軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第53話 卵が孵った 2

「そろそろ孵りそうかなー」

大きな魔物の卵が、時々振動するようになってきた。

中にいる赤ちゃんが動いているようだ。

「にゃ~!」

ミルクが卵をお腹に抱え、生まれてくるのが待ちきれないといった風に鳴く。

「ジオさーん!」

「あ、デニスくんだ」

玄関の方からデニスくんの可愛らしい声が聞こえてきて、僕は慌てて魔物の卵を菜園に隠した。

またびっくりさせちゃうかもしれないからね。

「ミルク、卵をお願い」

「にゃあ!」

ミルクに卵を任せて玄関に出ると、デニスくんが小瓶を抱えて立っていた。

瓶の中にはやたらとキラキラ光る液体が入っている。

「今日はどうしたの?」

「えっと……実は先日いただいた聖霊草、マーリンさんに渡してみたのですが……」

そう言って、デニスくんは小瓶を掲げた。

「……エリクサーができちゃいました」

玄関で話をするのもあれなので、とりあえず上がってもらった。

デニスくんは恐る恐るといった手つきで、テーブルの上に先ほどの小瓶を置いた。

「これがエリクサー?」

「は、はい。マーリンさんが言うには確かにエリクサーだということですけど……実際に使って効果を確かめたりはしていないです」

マーリンさんは【薬師の目利き】というギフトを持っているという。

その彼女が言うのなら、たぶん間違いないのだろう。

「それで、どうして僕のところに?」

「持ってるだけで怖くて死にそうだから、って言ってました……」

……そ、それはさすがに大袈裟じゃないかな?

「値段は付けられないそうです。ただ、過去に王都のオークションに出されたときは、金貨五千枚の値が付いたとか……」

「えええっ!?」

高っ!

金貨五千枚って……これ一本で!?

「それだけ希少で、しかも欲しがる人が沢山いるということらしいです」

「へ、へぇ……」

「過去にはこれが原因で戦争が起こったこともあるとか……」

うん、マーリンさんが近くに置いておきたくないというのも当然だった……。

でもそれなら作らなければよかったのに。

「そこに材料があるなら薬師として作らなければいけない衝動に駆られるそうです……」

「厄介な性質だね……」

ともかくこれはどこかに隠しておこう。

使う機会がないとも限らないし。

幸いエリクサーはほとんど劣化しないのだとか。

なので遥か昔に作られたエリクサーが時々、遺跡なんかで発見されることもあるらしい。

「というより、現存するエリクサーの多くはそれだそうですね。古代だともっと沢山作られていたんだと思いますけど、今は材料の聖霊草が数年に一度というレベルでしか発見されないので、エリクサーも数年に一度しか作られないみたいです」

聞けば聞くほど、とんでもないものを手に入れてしまったようだった。

「にゃーっ!」

デニスくんが帰った後、ミルクが何やら慌てた様子で走ってきた。

「どうしたの?」

「にゃっ!」

「え? 卵が孵りそう?」

「にゃにゃにゃ!」

僕は菜園にある卵の元へと急いだ。

カツカツ! カツカツ! カツカツ!

「本当だ。中から音がしてる」

ミルクに言われて魔物の卵のところまでやってくると、何やら不思議な音が聞こえてきた。

どうやら赤ちゃんが卵の殻を叩いているらしいけれど、硬いもの同士がぶつかるような音だ。

ガンッ――ピシッ!

しばらく見ていると、ひと際大きな音とともに硬い殻に穴が開いて、欠片が周囲に四散した。

結構なパワーだ。

やがて穴が広がっていくと、鋭く尖ったものが見えてくる。

「嘴だ」

鳥系の魔物なのかもしれない。

「ぴぃぴぃ」

穴から嘴が飛び出してきたかと思うと、可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。

「にゃあにゃあ!」

それに応えるように鳴きながら、ミルクはぐるぐると卵の周りを駆け回った。

けれど赤ちゃんは穴を開けるだけで少し疲れてしまったのか、いったん孵化が中断する。

卵の殻が硬くて分厚いので、身体が通り抜けられるだけの穴へと広げるのは大変なのだろう。

「にゃっ!」

「あ、ダメだよ、ミルク」

「にゃあ?」

見かねて手伝おうとしたミルクを慌てて止める。

「自分の力で殻を破らせてあげないと」

ここで手を貸してしまうのは、たぶん生まれてくる子のためにならない。

できるのは声援を送ることだけだ。

ミルクも納得してくれたのか、「にゃあ」と頷いた。

それから幾度かの休憩を挟みつつ、およそ二時間。

ついに赤ちゃんが卵の殻を破り、外の世界へと出てきた。

「ぴぃ」

黄金色の毛に覆われた可愛らしい鳥だ。

見た目はほとんどヒヨコそのものと言ってもいい。

だけど大きさがまるで違う。

なにせそこらの成猫並に大きいのだ。

生まれたばかりのミルクはせいぜい子猫と変わらないくらいだったのに、今や僕よりもずっと大きくなっている。

もしそれと同じぐらい成長したら…………う、うん、今は考えないようにしておこう。

「ぴぃぴぃ」

僕のことを親と認識したのか、ひょこひょこと近づいてくると、僕の膝の上にぴょんと飛び乗ってきた。

生まれたばかりなのに意外とジャンプ力がある。

「よしよーし」

「ぴぃぴぃ」

「えっと、雛鳥って何を食べるのかな……?」

さすがに牛乳は飲まないだろう。

やっぱり虫とか?

「ぴぃ!」

「あ、どこ行くのっ?」

いきなり僕の膝から飛び降りると、土の中に嘴を突っ込み始めた。

すぐに顔を上げたかと思うと、嘴の先っちょでミミズがうねうねと暴れていた。

「すごい。自力で捕まえたのか」

「ぴぃ!」

哀れなミミズは雛鳥の養分に。

食欲旺盛な雛鳥はさらに昆虫を探して菜園を走り回った。

ミルクは歩けるようになるまでしばらくかかったけれど、孵化した直後でもうここまで動けるんだ……。