軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第78話 幻の魔物らしい

「さ、三百キロ? マジか?」

「マジです、ご主人様」

「それもギフトの力か?」

「そ、そうです。えっと、どんなに距離が離れていても、家庭菜園から家庭菜園まで一瞬で移動できるっていう便利な能力でして……」

「おいおい、そりゃもう完全に転移魔法じゃねーか」

「あのまま向こうに放っておくわけにもいかないと思って、こっちに連れてきました」

アニィは「自業自得でしょ」と言って、放置するべきだって主張してたけど。

「家庭菜園って言葉じゃ役不足にもほどがあるだろ……。まぁ、さすがにこんなギフトは見たことも聞いたこともねぇが、ギフトの中には時々、そういう理解に苦しむようなやつがあるからな」

理解に苦しむって……。

「一応、ちゃんと野菜とかも作ってるんです」

見てもらった方が早いだろうと、僕はすぐそこの第一家庭菜園へと案内する。

ここでは主に野菜類を栽培しているので、見た感じは普通の家庭菜園だ。

「意外と普通だな。今までの話を聞くに、もっととんでもないもんを作ってるかと思ったんだが」

「でも、味は凄くいいんです。よかったら食べてみますか?」

そのとき、菜園の奥からミルクとピッピが駆け寄ってきた。

「にゃあ!」

「ぴぃ!」

「うおっ!? 何だこいつら!? 魔物じゃねぇか!?」

ミランダさんはミルクたちを見て声を上げる。

「あっ、心配しなくて大丈夫です! うちのペットなので!」

「ペット!? そいつはスノーパンサーじゃねぇか! 極北にしか生息してねぇ超希少な魔物だぞ! 何でこんなところにいるんだよ?」

「にゃ?」

え? スノーパンサーって極北にしかいないの?

ミルクの新事実に驚く僕。

けれどその直後、ミランダさんはそれを遥かに凌駕することを口にするのだった。

「って、そっちはまさか、コボチョの雛じゃねぇのか!? 幻の神鳥だぞ!? 何でこんなところにいるんだよ!?」

「ぴぃ?」

幻の神鳥……?

どうやらピッピはとんでもない魔物だったらしい。

「コボチョ、ですか……?」

「ああ、見た者に幸運をもたらすと言われる幻の神鳥だ。見た目の割に足がめちゃくちゃ速くて、捕まえることはまず不可能だとされている。こいつはまだ雛のようだが……何でこんなところにいるんだよ?」

ミランダさんが睨むような目つきで訊いてくる。

「え、いや、その、えっと……」

「おい、ぼそぼそしてんじゃねぇぞ! 男ならはっきりしやがれ!」

「ひぃっ」

凄まじい威圧感に、僕は圧倒された。

そして本能で悟る。

この人に逆らってはマズい、と。

やっぱりただの酔っ払いじゃない。

「……魔物の卵を、栽培しました……」

蛇に睨まれた蛙状態となった僕は、あっさり白状してしまった。

「魔物の卵を栽培した、だと……?」

それから僕はミランダさんを第二家庭菜園へと連れて行った。

ここまできたら全部話しても一緒だと思ったからだ。

「何だこりゃ!? 牛肉がなってんぞ!? あっちは豚肉か!? って、卵や魚まであるじゃねぇか!」

「……はい。こんな感じで、普通の菜園だと作れないようなものも栽培できるんです。他にも水とか牛乳とか、お酒なんかも……」

「おい待て。テメェ今、なんつった?」

「ひっ!? み、水とか、牛乳……」

「その次だ!」

「お、お酒……?」

突然、物凄いスピードでミランダさんが近づいてきて、僕の肩をがっしりと掴んだ。

「ま、マジで酒を造れるのか?」

「え? は、はい……」

「それは、美味いのか?」

「そ、そのはずです……僕は飲んだことないですけど、飲んだ人はみんなこんな美味しいお酒、飲んだことないって……」

次の瞬間だった。

何を思ったか、ミランダさんがいきなりその場で跪いた。

そのまま僕に頭を下げてくる。

「ええっ!?」

当惑する僕に、ミランダさんは必死に懇願してきた。

「そいつをオレに飲ませてくれぇぇぇっ! いや、飲ませてください!」

「いやいやいや、頭を上げてくださいっ! 分かりましたから!」

「本当か!? 酒……うへへ……美味い酒……」

僕が慌てて頷くと、よほど嬉しかったのか、ミランダさんは顔をだらしなく弛緩させる。

ついさっきまで僕を威圧していた人と同一人物とは思えない。

……この人、思っていたよりずっとヤバい人だ。

「でも昨日の夜も飲んでましたよね? 大丈夫ですか?」

「昨日の夜どころか、毎日朝昼晩欠かさず飲んでるぜ」

「薬じゃないんですから……」

「ばっか、オレにとって酒は薬と一緒なんだよ」

本当に大丈夫なのかと心配になりつつ、第一家庭菜園の方に戻ると、僕は収穫物保存のスキルで保管しておいたお酒を取り出した。

ちなみにお酒は小さな木の樽のような形で収穫されることが多い。

「くんくん……この匂い、 麦酒(ビール) だな!」

まだ樽の中にあるというのに嗅ぎ分けちゃったよ、この人。

どんな嗅覚しているのか。

「麦酒ならこいつに入れてくれ!」

どこからともなく取り出したのは、立派な陶製のビールジョッキだ。

「うっひょう! 酒だ酒だーっ!」

ジョッキに注がれていく麦酒に、テンションを上げまくるミランダさん。

そして何を思ったか、いきなり魔法を使い始めた。

「ゴールドエア」

どうやら冷気を放つ魔法らしく、ひんやりとした風が起こった。

「麦酒はやっぱキンキンに冷やして飲むのが一番だからな!」

嬉々として言うと、ミランダさんはジョッキを手に取り、豪快に飲み始めた。

「ごくごくごくごくごくごくっ――――ぷはぁっ!」

早っ!

一気に飲み干しちゃったんだけど!?

「この麦酒、めちゃくちゃうめぇぇぇぇぇぇっ!」

口端についた泡を手の甲で拭いながら、ミランダさんは大声で叫ぶ。

「何だこれ!? きめ細かな泡! 適度な苦み! 何より飲んだ後のこの爽快感! こんなの飲んだことねぇよ! おかわり!」

それからミランダさんはお酒を何杯も飲み続けた。

……嫌な予感しかしない。