軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 ハンカチ。

モニカに手を取られて、走る。

モニカのいつもの一本結いの髪が、今日は緩い三つ編みになっていて、走るモニカの肩で跳ねる。

くくっ。先ほど見た光景を思い出すと、笑いがこみあげてくる。まさか、モニカだとは思っていなかったけれど。

「少し、寄り道してもいい?」

モニカは下町の古着屋に寄って、いつものようなシャツと今まで以上に地味なグレーのスカートを履いて店を出てきた。着ていたワンピースはボロボロのリュックを買って、そこに詰めたらしい。

「どうして?似合っていたのに?」

と俺が言うと、驚いた顔で俺を見た後、ぼそっと…

「だって…似合わないって言われたから」

そう言って口を尖らせた。

…さっきの男か?

女友達が気を使ってワンピースを貸してくれたが、それが逆に<あの>ドナシアンの目に留まってしまったらしい。右手首をさすっているので、モニカの手を取ってみると、握りこまれたところが青あざになっていた。

…あの野郎…。

持っていたハンカチを水で濡らして、とりあえず冷やす。

「こんなの、一晩たったら治るよ?」

そう言っていたが、モニカは俺が手首にハンカチを巻き付けている間、おとなしかった。

いつもの駄菓子屋で飴を買って、いつものように貧民街の教会に向かった。

モニカの姿を見かけて、「もーちゃんだあ!」と、わらわらと子供たちが集まってくる。随分と懐かれたものだな。こいつだって貴族の令嬢のはずなのに、薄汚れた子供たちを躊躇なく抱き上げている。

「今日は?みんなお仕事は良いの?」

「もう、おわりなんだってー」

「あと10本ぐらいやったらおしまいになるんだって」

子供たちはそれぞれにモニカと話がしたいらしく、同じようなことを話し始める。

「あらまあ、そうなの。残念ね。いいお仕事だったのにね?」

モニカがリュックから飴玉を取り出して、子供たちに配る。俺も一つ貰った。今日の飴はイチゴ味。

「もーちゃん、お話読んで!」

教会の中から絵本を持ってきた子が、モニカにぎゅうっと絵本を押し付けると、一番小さな子が座り込んでいたモニカの膝にさっさと上がった。

「はーい。読むわよ。昔々…」

俺はモニカと子供たちをしばらく見ていた。冒険ものの楽しそうな話だったが、まだまだ続きそうだったので、教会の中の作業場に行ってみた。

シスターが、水を張った樽にワインを入れて、張ってあるラベルを浮かしているところだった。

「あら。もーちゃんのお友達の方でしたね?」

「ええ。お邪魔しています。それは…何をしているところですか?」

シスターの話によると、もともと入ってくるのはこんなふうにもうラベルが張ってあって、それを綺麗にはがして乾かして、子供たちがラベルを張りなおす。それを磨いて、一本一本木箱にしまう、のだそうだ。

「実は…僕はワインのラベルコレクターなんです。そのはがしたラベルを一枚、頂いてもいいですか?」

とシスターにお願いすると、ごみ箱から乾いたラベルを拾って、快く一枚頂けた。どうせ捨ててしまうものなので、と。

「ありがとうございます!」

丁寧に畳んで胸ポケットに入れる。

「子供たちが、お仕事が終わると言っていましたが?ラベル張りの仕事が回ってこなくなるんですか?」

「ええ、そうなんです」

シスターが丁寧にラベルをはがしながら、答えてくれた。

「ここ2年ほど、途切れずにあった仕事ですが、仕方ないですね。」

「ふーん。この仕事は、醸造元からの仕事なんですか?」

「いえ。王城の方からの斡旋です。次の仕事も探してくださるそうです」

「ああ、そうでしたか。子供たちのできる仕事だといいですね。」

僕がそう言うと、にっこりとシスターが笑い返してくれた。

…たかが5ガルドの仕事でも、積もり積もれば生活の足しになったに違いない。

開け放した窓から、モニカと子供たちの笑い声が聞こえる。

***

モニカと一緒に、僕まで教会の炊き出しを御馳走になった。

薄いスープと硬いパン。教会に来ていなかった子もお昼ご飯には来たりするから30人ほどいる。

(…おばあ様のことだから、十分に援助しているのかと思ったが…それでもぎりぎりか?どちらにしても、このままでいいことは何一つないな。)

エリクはそう考えながら、あごが外れそうなほど硬いパンを咀嚼する。

ワインの回収は今日か、明日か?

そんなことを考えながら、よく噛んだパンをスープで流し込んだ。