軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第152話 他人のフリをしようかな

「Aランクの昇格試験……受けれる?」

シーファさんの質問に、お姉さんは慌てて手元の資料らしきものを確認する。

「ええと……今まではアーセルで活躍されておられたんですね。えっ? もしかして、氷冷ポーションや水棲ポーションを使って、難関エリアを攻略されたあの話題の!?」

どうやらアーセルでの実績が、ギルド間で共有されているらしい。

「今回の実績と合わせて、間違いなく受験が認められるかと思います」

「受けたい」

シーファさんがやけに前のめりだ。

……もしかして、すでにAランクに到達している同年代と出会い、自分も負けてられないと思ったのだろうか。

こう見えて昔から負けず嫌いなところがあったりするし。

「他の皆さんはどうされますか? ジオさんに関しては、今回の実績で自動的にDランクに昇格となりますが」

「え、そうなんですか?」

まだ冒険者になったばかりなのに、もう昇格できてしまう……?

あれ、もしかして僕、すごく順調に冒険者をやっているのでは……。

「は、はい! 僕も昇格したいです!」

「あの、ですから、自動的に昇格となりますよ?」

つい前のめりに返事をすると、お姉さんに苦笑されてしまった。

は、恥ずかしいっ!

アニィは「ぷぷぷ」とあからさまに僕を嘲笑ってから、

「わたしも昇格したいわねー。Bランクだから誰かさんと違って試験を受けないとだけど」

「Aランクの試験ですか……。シーファさんが受験されるのなら、せっかくですし、私も挑戦してみましょうか……」

さらにサラッサさんも受験を希望するみたいだ。

「畏まりました。ではこちらで受験登録しておきますね。……もう一人いらっしゃったかと思うのですが?」

「セナは絶対受けないと思います」

「……?」

残念ながら本人に訊かなくても分かってしまう。

それからしばらくは昇格試験の勉強に集中するということで、ダンジョン探索はいったん中断となった。

そしてアーセルに戻ろうとしたけれど、

「セナを探さないと。あいつどこ行ったんだろ……」

この広い王都内で見つけ出すのは至難の業だ。

せめてどこに行くかくらい聞いておけばよかった……いや、聞いていてもどうせその場の気分で好きなところに行ってしまうから意味がないな。

「ふっふっふ、そこはこのアニィ様に任せなさい!」

するとアニィが自信満々に胸を叩いた。

「人探しなんて狩りと一緒よ。わたしのギフト【狩人の嗅覚】にかかれば、セナちゃんを見つけ出すことくらい訳ないわ」

「セナがどこにいるか分かるの?」

「ちょっと待ちなさい。ええと……うん、多分こっちね!」

狩りと人探しは別物だと思うけど……本当に分かるのだろうか?

半信半疑ながら、歩き出したアニィの後を付いていく。

「これだけ色んな匂いがあると、掻き消されちゃいそうだけど」

人混みの中を進みながら僕は呟いた。

するとシーファさんが、

「嗅覚と言っても、ただ匂いに敏感というだけじゃない」

「そうなんですか?」

「うん。もっと広い意味での感覚。直感と言ってもいい」

そうしてアニィを追っていくことしばらく。

やがて僕たちは王都内でも有名な広場へと辿り着いた。

多彩な噴水があちこちに設けられ、それを見るために多くの観光客が訪れるという広場だ。

そんな大勢の人で賑わう中、アニィがとある噴水の脇を指さす。

「多分あれね」

言われて視線を向けると、そこにいたのは腹を出して眠りこける少女だった。

人目をまったくはばかることなく眠る姿に、人々がクスクスと嗤いながら近くを通り過ぎていく。

人違いならよかったのだけれど、残念ながらどう見てもうちの妹だった。

正直あれと兄妹だなんて思われたくない。

「……他人のフリをしようかな」

「あんたの妹でしょうが」

ここまで連れてきてくれたアニィも自分では声をかけたくないようで、僕の腰を肘で突いてくる。

仕方がない……。

恥ずかしい想いをしながらも、寝ているセナに声をかけようとした、そのときだった。

このお洒落な広場には似つかわしくない薄汚れた印象の男が、何気ない風を装いながら寝ているセナのすぐ近くを横切ろうとする。

だけど僕は見逃さなかった。

男がさっと手を伸ばし、セナが傍に置いていた荷物を奪おうとしたのを。

あんな無防備に寝てたら、そりゃ狙われるよ!

「おいっ、待て!」

慌てて声を上げ、男の窃盗を防ごうとした次の瞬間。

がしっ!

「「……え?」」

僕と男の声が重なった。

というのも、涎を垂らして爆睡していたはずのセナの手が、男の腕を掴んでいたからだ。

そして気づけば男は宙を舞い、後方の噴水の中へと頭から盛大に落下していた。

ばしゃあああんっ!

もしかしてセナのやつ、男の接近に気づいて……?

「すうすう……」

まだ寝てる!?

「……どうやら今のは無意識のようね。凄腕の剣士は寝ていても敵の攻撃に反応できるって聞いたことあるけど……」

「なにそれ怖い」

昼まで寝ているセナを叩き起こした経験が何度もある僕は、アニィの言葉に戦慄した。

下手したら僕も投げ飛ばされていたんじゃ……今後は気を付けよう。

「くそっ! 何だってんだよ!?」

噴水に落ちてびしょ濡れになった男が悪態とともに立ち上がる。

だけど注目を浴びていることに気づいて、そそくさと逃げようとした。

明らかにやましいところがある反応だ。

実際、セナの荷物を盗もうとしたわけだし。

「その男、捕まえた方がいい。恐らく常習犯」

「痺れさせます。サンダーバインド」

「ぎゃっ!?」

サラッサさんが放った小さな雷が男の背中に直撃。

悲鳴とともにその場にひっくり返った。