軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 1号

攻略は順調!

ヘレンはそんな風に思っていた。

以前は上手く接触出来なかったシルヴァンとも、この頃はよく話せるようになったし。

登場を危ぶんでいた隠しキャラであるセドリックも、きちんと出てきた。

(シルヴァンは、現実だと学園内に居続けるのはおかしいからこうなったのね、きっと)

シルヴァン・レイトは年上枠のヒーローだ。

既に学園を卒業しており、学園内では元からあまり出会えない。

メインヒーロー五人の中で、最も攻略難易度の高いキャラクターだから、逆ハーレムルートで色々と忙しい状態では攻略が進むのが遅かったのだろう。

ヘレンはそう思ったのだ。

(狩猟祭はたぶん危なかったわ。攻略が遅れたせいで悪役令嬢にシルヴァンを取られるところだったんだもの。でも、こうなったらもう安心ね!)

ヘレンは、いつものようにアレクシスたちと会話しながら『従者のセド・セイン』を名乗るセドリック皇子の攻略を進めている。

逆ハーレムルートといっても通常プレイと同じように、きちんとそれぞれの好感度を高めていく必要があるのだ。

一定値以上の好感度をそれぞれに稼いでおかなければ攻略が完了したことにならない。

(シルヴァンは、まだ攻略が完了したか微妙かも……)

アレクシスたちはもう好感度が最大限に高まっているだろう。

それは彼らの反応で分かる。

だが、シルヴァンはまだまだ他人行儀なところがある。

ヒロインであるヘレンに対して甘い台詞を吐いてくれないし、呼び出しても二回に一回は何かの用事があるといって断ってくるのだ。

まるで付き合いで仕方なく話してくれるだとか、或いは、ヒロインからの攻略に抗っているような感覚だ。

(悪役令嬢のせいだわ……きっと)

悪役令嬢マリアンヌは、現実ではかなり大人しかった。

でも、それはきっと裏で動いていたからなのだ。

初めは隠しキャラであるセドリックをこっそり狙っているかと思ったが、今現在セドリックとマリアンヌが接触したところは見たことがない。

だけれど、どうもシルヴァンとは以前から接触していた節がある。それが狩猟祭の時のあのイレギュラー、バグのような行動なのだろう。

(シルヴァン推しの転生者? フン、でも絶対に渡さないんだから!)

改めてヘレンはそう決意する。

何せ自分には運命が味方しているのだ。

ヒロイン補正や運命の強制力で、アレクシスたちとの逢瀬は周囲からも祝福されている。

(狩猟祭の時に一瞬、悪役令嬢の様子が変だったけど……)

あれももしかしたら運命の強制力なのだろうか。

あそこまで露骨な影響をヘレンは今まで見たことがない。

マリアンヌにしてもあれ、一度きりだ。

(でも、それは攻略が順調だったから? 攻略が上手くいかなかったなら、ああして運命の介入があったのかも?)

とにかく、やっぱりヘレンはこの世界の主人公であり、愛されるべきヒロインなのだ。

きっとこのまま攻略を進めていけば幸せな結末が待っているに違いない。

何故なら今だって周りの生徒たちは、自分たちのことを温かく受け入れている。

当初、警戒していた女子からの虐めもない。

至って平和な学園生活だ。

(祝福されるのは嬉しいけど、嫉妬もされてないっぽいのは少し不満かもね)

せっかくあれだけの美形の異性たちを侍らせているのだ。

もっと悔しそうに、羨ましそうに見てくれてもいいとも思う。

だけれど、そうならないことこそヘレンがヒロインということの証明なのかもしれない。

そのように納得してヘレンは学園生活を送っていた。

「…………は?」

ヘレンはいつも通りに過ごしていて、あることを目撃して目を疑った。

「え? は? え? 何……?」

「どうした、ヘレン」

「る、ルドルフ? 私の見間違いかな? あれって」

ヘレンはある方向を、ある人物を指差す。

「あん? あ……あぁん?? なんだありゃ」

ヘレンとルドルフはその人物のかつての姿を思い浮かべていた。

どう考えても違っている。

そもそも、ゲーム中、そんな変化はなかったはずだ。

しかも、それだけじゃない。

彼の隣に居るのは──

「ふぃ、フィリップ様! あ、あ、貴方、何を、どうして!?」

「……おや、ヘレン。久しぶりです」

ヘレンは思わず彼、フィリップ・ラビスに駆け寄った。

ルドルフも一緒に付いてくる。

「お前、何してんの!? なんだ、その…… 髪型(・・) !」

「はぁ……。相変わらずですね、貴方は」

眼鏡をくいっと上げる仕草も、瞳の色も、髪の色も間違いなくフィリップのものだ。

しかし、その髪型が以前のような特徴的なストレートの長髪と異なっていた。

フィリップの髪は短く切られ、かつルドルフよりも無造作な整い方をしている。

ヘレンから見れば、男性でも長髪が似合う異世界風の美形ではなく、どちらかといえば現代風の、ワックスで髪型を整えた美形へと変わっていた。

トレードマークの知的な雰囲気が少しワイルド寄りになっている。

「か、格好いいけど……なんで?」

「それはどうも」

「お、お前、らしくねぇじゃねぇか……?」

「はぁ。髪型を変えただけなのですが」

たったそれだけで大げさな。フィリップは呆れたようにヘレンとルドルフを見る。

「ふふふ、何事もまずは形から入るものよ。いい反応がもらえて良かったじゃない」

「……マリアンヌ様、そうですかね」

そうだ。

ヘレンが慌ててフィリップの下へ駆けてきたのは彼があろうことか、悪役令嬢マリアンヌのそばに居たからである。

ヘレンは、キッとマリアンヌを睨み付け、文句を言ってやろうと思った。

攻略対象がヒロインに断りもなく、こんな風に髪型を勝手に変えるなんて聞いたことがない。

それに今のやり取りから原因がマリアンヌにあることは明らかだった。

ヘレンが口を開こうとしたところ。

「じゃあ、挨拶したら行くわよ、 弟子1号(・・・・) 」

「はい、 お嬢様(・・・) 」

「……は?」

「はぁ?」

あまりにも予想外過ぎるやり取りに絶句してしまった。

「え、何? 何が? 意味分かんないんだけど?」

ヘレンも思わず素になる。

その反応を受けて、マリアンヌは コテンと(・・・・) 首を傾げた(・・・・・) 。

「フィリップ様は私に弟子入りしたのよ? 人生を見つめ直したいんですって。なので色々と心機一転中。ついでに私の従者としてもオードファランで雇うことになったの。これから新生フィリップ様をよろしくね、皆さん。じゃあ、行くわよ、弟子1号」

「はい、お嬢様」

「いや、その呼び方は何だよ!?」

ルドルフが心から叫ぶようにそう指摘する。

「私の弟子1号だからそう呼んでいるのだけど?」

何がおかしいのか、とでも言いたげなマリアンヌにルドルフもヘレンも言葉を失う。

「じゃあ、ごきげんよう」

そうしている間ににこやかにマリアンヌたちは彼らの下から遠ざかっていった。