軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 夜明け。

すっかり暗くなったころ、ランタンを下げてラルフが迎えに来た。

「この少し下がったあたりで、救護用のテントを作った。女性もいるので、モニカはそちらで救護に回ってくれるか?」

こくんとモニカは頷いて、控えていた兵士と夜道を下って行った。

「では、殿下は私と馬で行きますか。ちょうどよく馬がいたんですね?」

「ああ。使えそうだったから取っておいたんだ。」

月夜を駆ける。

東部卿の屋敷に着くと、外には篝火がたかれ、アベルの率いてきた軍が警備に当たっていた。先についていたアシルと合流する。

馬を引き渡して、正門から入る。ここは屋敷というよりは城塞に近い。

エリーアスはラルフから渡された自分の剣を下げて、今の今まで付けていたカツラを外す。

「どうだ?」

はっ、っと踵を付けたアベルが敬礼をする。

「国境は閉鎖しました。東部の自領軍は統率が取れておらず、大した反抗もありませんでした。ただ…」

少し言いよどんで…

「…殿下…東部卿は押さえましたが…」

エリーアスはちらりとアシルを見る。大丈夫なようだな。

アベルに大広間に案内される。

「……」

大広間に転がされた東部卿とその嫡男。

言葉を無くすほどのありさまだった。

うつろな目には生気がなく、瘦せこけた体。今、自分が拘束されていることすらよく理解していないようだ。部屋中、すえたようなにおいがする。

「…典型的なアヘン中毒ですね」

ハンカチで口元を押さえながら、ラルフが耳元で囁く。

ここ2年ほど、体調不良を理由に登城してこなかったのは知っていたが…こんな状態になっていたのか。ガタイの良い、朗らかな男だったが。

「他の家族は?」

アベルに聞くと、言いにくそうに答えた。

「奥方はとうに実家に戻られていたようです。その…卿の暴力がひどくて」

「……」

「愛妾がいたらしいので、探させています。金髪の髪の短いまだ若い女らしいです」

「そいつは…。いや、必ず探せ。殺さずに連れてくるようにしてくれ。」

…いや、もうフルールに逃げ帰っているだろう。そう思った。

ラルフもアシルも黙ってしまった。

また…金髪の髪の短い女か…。

小物達をそそのかしたのは金髪の少年?

そして…父上が塔に閉じこもる原因になったのも、髪の短い金髪の侍女だ。

やっかいなことに、この国には髪の短い金髪の女なんてごまんと居る。

東部卿たちを連れて行っても、取り調べにもならないだろう。そう思ってエリーアスが一つため息をつく。

連れて帰るしかないようだが…これは何も出てきそうにないな。

せめて、後ろで糸を引いていたのがフルールだったと証言が取れるか?…まあ、無理だな。なにせ、芥子の栽培をしていたのもアヘンの精製をしていたのも、このブリア国内だ。まんまとはめられたな。しかも東部卿…辺境伯家と並ぶ、王家に忠義の厚い家門だ。

「どうしますか?殿下?」

大広間の窓を開けるように指示していたラルフが、僕に聞いてくる。

「…ラルフ…残ってくれるか?アべルの軍も置いていくので、そのまま使っていい。」

「了解いたしました」

「アシルは明朝、今日焼き払った畑をもう一度確認して、他に花が生えていないかを確認してくれ。森の中もだ。」

「はい」

「精製所もどこかにあるはずだから、必ず探して焼き払ってくれ」

「はい」

「それがすべて終わったら、道路を完全に閉鎖して、誰も立ち入れないように兵を残せ」

「はい」

「使役されていた農民はどうしますか?」

ラルフがハンカチを離さずにそう聞いてきた。

「うん、そうだな。残りたいと言えば回復を待って残すが、北部に行きたいものは送っていくようにしよう」

「なるほど。それもそうですね」

***

東部卿と嫡男は地下牢に閉じ込めた。要職に就いていた者は似たような状態だった。そいつらも地下牢に放り込んだ。禁断症状が出たのだろう、夜じゅう、うめき声や叫び声が響いた。

外に張った軍用テントを本部にして指揮を執ったが、外にまでその声が聞こえた。

屋敷内を確認し、一応帳簿を確認させたり…畑のその後の報告を聞いたりしているうち、3日たった。よほどうまくやってきたんだろう、フルールと関連する情報は、何一つ出てこなかった。

後をラルフに頼んで、早朝、アシルと護送車に付き添って王都への帰路に就く。

途中、救護用のテントに寄った。

丁度朝食の炊き出しが行われていたので、そのまま小休止にした。

救護担当兵に交じって、モニカが忙しそうに怪我人に食事を配っている。

「モニカ?」

声をかけると、振り返ったモニカがにっこりと笑った。

「エリク君、ひと段落したの?」

そう言いながら駆け寄ってきた。

「ご飯食べた?」

僕たちはそっと抜け出して、二人で馬に乗って最後に湖を見にいった。

高台に登って、持ってきた携行食を食べた。

まだ朝早いので、湖面を覆うように朝もやが立ち込めている。

もやの向こうに、ようやく上り始めた朝日がシルエットの様に見える。

「エリク君?」

「ん?」

急に立ち上がったモニカが見ている方を、僕も立ち上がって眺めた。

何か…大きな蛇の頭のようなものが、ゆっくりと水面を分けていく。広がる波紋が、その生き物がいかに大きいかを教えてくれる。背中に当たる辺りは小島のように大きい。

「……」

「……」

僕たちは<それ>がやがてゆっくりともやの中に消えていくのを思わず手を取り合って眺めた。

そして二人で顔を見合わせて、大笑いした。

「あの大きさじゃあ、槍では無理だったな?モニカ」

「あはははっ」