軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49 同席

どうやら、色々と佳境に入っているらしい。

いや、こう言おう。

現在、ヘレンさん関連の事態が『修羅場』であると。

締切、もとい断罪パーティーへ向けた追い込み中のようだ。

あと三ヶ月を切っているところでスパートを掛けてきたわね。

ぜひ、新刊を落としてちょうだい。

「ヘレンが何か動き始めたそうですが。どう対処しますか、お嬢様」

「動き始めたといってもねぇ」

基本、悪役令嬢側からヒロインの動きを警戒するとしたら冤罪とかその辺りだろう。

でも、今まで観察してきたところ、殊更に私に不利益な事態が起きるワケではなさそう。

強いて言うならアレクシス殿下たち三人の言動がちょっとアレだなぁ、ぐらいが運命補正だ。

「まぁ、ヘレンさんの行動も記録に残していくとして……」

転生者側が如何様な立ち回りをするのか。

それは今後の参考資料になると思うわ。知らないけど。

バロウ皇国で同様の事態が発生した時には、参考にしてくれるだろう。

「貴方はいいの? フィリップ様」

「何がでしょう?」

「ヘレンさんへの対処なんて。処分するような言い回しだけど。ここから逆転を決めて、殿下たちだけ排除して貴方がヘレンさんをゲット! とか出来ちゃうかもよ」

断罪返しといっても別にヘレンさんたちに苛烈なことをする気はない。

現状だと『別にそこまでしなくても……』な状況だ。

いきなりルドルフ様あたりが暴走して私を殺そうとしてきたとかなら話は変わるけど。

殿下に蔑ろにされた私が立場を追いやられて、なんてパートは丸々なかったのだ。

なので私が関わらないところで幸せになるならどうぞお構いなく、と思ったり。

「……私はもうヘレンに気はありません」

「そうなの? でも、貴方の好みってヘレンさんよねぇ」

「それは!」

好感度アップイベントが途中でなくなっちゃったから、いまいち燃えないのかしら。

攻略対象が自分のルート以外でフェードアウトしたようなものよね。

友達以上恋人未満な気持ちで止まっているのかな。

「……とても誤解があります」

「そうなの?」

「仮に殿下たちが今回の一件で立場を追われ、落ちぶれて、ヘレンが私に擦り寄ってきたとしても拒むと思います」

「あらぁ」

実はヘレンさんへの好感度がマイナスに? バッドエンドルートかしら。

ゲームには別にバッドエンドというか、ヒロインの破滅オチはない。

攻略失敗したら俗に言うノーマルエンド。

つまり、平民のどなたかと結ばれてヒロインはその後も平穏な人生を歩んでいきましたオチだ。

……現実を見ると、実はこれが一番手堅くて幸せな結末のような?

誰もが憧れるエリート男性とのラブロマンスではないけどね。

ちなみに結ばれる平民とは、ロッツォさんのことではない。

名も知れない誰かで、どこで出会うとかも分からない相手だ。

「フィリップ様」

「は、はい」

「ヘレンさんに失望しても刃物で刺したり、監禁したりしたらダメよ?」

「そんなことしませんが!?」

「そう? ならいいのだけど」

ゲームにはないけど、攻略を中途半端にした攻略対象がヤンデレルートに突入するとかありそうよね。

『ヘレン、どうして僕のことを見てくれなくなったんだい……?』とか言って。

転生ヒロインがどんな言い訳しても聞いてくれなくなって、哀れ。監禁オチだ。

原作はアダルトじゃないけど、アダルトな展開になるかもしれない。

それはそれで一部のファンにはご褒美だと思うわね!

薔薇方面じゃないけど、たぶん、今世の価値観でもイケるジャンルだと思う!

「それはそれで中々に面白いわね……。当事者じゃないなら」

「何かよからぬことを考えていらっしゃいませんか、お嬢様」

「未来は無限大だなぁって思っていただけよ」

「彼らの未来はかなり狭まっていると思いますが」

まさかそんな。

ヘレンさんたちは今この国にはなかった未来を開拓している開拓者なのに。

可能性が狭まっているのではない。一点に突き抜けているだけだ。

それにしても今更だけど逆ハーレムルートをやるのってヒロインの立場でもリスクが高過ぎないかしら。

「ヘレンがお嬢様の評判をどうにか落そうと企んでいるのですが、対処しないのですか?」

「周囲がまともに取り合っていなさそうなんだもの。私が動く意味、今のところないんじゃない?」

「……まぁ、そうですが」

ヘレンさんの思惑通りに彼女の言葉を受け取る人は最早、薔薇の会にしか居ない。

なので、そんな彼女が何をしたところで私に攻撃は届かない。

むしろ、上手くいくと思ってしまうことで断罪パーティーまでそのままになるかも。

「それよりミリアーナさんが令嬢たちに引っ張りだこみたいよ」

ミリアーナ・ベルジュ子爵令嬢。

ヒロインの友人枠だった彼女だが、冬イベントを越えて知る人ぞ知る人物になった。

今、彼女の周りには人が溢れているそうだ。

ヘレンさんのところにまで、その噂が流れ着くのか、それからどう反応するのか見物ね。

「そうらしいですね。あとは……いよいよ、レイト侯爵令嬢とルドルフの婚約が解消されると」

「ええ、シルフィーネ様から聞いたわ。流石に私の思い付きに彼女の婚約関係は合わせられないものね」

これでも引き延ばしてもらった方である。

私は紆余曲折あって断罪パーティーの日までアレクシス殿下の婚約者で居続けることを選んだけど。

シルフィーネ様やレイト侯爵家がそれに従う筋合いはない。

陛下の命令もないし、オードファラン公爵家から願うことでもない。

また、彼女の婚約解消にはセドリック皇子とシルフィーネ様の関係発展が影響しているのだろう。

ヘレンさんからのアプローチを躱しつつ、地道に関係性を積み上げていったようだ。

こっちもこっちで、ルドルフ様はいつ気付くのかしら?

シルフィーネ様との関係性は完全に冷え込んでいたと思う。

かつ、彼女を蔑ろにし続けてきたルドルフ様。

あるあるパターンでいうと『それでもシルフィーネは俺様ちゃんの都合のいいように動く! 何故なら俺様ちゃんを愛しているからだ!』とか考えそうなものだ。

はたして、そちらもどうなるのか。

「……そうねぇ。悪役令嬢、しようかしら?」

「何か?」

「シルフィーネ様とセドリック皇子、それからレイト侯爵に話をしに行きましょうか。ルドルフ様のヘイトが私に向くようにしてもいいわ、って」

「は?」

「ふふ」

婚約解消を正式に告げる時に私がその場に居たら、何故かシルフィーネ様じゃなくて私のせいにしそうよね。

いえ、シルフィーネ様のせいでもないので根本からしておかしいのだけど。

私が居ない場所でルドルフ様に婚約解消を告げたら『シルフィーネ、何をばかなことを。嫉妬か? ヘレンとはそんな関係じゃないと言っているだろう!』とか何とかのパターン。

でも、そこに悪役令嬢な私が同席して、ただ微笑んでいると『貴様ぁ! シルフィーネに何を吹き込んだぁ!?』→暴力。

……になるパターン。

護衛を付けてその場を凌いでも、その後は延々と私だけに攻撃的になり、シルフィーネ様に悪意は向かなくなるかも?

という考えをフィリップ様に告げる。

「……それはお嬢様が無駄に危険なのでは?」

「ここまで事態を無駄に引っ掻き回している責任ぐらい取るわよ。友人の危険を減らすためにぐらい、リスクを請け負うわ。それにこれもデータ収集の一環」

「無駄に引っ掻き回している自覚はおありなんですね」

「お黙り、弟子1号」

まぁ、彼らのお怒りが拡散するよりは私だけを憎んでいてもらった方が御しやすいだろう。

これでシルフィーネ様が傷付けられる方が嫌というものだ。

当然、対策は取る。

それに何というか、私以外だと彼らの言動を理解出来ずに遅れを取ると思うのだ。

『え? 何で? こんなこと、常識だから分かるはず……』と一般的には考えるところを彼らが踏み越えてくる意識が足りない。

納得出来なくとも家門同士で話し合いをしているのだから。

きちんと教育を受けた貴族令息なのだから。物事の道理ぐらい分かっているだろう、と。

そういう見立てで彼らを評価してしまう。

それが落とし穴で、暴走モードな彼らに対処出来なくなって酷い事態を招く。

まぁ、私がそれにきちんと対応出来るかは微妙なのだけど。

私だったら『ああ、そのパターンね!』と思うかな、と。

暴走した攻略対象あるあるー、悪役令嬢ものあるあるー、と。

この世界における常識的な感性を持つシルフィーネ様が、彼らの標的になるよりは私が対処した方がマシだろう。彼女もショックが小さいはず。

というワケで。私はシルフィーネ様とルドルフ様の婚約解消が進み、そのことをルドルフ様に告げる場面に同席出来るように手配することにした。

後日。断罪パーティーまで、いよいよ二ヶ月を切った頃合い。

シルフィーネ様、シルヴァン様、レイト侯爵とセドリック皇子たちが居て、ルドルフ様とバーニ伯爵を招いた席に私とフィリップ様は同席する。

「ルドルフ・バーニ伯爵令息。私と貴方の婚約は解消されました」

シルフィーネ様が代表してルドルフ様にそう告げた。