軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61 お説教

楽団が弾く音楽と共に皆、思い思いにダンスを踊る。

所詮は学生たちの、それも学園一年生たちがメインのパーティーだ。

貴族子女が多いとはいえ、その雰囲気はとても軽いものとなっている。

日本人には馴染みがないけれど、アメリカとかで学年の終わりに開かれるアレ。

プロムだったかしら。ああいうパーティーよね、実際。

まぁ、内装とかはあの雰囲気じゃないけど。

物凄く偏見だけど日本人が知るプロムって、だいたい殺人事件の舞台だ。

うん、映画とかでしか知らないものね。

アレと比べれば殺人事件が起きなかった今世はむしろ平和なのでは?

いや、悪役令嬢処刑エンドもあり得たので、実は紙一重なのかもしれない。

「何を考えていらっしゃるんですか、お嬢様」

「ふふ、取り留めもないことを」

フィリップ様に手を取られて、皆に混ざって私たちもダンスを踊る。

ヘレンさんたちは戻っていないままだ。

彼らは、まだ今後についての話を続けるのだろう。

「本当に殿下たちが再起する目があるとお思いなのでしょうか」

「うん?」

「表向きは確かに殿下たちは嫌われていないのでしょう。彼らが思い描いていた理想の姿はお嬢様によって、ひたすら違う解釈をされて認識されてきましたからね。それが結局、彼らの救いになりました」

「ふふふ、そうね」

誰もが羨むヒロインちゃんの逆ハーレムは、男色家たちの溜まり場に。

真実の愛の宣言は、男性同士の愛を貫く宣言に。

ヒロインを皆が肯定する理由は、祝福ではなく哀れみに。

悪役令嬢が失った未来は、新たな人生の門出に。

実は要素を抜き出してみれば、ヘレンさんはきちんと最後まで攻略をし切っている。

ただ起こした事柄の解釈が変わっただけ。

そのお陰でヘレンさんの攻略の裏で苦しむはずだった私は楽しく過ごすことが出来た。

そうしたことで、彼らに苛烈な罰を下す必要もなくなったのだ。

冤罪処刑とか、国外追放とか辛うじてやらかさなかったからね。

「中々に厳しいと思うのです」

「殿下たちがこれから再起すること?」

「はい。少なくともアレクシス殿下を次代の王に担ぐ勢力は今回の騒ぎで、ほぼなくなっているでしょう。後継が期待出来ず、公爵家の後ろ盾を失ったのですから」

「分からないわよ? 貴族家門はそれぞれ色々なことを考えるからね」

「ですが、第二王子殿下は優秀です。陛下たちもご健在で、学ぶ時間もある。なら、やはりアレクシス殿下の目はもうないのではないでしょうか」

「そうかもしれないわね。でも、それで諦めるならそれまでじゃない。それが彼らの人生の選択というだけよ」

もう婚約者ではないので、そこまで責任は持てないかなぁ。

結局、私が動かなかったなら、殿下たちは私を潰そうとしていたワケだし。

意図しなかったとしても私の評判は『婚約者に相手にもされない公爵令嬢』になっていた。

そうしたら学園生活は苦行だったはず。なので、私のやったことに後悔はするまい。

やるかやらないかの戦いであり、先に踏み出したのはあちら側だ。

返り討ちにあったって覚悟の上でしょう?

「そこまで彼らに優しくはないのですね、お嬢様は」

「ふふふ。最後に手を差し伸べるような言葉を掛けたから、私が彼らの再起を願っていると?」

「そうなのかと思っていました。違うのでしょうか」

「そうなったらそうなったで楽しくはあると思うわ。だって、ねぇ? アレクシス殿下がもし再起して王になったなら。きっと歴史には今回の騒ぎが残されるのよ」

「はい……?」

前世でもそういう逸話のある偉人は居たものだ。

実は男色家だったのだ、と。

ほら、織田信長とか松尾芭蕉とか、そう言われているじゃない?

事実はどうだったのかは分からないけれど。

「私はこれ以上の手を出さないけれど。彼らが頑張れる道は残していいでしょう。その程度の話」

学園の一年生。つまり、だいたい高校一年生だ。

やらかしたことの責任は取ってもらうとして、完膚なきまでにその人生を叩き潰すほどでもない。

未来への希望があってもいいだろう。以前よりその歩みが困難になっただけで。

私は別に『回帰』はしていないのだ。

ただ、可能性として悪役令嬢の破滅を知っていたに過ぎない。

それは『起きなかったこと』。ならば、その断罪などあってはならない。

だいたい私にその気があったら、ほら。

ヒロインちゃん入学、即座に抹殺! とか。それが正解ムーブになっちゃうじゃない。

それって楽しくないでしょう?

「……私は、お嬢様に考えるキッカケを与えていただきました。貴女の助言がなければ、彼らの同類のままだった」

「そうね」

シルヴァン様は最初からヘレンさんに近寄っていなかった。

セドリック皇子はどうだったのかしら。

彼に関しては最初から私が介入していたので、放っておいたら別の可能性へ進んでいたのかも。

二人と比べると、フィリップ様は確かにヘレンさんに惹かれていた時期がある。

私が状況を引っ掻き回していなければ、今もフィリップ様は彼女のそばに居ただろう。

「貴女のお陰で私は何も失っていません」

「そうね。フィリップ様は、また宰相の道を目指すの? 宰相閣下は今も貴方に期待していると思うわ」

「……お嬢様はどう思われますか?」

「私? そうねぇ」

ゲーム転生あるある状態の攻略対象のままだったなら『勘弁してちょうだい』と言っていただろう。

アレクシス殿下にせよ、ルドルフ様にせよ、その才能を歪んだ方向に発揮し過ぎだ。

フィリップ様もそうだったなら目も当てられない。

宰相となる者が偏った考えで国王に助言するのだ。

とても国が豊かになるとは思えない。むしろ革命まったなし。

でも、今のフィリップ様はどうかしら?

真面目過ぎて、偏った考えに陥った時のリカバリーが難しく、そのまま突っ走って誰にも止められないタイプだった。

それが……かなり考え方も柔軟になったんじゃない?

アレクシス殿下たちに再起の目を残したなら、フィリップ様にだって当然それは残されている。

彼の場合は宰相閣下の期待まである状態だ。

「もう一度、目指してみたらいいんじゃないかしら。貴方には向いていると思うわ。仕える主が第二王子に変わるかもしれないけど。宰相は宰相でしょう?」

「…………」

フィリップ様が繋いでいる手を少し強めに握ってくる。

ん?

「お嬢様は平民になりたいのですか?」

「私? うーん、ただ貴族の結婚には向いていないだろうなぁ、と思っているだけよ。この国で自由な人生を歩むにはどうしたらいいか、ぐらいしか考えていないわ」

本当、どうするのが正解かしら。

やっぱり王家や公爵家公認の研究部署があって、そこに援助してもらうのが一番?

でも今回の件が終わったから『特殊事案対策記録室』も終わりよね。

お父様やお兄様を口説き落として公爵領の一角にでも住まわせてもらい、のんびり過ごすのが一番現実的な将来設計かしら。

実業家になれるほどの知識は残念ながら、ないのよねぇ。

早晩、私の有益な前世知識は尽きるだろう。

どの道のプロフェッショナルでもなかったのだ。さてさて。

まぁ、まだ学生生活はあと2年もある。おいおい考えていきましょう。

「マリアンヌ様」

「……フィリップ様?」

どうしたの? と返そうとして。

「私は 貴女が好き(・・・・・) です。女性として、異性として、好きなのはマリアンヌ・オードファラン公女です」

「え」

ダンスの最中。フィリップ様はステップを踏みながら告げた。

「ずっと勘違いされたままで困っていました。確かに一時期、アウグスト嬢に惹かれてしまったことは認めます。しかし、もう私の気持ちは彼女にはありません。そして、今の私が好きなのは……お嬢様、貴女なんです」

「…………」

フィリップ様の言葉を聞きながら私が思ったことは。

『告白イベントのシチュエーション、全然違うなぁ』だった。

原作のフィリップ様がヘレンさんに告白する場所はダンスパーティーじゃない。

学園の校舎の屋上で、夜空を見上げながら、そこに流れ星を見た時だ。

一切、被っていないわね……。本当、運命なんてないんだ。

或いはフィリップ様がそれだけ変わったということかしら。

「今すぐにどうこうというワケではありません。マリアンヌ様には、あまりにも私の気持ちが伝わっていなかったので。ただ、そういうつもりであったとだけ」

「……そう」

「……さらに白状します」

ん?

「今日、貴女が着ているドレスは、私が贈ったドレスです」

「このドレスが?」

「はい、父を経由し、公爵に許可を得て。……『青色』のドレスでしょう?」

「ああ……」

確かにそうね。

「もしかして既に外堀を埋めている?」

「……はい」

婚約解消が済んだ身で、青髪・青目のフィリップ様にエスコートされて、青いドレスを着てきた私。

どういう目で見られていたのか。この世界ならば、それは。

「『お説教』とはこのことです。貴女には……ストレートに言わないと伝わらないから。その……そういうことです」

「ふふふ」

一世一代の告白でしょうに。

フィリップ様の告白は、全然ロマンチックじゃなかった。

乙女ゲームのヒーロー感なんてまるでない。

恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、気取るワケでもなく。手も震えている。

流れ星も、花火も、星空を反射する湖もない。

本当に年相応の……男子学生の告白。

こういう国で、こういう世界だから、ドレスの色がどうとかあるし、親の許可とかそういう要素もあるけれど。

それ以外は、てんで『普通』の告白だ。

ダンス中にしれっと言うのは少しはロマンチックかしら?

ううん。やるなら、ダンスが終わった後に片膝を突いてとかよね。

それでこそヒーローの告白というやつだろう。

でも今、目の前に居るフィリップ様は、ただの少年で。

「あはははは!」

「ま、マリアンヌ様?」

だから、 それがいい(・・・・・) のだと思う。

目の前に居る彼は『 攻略対象(ヒーロー) 』なんかじゃない。

一途に一人の女性だけにしか生涯惹かれることがないような、都合のいい存在でもない。

フラフラと別の女性を好きになったり、やっぱり違うと思ったり、フラれたり。

告白だって上手く言えなかったり、ストレートに言う前に、ついつい外堀を埋めてしまったり。

見つめ合うだけで頬を染めて、恥ずかしそうに目を逸らしてしまったり。

握り合った手から伝わる体温は急上昇している。

彼は、ただの少年。

まだまだ若い、学園一年生の『男子』だった。

「──いいわよ、まずはお付き合いから始めましょう?」

「え?」

「婚約とは違う、交際期間を設けましょう。恋人……は行き過ぎとして、そうなる前提の友人から始めましょうか? それでいいなら」

「……! ぜ、ぜひ……よろしくお願いしたい、です!」

「ふふ」

この国、そして私たちの身分なら、まずは『婚約』だろう。

でも、その道を選ばない。

何故なら私の未来はまだ決まっていないから。

爵位を譲ってもらえるかもしれないし、或いは平民になるかもしれない。

今はただ、学生らしい交際を楽しむのもいいでしょう。

無責任と思われても、どうしてもそれが私、マリアンヌ・オードファランだから。

「これからも一緒に人生を楽しみましょう? フィリップ様」

私は笑って、そう告げる。

未来はどうなるかなんて分からない。

何度生まれ変わったって、それが人生というものでしょう?

ただ、これからも様々な出会いを経て、色々なことをして……楽しく生きていきましょう。

その隣に彼が居てもいいと思う。

私は、そんな風に思えたのだ──