軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 ドラゴン。

「東部から出てきていた子供たちに聞いたのですが、あ…教会で子供たちに絵本のおとぎ話を読み聞かせしたりしていたので」

マテーウス卿が面白がって、モニカに何でも話してみろとそそのかしていた。

モニカのグリーンのタイ姿も見慣れてきた。この子はやはり、緑色が似合うなあ、とエリーアスは思いながら、とんでもないことを言い出したモニカを眺めていた。

「あの子たちのいた村にはとても大きな湖があるらしくて、そこにどうもドラゴンが住み着いているらしいんです。」

「……」

モニカが子供たちに聞いた話は…その湖には昔から100年に一度目撃されるドラゴンがいて、そのドラゴンが出る年は、その後5年間ぐらい災いが続くらしい。もちろん迷信のたぐいだろうと思って聞いていたが…。

そのドラゴンが目撃された年に湖の奥にあった村に行く道が落石で通行できなくなり、舟を出せば転覆し、向かったものは誰も帰ってこなくなった。秋口になるとその村のあったあたりで煙が上がり、その煙を吸うと気持ち悪くて吐いてしまうらしい。

その翌年に、また今年も煙が上がったなあ、と思っていたら、骨と皮ばかりになったやせ衰えた死体が流れ着いてきたらしい。それも1人や2人じゃなく。

気味悪がっていたら、今度は村の若者が連れ去られるようになった。畑に出ていたりすると行方不明になる。違う地区から湖に釣りに来ていた者や、旅人も行方不明になる。

何だろうと思っていたら、またガリガリの死体が上がる。

「ドラゴンに精気を吸われる!」

村人たちは領主にも報告したが、迷信のたぐいだと相手にされなかった。

「ほう。それで村をあげて夜逃げして来たんじゃな?」

マテーウス卿が髭を忙しそうに撫でて頷いている。

「そして、その領主は…東部卿、だね?」

こくん、とモニカが頷く。

「そして…君ならどうする?」

そうマテーウス卿が聞くと…。

「はい。夏季休暇中にお友達とドラゴンの征伐に行こうかと思っています!」

モニカが…ニッコリ笑って楽しそうにそう言った。

***

本気だったんだ…。しかも…ドラゴン征伐だったんだ…。

エリーアスは頭を抱えた。

先日、息抜きにお昼に従業員食堂に行ったら、モニカも来ていた。まあ、モニカが毎食昼に行っているのは知っているけど。

並んで座って、いつものように昼ご飯を食べ始める。今日もモニカは大盛りだ。

「ねえねえ、エリク君は夏季休暇は田舎に帰るの?」

「え?…うーん、特に予定はないなあ」

きらっとモニカの黒い黒曜石のような瞳が光った、気がした。

「じゃあ!私と旅行に行かない?」

「え?」

「一人で行こうかと思っていたんだけど、エリク君が一緒なら力強いっていうか…ダメかな?」

首をかしげながら俺の顔を覗き込むモニカ。黒髪は結い上げてあるが、前髪は自分で切っているらしく、ぱっつんと真っ直ぐ。黒い瞳が俺を覗き込む。

(…な、なんて積極的な発言…あの時、責任は取るって言ってたから???)

エリーアスは悩んだ。まだ婚約もしていない男女が、旅行?二人で?

ドキドキを隠すように、正当化できる理由を考える。

(…いやいや。こいつだって年頃の娘なんだ。一人旅なんて、いくら何でも危ないだろう???だから…俺は行くべきなんじゃないか?死ぬほど忙しいけど。)

「うーん。でもちょうどよく休みが合うかな?」

「そうだよね?ラルフさんに相談しておくね!ありがとう!装備は私が揃えるから任せて!」

そう言って、モニカはほっとしたのか、ものすごい勢いでご飯を食べ始めた。それでも遅いけど。

その時は深く考えなかった。(いや、いろいろ考えたけど。)

大体、装備って…なんだよ?

(…あれか…)

ちらりとラルフを見ると、向こうもチラチラ僕を見て笑いをこらえている。

黙って聞いていたおばあ様まで…ニマニマしているし…。

***

その日の夜、同じ面子を集める。モニカは定時で上がらせた。

(…モニカはどうも、下町の鍛冶屋に行って、頼む物があるらしい。なんだろう?鎧兜なら備品があるしな…。)

念のため、こっそり護衛を付けた。町のチンピラより質の悪い奴がいるから。

モニカの手首に付いた奴の手形を思い出して、イラっとする。

「東部の大きな湖と言えば、スヴェン湖ですね」

そう言いながらアシルが、軍用の地図を広げる。

「夜逃げして来た村は、ここだと思われます。そして、通行できなくなった道がここ。一本道でした。この奥に」

そう言って、アシルが湖の反対側を示す。

「結構な広さの耕地を持つ村があります」

「まさか…国内で栽培されていたとはね。いい具合にフルールに利用された、って感じかなあ?」

マテーウス卿がアシルを見て言った。

「アシルは今回外れるか?お前は東部卿と仲が良かっただろう?」

「……いえ…公私混同はしません」

「だけどさあ…お前さん、自分で東部卿を制圧できる?付き合い長いんだったよね?」

「……はい。」

「まあ、いいや。どちらにせよ軍を出すしかなさそうだよね?」

「そうだな。でも、東部卿の関係者も多いしな…」

エリーアスがそう言うと、ほんの少し考えて、アシルが言った。

「アベルの部隊を演習に出しましょう。」

アベルか?アシルの甥っ子に当たる、モニカの兄だな。まだ若いが優秀で、今、軍の一師団持たせている。

「では、そうと決まれば早めに手を打ちましょう。エリーアスが出発するより前に、演習に。」

立ち上がったおばあ様が、地図を北回りでなぞる。

「国境を閉鎖して、東部卿を囲みましょう。ドラゴン退治は…アシルに任せるわ。それでどうかしら?」

アシルが…おばあ様に跪く。

「それから、エリク君?モニカちゃんに手を出したりしないようにね?ドラゴンより怖いのが出てくるわよ?」

おばあ様がはははっと楽しそうに笑った。