「お姉ちゃん、その作戦、致命的な欠陥があるんだけど」

「え? な、何かしら……?」

アニィは姉の胸へ、びしっと指を突きつけた。

「それはお姉ちゃんが極度の貧乳だってことよ! そんな絶壁じゃ男は誘惑できない!」

「がぁぁぁぁぁんっ!」

うん、こう言っちゃなんだけど、アリシアさん、胸小さいもんね……。

逆にアニィは発育がいい。

残念ながら女っけはゼロだけど、服の上から分かるくらい胸部が盛り上がっている。

「くっ、こうなったら、アニィ! あなたがこの格好をするのよ!」

「は? ちょっ、嫌よ! 嫌に決まってるでしょ!」

「お願い! お姉ちゃんのためだと思って!」

「嫌だってば! だいたいわたし冒険者だし!」

ぎゃあぎゃあ言い争う姉妹。

昔からこんな感じなのだけど、仲がいいのか、悪いのか。

「ええと……アニィ、僕に頼みたいことがあるんだよね?」

「あ、そうそう。あんたの家で穫れた肉や野菜をうちで使わせてもらいたいのよ」

「ちょっと、アニィ、どういうこと?」

アリシアさんが割り込んでくる。

「お姉ちゃん、こいつ今、家でトンデモ菜園を作っててさ」

「家庭菜園だって」

僕は訂正しておく。

「家庭菜園?」

「そこで作った肉とか野菜が本当に美味しいの! だからぜひうちで使うべきだって思って! あれで作った料理なら、きっとお客さんが戻ってくるはずよ! そんな需要のない半端な色気作戦なんかより絶対いいって!」

「需要のない……」

妹からはっきり言われて、アリシアさんは地面に崩れ落ちた。