軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第111話 吸血メイド

「え? なんか立派な屋敷になってるんだけど……?」

ブラーディアさんの小屋があったはずのところに屋敷が建っていた。

外壁が血のように赤く塗られていて、一見おどろおどろしい雰囲気だけれど、たぶんまたトマト色だと思う。

「は、入っていいのかな?」

僕は恐る恐る大きな門を開け、屋敷の中へと足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ、ジオ様」

すると、まるで僕が入ってくることをあらかじめ察していたかのように、見知らぬ女性が出迎えてくれた。

二十代半ばくらいの、スラリとした長身美女だ。

デニスくんと同じ――あっちはお店の制服だけど――メイド服を身に付けていて、優雅な動作で僕にお辞儀をしてくる。

「ええと……どちら様ですか?」

「申し遅れました。わたくし、ブラーディア様の専属メイド長を務めさせていただいております、ヴァニアと申します。以後、お見知りおきを」

専属メイド長……?

困惑する僕だけれど、美女――ヴァニアさんは平然と続ける。

「ジオ様の所有される家庭菜園に、無断で住居を建造してしまったことをお詫び申し上げます」

「あ、はい……」

というか、この短期間でどうやって建てたのだろう……。

しかも、天井からシャンデリアが下がっていたり、赤い絨毯が敷かれていたりと、外側だけでなく中もしっかりしている。

「失礼ながら、高貴なるブラーディア様にあのようなみすぼらしい小屋で生活していただくわけにはまいりませんでしたので」

高貴なるって……もしかしてブラーディアさん、吸血鬼の中では結構な身分だったりする……?

ミランダさんと同類だと思って、かなり雑に扱ってきちゃったんだけど……。

僕が戦慄していると、ヴァニアさんの向こう側にある広々とした階段から、ブラーディアさんが降りてきた。

「おお、ジオではないか。よく来たのう」

その両手にはトマト。

……相変わらずだ。

「見ての通り、お主に黙って家を建ててしまってすまぬな。わらわは美味しいトマトさえ食べれるならどんな寝床でも構わなかったのじゃが、そこのヴァニアがどうしてもと言って聞かなくてのう」

「そ、そうなんですか……」

どうやらブラーディアさん自身は何の不満もなかったようだ。

それから、いつの間にかその場に跪いて頭を下げていたヴァニアさんを睨んで、

「まったく、せっかく一人で羽を伸ばしておったというのに、まさかこんなところまで追いかけてくるとはのう」

「我が主君の行かれるところ、たとえ地の果てであっても追いかけ、専属メイド長としての務めを果たしましょう」

「相変わらず真面目過ぎるのじゃ……」

そもそもメイドってそういうものだっけ……?

「あれ? ていうか、よく入って来れましたね? 結界を施していたはずなんですけど……」

「はい。突破するのに苦労いたしました」

ブラッドエレファントでも破壊できないくらい強固なはずなんですけど……?

このメイドさん、只者ではなさそうだ。

ブラーディアさんと同じ吸血鬼なのかな?

ちなみに後で分かったことだけど、結界は壊されても自動的に修復されていくらしい。

「せっかく来たのじゃ。わらわのトマト料理を食べていくがよい!」

「いけません、ブラーディア様。料理はわたくしメイドの務め」

「……その腕が壊滅的なのじゃから、いつもわらわが作っておるのだろうが。なぜお主は家を建てるのはできて、料理はできぬのじゃ……」

どうやらこの家、ヴァニアさんが建てたらしい。

料理よりよっぽど凄いと思う。

「い、いえ! 今度こそ! 今度こそ主君に認められる料理を作りますので! わたくしめにチャンスを!」

「嫌じゃ! そう言って、これまで何度失敗を繰り返したと思っておるのじゃ! あんな料理にされるトマトが可哀想だと思わぬのか!」

「そこを何とか!」

そう互いに主張し合い、平行線を辿り続ける主従を横目に、僕は屋敷を後にすることにした。

いつ終わるか分からないし。

それから最後に僕はミランダさんのところへ向かう。

他の三人のところは、ちょっと見ない間に大なり小なり変化があったので、もしかしたらここも……と思ったんだけれど、

「何も変わってないな……」

最初の小屋のままだ。

小屋の中を覗いてみると、相変わらずカラの酒瓶が所狭しと転がっている汚い部屋の真ん中で、酔い潰れたミランダさんが眠っていた。

「ぐがああああ~~」

「……」

僕はそっとドアを閉め、その場を立ち去るのだった。

翌日、僕たちは再びランダールの街へとやって来ていた。

「もう少しここで依頼を受けてみる」

「ま、急ぎの旅じゃないし、いいんじゃない」

冒険者不足で、なかなか依頼が消費されずに困っていると聞いていたので、他にも幾つか依頼を達成してから先に進むことにしたのだ。

「それは非常に助かります。あなた方のような実力のあるパーティは今この街に少ないですからね」

たまたま冒険者ギルドにいたロインさんにそのことを話すと、非常にありがたがられた。

「ん?」

「アニィ、どうしたんだ?」

「何か今、あっちから殺気のようなものを感じた気が……」

アニィがギルドの奥を睨む。

するとその先にいたのは、先日、僕たちにおすすめの宿や飲食店を教えてくれた女性パーティだ。

と言っても、彼女たちは仲間同士で何か話し合っている最中だし、周辺にいる人たちも掲示板を見ていたり装備の手入れをしていたりしているだけで、別に怪しい動きをしている冒険者は見当たらない。

「気のせいじゃない?」

「……だと良いけど」